2019年6月14日 (金)

遺族厚生年金をめぐる行政訴訟で勝訴判決を得ました

国を相手にした行政訴訟で、勝訴の判決を得ました。地方裁判所(大阪地裁)の判決でしたが、被告の国と補助参加人の戸籍上の妻は控訴せず、判決は確定しました。控訴がされなかったのは、こちらから証拠を十分に出せたことや、地裁裁判官が丁寧な事実認定と法的判断を判決に書いたことがあると思います。法律雑誌等に紹介されると思いますが、同様の問題を抱えておられる人もあるかと思いますので、ケースをご説明します。

男性は、内縁の妻と夫婦として生活されてきましたが、病気で死亡されました。戸籍上の妻とは、7年8か月の間別居で、この間、2度の離婚調停がありましたが、まとまらず、死亡時は男性が提訴した離婚訴訟が進んでいました。内縁の妻と戸籍上の妻は、ともに遺族厚生年金の請求手続を行い、行政は戸籍上の妻に受給権を認めました。私は、離婚訴訟のときに男性の代理人を務めていた関係で、内縁の妻から相談を受け、国の処分の取消しを求める裁判を提訴しました。

この度、大阪地裁は、行政の処分を取り消して、内縁の妻に年金を支払うようにとの判決を出しました。このあと、内縁の妻は、男性の死亡時に遡って、遺族年金を受けとることができます。他方、戸籍上の妻はこれまでに受領した年金を国に返すことになります。

裁判の争点は、戸籍上の婚姻関係が実態を失って形骸化しているか否かの点でした。というのは、遺族厚生年金は被保険者の死亡によって遺族の生活の安定が損なわれることを防止することにありますので、籍が入っていない内縁の妻も年金を受給できることが法律で定められています。問題は、内縁の妻と戸籍上の妻の両方がいる場合であり、どちらに権利があるかが、これまでから幾つもの裁判で争われてきました。

裁判所は、法律上の婚姻制度と年金制度の趣旨の両方を考慮して、「法律上の婚姻が、実態を失って形骸化していて、事実上の離婚状態にある場合は、内縁の妻に年金受給権を認める」としています。法律上の婚姻が破綻しているから内縁の妻に支給しても婚姻法の秩序に抵触しないという考え方です。そこで、本件でも、「男性と戸籍上の妻との婚姻関係が破綻しているか否か」が審理の対象でした。破綻しているかどうかは、別居の経緯、期間、婚姻関係を維持あるいは修復するための努力、経済的な依存の状況、継続的な音信・訪問の有無、重婚的内縁関係の固定性などの点が考慮されます。

行政は、判断基準を設けていますが、別居期間についておおむね10年以上としています。本件は7年8か月程度であったこともあり、行政は、内縁の妻の受給権を否定しました。ただ、この10年というのは、あくまでも目安ですので、これまでから6年10か月のケースで、別居期間は比較的長期であり、婚姻関係は破綻していると認めた裁判例もありました(大阪地裁平成27年10月2日)。本件は7年8か月でしたが、裁判所は、相当程度長期であるとして、他の理由と合わせて婚姻関係は破綻していることを認めました。このように、行政が受給権を認めない場合でも、裁判所に持ち込めば、異なる判断をもらえる可能性はあります。お困りのときは、弁護士に相談していただくのがよいと思います。(弁護士 松森 彬)

2019年4月13日 (土)

遺言はどのくらい書かれているか

1 これまで日本では、内縁の夫婦などを別にして、遺言を書くことは多くなかったように思います。ただ、最近は、公正証書遺言の作成件数が10年前の1.5倍になったという報道もあり、増えていると言います。一体どの位の人が遺言を書いているかを調べてみました。

2 遺言は、公正証書遺言と自筆証書遺言があります。公正証書遺言の方が多く、2017年に作成された件数は11万0191件でした。2007年が7万4160件でしたので、公正証書遺言を作る人が10年で5割増えています。

また、自筆証書遺言は、毎年の作成件数はわかりませんが、死後に家裁へ提出して検認する必要がありますので、検認の件数を調べると、2017年は1万7394件でした。2007年は1万3309件で、1997年は8895件でした。死亡者数に占める割合は、1997年は死亡者91万人の1.0%でしたが、2017年は死亡者134万人の1.3%ですから、率が増えてはいます。ただ、それでも全体の1.3%です。

3 公正証書遺言は、自筆証書遺言の5~6倍程度多く作られているようですので、死亡者の7%程度でしょうか。自筆証書遺言の1.3%と公正証書遺言の約7%を足した約8%程度が、わが国で最近作成されている遺言の割合ということになると思います。

4 この約8%程度という割合は、次の検討からも言えると思います。すなわち、公正証書遺言が年間約11万件作成され、また、自筆証書遺言が年間約1万7000件程度作成されたとして(この数字は検認の件数ですが、今の作成はもっと多いと思われますので)、合わせておおよそ年間約13万件の遺言が作成されているようです。亡くなった人は、2017年の場合、年間134万人です。2017年に遺言を書いた約13万人が亡くなるのは将来で、将来はもっと死亡者数が増えると思われますので、遺言を書く人は全体の1割弱程度ということが言えそうです。また、2017年の65歳以上の高齢者人口は3515万人(人口全体の28%)です。遺言を書くことが多いと思われる60歳から80歳位までの人が毎年約13万人ずつ遺言を書くと、20年間の遺言の総数は260万件になります。これは3515万人の高齢者人口の約7%にあたります。

5 このようにみますと、最近は1割弱の人が遺言を書くようになっていると言えそうです。私は、遺言を書く人はもっと少ないと思っていました。遺言を書く人は結構増えているなと思います。

6 相続や遺言をどう考えるかは、人によっていろいろな考えがあると思いますが、私は、法律も、どういう理念でできているのかが、あいまいであると思います。たとえば遺言を望ましいと考えているのか、あるいは法定相続を原則の形と考えているのか、はっきりしません。それは、相続と遺言についての法律制度が、歴史的にさまざまあるからのようです。遺言は、古代のローマ法の時代からあったといいます。イギリスやアメリカでは遺言を書く人が多いといいますが、ドイツはそれほど使われていないとも聞きます。日本でも江戸時代に遺言に似た制度があったといいますが、明治時代以降は、遺言はあまり使われていません。財産は生前に使い切ろうと、ドブに捨てようと、全部寄付しようと、個人の自由であると言いますが、個人の財産処分の自由をどこまで認めるか、また、家族の財産保護を考えて遺留分制度を設けるかなど、国により、また時代により色々な考え方があるようです。個人の財産処分の自由の考え方に立てば、遺言による死後の財産の処分を自由に認めてよいという考え方になりますが、他方、家族にも財産について権利がある場合もあるでしょうし、また、子に渡すときは平等に扱うのが人間の平等という理念からは望ましいともいえます。今の法律は、遺留分という一定の制限は設けながら、遺言で自由に処分ができることを認めているのですが、他方で、法律は、遺言がなければ平等な相続分にするとしています。いくつもの価値観が折衷されてできている制度であるように思います。相続をめぐる紛争が少なくないのは、国として相続制度の適切なあり方や使い方について検討や情報提供が十分にできていないことも影響していると思います。(弁護士 松森 彬)

 

遺言があるために、もめることがあります

1 最近、遺言について書いた記事が週刊誌などにたくさん出ています。高齢化社会になり、関心を持つ人が増えているためと思われます。記事の多くは、遺言を勧めており、なかには「遺言は書くのが常識」とあおっているものもあります。しかし、私は、遺言は内縁の夫婦や子のないときなど書いておく必要がある場合もありますが、必ず書くべきであるとまでは思いません。それは、遺言をめぐる争いをたくさん見てきたからです。遺言を書くように言うのは、公正証書遺言を書くのを職業にしている公証人や、弁護士以外の士業の人が多いように思います。弁護士は、書く場合も、もめないように工夫すること、たとえば生前から話しておくように助言する人が多いように思います。

2 週刊朝日が「死後の手続き」というシリーズで遺言を取り上げていて、取材があり、遺言をめぐる紛争を説明しました。また、大阪弁護士会の「遺言・相続センター」が出している「遺言相続の落とし穴」という本を紹介しまして、遺言の危険性も書いてほしいと言いました。週刊朝日の2019年3月15日号に私の説明が掲載されましたので、ご紹介します。

■遺言に対する全般的な考え

 「子どもがいなくて配偶者にすべて相続させたい場合や、事業資産を特定の後継ぎに承継させたい場合など、遺言が効果的なケースはあります。一方で、相続人が配偶者と子だけで、子に平等に相続させたければ遺言は不要といえます。どの財産をだれに、と指定したい点もあるかもしれませんが、事情が変わる場合もあり、かえってもめる恐れがあります。遺言があれば紛争にならない、と考えるのは早計です。遺言は、それが原因でもめることも覚悟のうえで、自分の遺志として残したい内容があるかをよく考えて作るべきだと思います」

■遺言があるともめる理由

「①書いてから死亡まで、数年あるいは10年以上も経過します。その間に介護など様々な事情が変わり、内容の妥当性が失われることがあり、相続人が不満を持ちます。②遺留分制度がありますので、遺言のとおりにはできるとは限りません。また、遺留分が確保されても、多い人と少ない人ではかなり差がつきますので、不満が出ることがあります。③遺言を書く人と相続人の間で、差を設ける理由や土地の評価などについて認識にズレのあることがあります。④複数いる子の一人が親に遺言の作成を頼む場合があり、親の本意かどうかが微妙で、そのような場合も紛争になることが多いと思います。」

■遺言より生前のコミュニケーションを

 「遺言を書く場合は、相続人の間で差をつける分け方を指定することが多いと思います。ただ、その分け方の理由を書いても、納得しない相続人が出てきます。生前から口頭で考えを伝え、了解を得るのがよいでしょう。遺言に頼るのではなく、生前のコミュニケーションに力を入れることが大事だと思います。また、遺言は、状況の変化に応じて書き換えることも必要ですが、公正証書遺言は費用や手間がかかることもあって、何度も作成するのは面倒です。それが相続の争いを生む一因にもなっています」

3 エンディングノートの勧め

私は、遺言は必要があるときに書くのがよいと思いますが、エンディングノートは、できるだけ書いておくのがよいと思います。エンディングノートは、いざというときのために、終末期医療についての希望、葬儀の仕方、親族、友人、銀行口座その他財産の明細などを記載するものです。遺言は残さず、エンディングノートに財産の明細を記載して相続人で仲良く協議して分割することを求めるのも、紛争を生まない一つの方法だと思います。なお、エンディングノートに財産の分け方について書くと、自筆証書遺言に当たらないかという問題が生じます。遺言として書くときは正式に遺言として書くことにして、エンディングノートには具体的な財産の分け方について書くのは避けるべきです。(弁護士 松森 彬)

 

2019年2月27日 (水)

刑事事件の弁護士費用が出る保険ができました

  今年(2019年)1月、新たに、自動車を運転中に事故を起こして刑事事件になるときに、弁護士の相談費用や裁判費用が出る保険ができました。これは、損害保険ジャパンが販売を始めたもので、自動車保険の特約として付けることになります。

 一般に、自動車保険に入っていれば、被害者に払う損害賠償金と裁判を起こされて弁護士に頼むときの裁判費用も保険から出ます。また、弁護士費用特約を付けていますと、自身が被害者となり、ケガをしたり車両が傷んだりして損害賠償請求を弁護士に委任する費用も保険から出ます。しかし、刑事事件になり捜査や裁判を受けるときに弁護を依頼する費用が出る保険は、これまでありませんでした。刑事裁判の弁護士費用は、以前大阪弁護士会の司法制度の委員会で実情の調査をしたことがありますが、平均的な事件で着手金が30万円程度、そして執行猶予が付くと報酬金が30万円程度でした。新たに発売された保険では、この刑事裁判費用も一定の基準のもとで保険でまかなえることになります。

今のところ、この保険を扱っているのは損害保険ジャパンだけですが、この弁護士費用保険の特約を付けておくと、弁護費用の全部又は一部が保険から支払ってもらえることになります。保険料は、年間3800円です(民事事件の弁護士費用も対象に入っています)。自動車事故だけでなく、日常生活で被害を受けた事故も含めて弁護費用が出る種類の特約もあり、その場合は年間6000円です。 

ヨーロッパでは、国民の多くが裁判費用の保険に入っています。昨年、日弁連の委員会(リーガル・アクセス・センター)の委員がスウェーデンの権利保護保険(ヨーロッパでは弁護士費用保険のことを権利保護保険といいます)の調査に行ってこられました。スウェーデンでは、96%の国民が権利保護保険に入っているそうです(日弁連の2019年1月号の新聞)。イギリスやドイツなどでも弁護士に頼んで権利を守ることができる権利保護保険に入っている人が多いのですが(10年程前の数字ですがイギリスでは約6割、ドイツでは約4割と聞いています)、スウェーデンの96%という加入率には驚かされます。スウェーデンは、従前は法律扶助制度により裁判費用をカバーしていましたが、1997年からは法律扶助に絞りをかけ、保険による支払に移行してきているようです。
 日本では、弁護士費用の保険は、一部の保険を除いてほとんどは自動車事故や日常生活の事故に限られていますが、ヨーロッパでは、不動産の問題や離婚の裁判でも弁護士費用が保険から出ます。そういう保険があれば、問題があって泣き寝入りをすることは格段に減ると思います。日本は医療の分野では国民皆保険が実現していますが、司法の分野は保険の整備が遅れています。今回、自動車事故の刑事裁判を対象とする保険ができたことは、少しですが一歩前進といえます。(弁護士 松森 彬)

2019年1月27日 (日)

高裁の裁判の仕方(民事控訴審の訴訟活動)

1 民事控訴審の充実のために

 

2018年11月16日、大阪弁護会館で、「弁護士は民事控訴審においてどのように訴訟活動をすべきか」をテーマにしたシンポジウムが開かれました。私は、このシンポジウムを開催した委員会の委員でしたので、要点をご紹介します。
 このシンポジウムを開催したねらいは、次のとおりです。民事控訴審では裁判所の主導で事後審的運営と呼ばれる審理方式が進んでおり、当事者・代理人から不満が出ていますが、それについては近畿弁護士会連合会は2018年8月3日に民事控訴審の審理に関する意見書を発表しました。これは裁判所に対する注文でしたが、この検討をするときに、訴訟代理人である弁護士にも民事控訴審の充実のために求められることもあるのではないかという指摘があり、このシンポジウムでは代理人に求められることをまとめたものです。
訴訟代理人に求められることを拾い出すために、控訴審の訴訟活動が功を奏して逆転の勝訴判決又は勝訴的和解を得たケースを調べることにしました。会員へのアンケートで約30例の提出があり、委員会ではそれを分析しました。また、従前行われた高裁裁判長の講演録を読み、また、当日講演をお願いした中村哲・元大阪高裁裁判長の他、多数の高裁の裁判長経験者からご意見をお聞きして、参考にさせていただきました。
 なお、近弁連の意見書にあるように、原則第1回期日で結審するという今の方式が見直されれば、代理人が気を付けなければいけない点は減りますが、とりあえず、今の裁判所の事後審的運営を前提にして弁護士に求められる訴訟活動が提案されました。

2 控訴審で求められる訴訟活動
(1)早くとりかかる
一審判決の事実認定や法的解釈が納得いかないときに控訴するわけですが、控訴の理由を書いた控訴理由書を50日以内に提出する必要があります。又、第1回期日は控訴してから3か月前後で開かれます。そこで、控訴を決めたときは、すぐに控訴審での主張と追加の立証の準備にかかることが必要です。

今の控訴審は、第1回期日の前日又は数日前に裁判官3人による合議をして、心証を固めるようですから、それまでに主張と証拠を出しておく必要があります。控訴理由書の提出や証拠の提出が遅れるときは、あらかじめその旨を裁判所に申し出ておくことが大事です。

 

(2)リセットして見直す
 控訴するときは、一審での主張や立証がそれでよかったかを見直し、一度リセットして組み立てることが必要です。私の事務所では、昨年暮れに控訴審で逆転勝訴の判決を得ましたが、これは地裁では別の弁護士が担当されて敗訴し、控訴審から受任した事件でした。代理人が変わることで、主張と立証を全面的に見直し、それが功を奏したと思います。代理人が変わることは少なく、同じ代理人であることがふつうですが、その場合も、主張立証は十分であったかを虚心に検討して取り組むことが必要だと思います。

(3)追加の証拠
 控訴審で逆転勝訴した事件の多くは、控訴審で追加して証拠を出しています(関係者の証言や陳述書、あるいは文献、医師の鑑定書や学者の意見書など)。そのことが示すように、追加の証拠を出すことが控訴審で功を奏する結果につながることが多いといえます。これらの用意は一定の時間が要ることですので、控訴したときは、直ちに取りかかる必要があります。

 

(4)控訴理由書が大事
 高裁の裁判官は、独自に記録を読んで一審判決が正しいかどうかを考えると言いますが、なかには一審判決と控訴理由書を先に読む裁判官もあるようです。控訴理由書が説得力のあるものかどうかは、やはり重要です。

 

(5)第1回期日にコミュニケーションを
 近弁連の意見書は、最近は、裁判官と当事者とのコミュニケーション、意思疎通ができていないことを指摘し、第1回期日に、争点や審理の仕方についてコミュニケーションを交わすことを求めています。代理人も、第1回期日に、これらの点について発言し、裁判官と意見を交わすことが大事です。
(大阪弁護士会月刊誌2018年12月号45,46頁に今川忠弁護士がシンポジウムの概略を書いておられます)。(弁護士 松森 彬)

 

2019年1月15日 (火)

「親切な裁判」と「不親切な裁判」

 長い間、続いていた離婚訴訟が、大阪高裁の裁判官の尽力で、昨年、和解(合意による訴訟終了)により終了しました。この件で、私は、「妥当な判断」と「親切な裁判」が当事者にとって如何に有り難いものであるかを痛感しました。

 裁判は、夫が別の女性と同棲し、妻に離婚を求めたものでした。私は、妻から委任を受けました。妻は、離婚を拒否しており、裁判による離婚が認められるかという争点があったうえ、暴力や財産をめぐって事実を解明するべき問題が多く、家庭裁判所の調停と訴訟で4年かかりました。家裁は、夫婦間の財産の争いのいくつかを民事事件であるとして地裁に移送していましたので、妻は地裁での訴訟も抱えていました。家裁の判決は、妻からみると夫の言い分を不当に取り入れたものであり、妻は高裁の判断を仰ぐため控訴しました。

 大阪高裁には14の部がありますが、この事件が係属した部の裁判長は、第1回の期日に、審理の継続を決めるとともに、「時間がかかっているので裁判所で和解案を提案したいがどうか」と発言され、「和解案は、高裁の事件だけを解決する案と、地裁で係属中の事件も含めて解決する案の二つを作って提案する」とのことでした。地裁で審理中の事件も一緒でなければ当事者にとって合意による係争終了は考えにくいことでしたから、この提案は当事者双方にとって有り難いことでした。

 

 地裁に係属している裁判の準備書面と証拠は高裁にありませんので、夫側と妻側がそれぞれ書類の写しを高裁に提出し、高裁の裁判官らは、それを読んでそちらの件の和解案も考えるとのことでした。
 書類を提出して約1か月後に、高裁から2通りの和解案が双方に示されました。双方は、地裁の事件も含めて一挙に解決する和解を希望し、2回協議した結果、修正した案で和解が成立しました。

 裁判官は、公務員であり、事件をたくさん解決したからといって給料が増えるわけではありません。割り当てられた手持ちの裁判記録に加えて別の裁判の記録を読むというのは仕事を余計にすることになります。それでも、この裁判長らは、当事者が困っているだろうという思いから、手間をいとわずに係争の解決に尽力されました。
 すべての裁判官が、このように親切であれば、国民の裁判所に対する敬意と感謝、そして信頼はもっと高まると思いました。

 私は、同じこの事件で、逆に「裁判所の不親切」も経験しました。第1審の家裁の裁判官ら(合議体)は、夫婦間の或る財産問題(夫から妻への毎月一定額の支払の約束)について約2年間、審理をしておきながら、判決で、夫婦間の債権債務の存否は家事事件ではなく民事事件であり地方裁判所で審理されるべきであるとして、離婚事件では判断しないとしました。そこで、妻は地裁に改めて提訴して、一から審理することになりました。家裁の判断の当否に疑問がありますが、仮に、家裁の裁判官が、そのように解釈するのであれば、2年間の審理中に判断を示すべきであったと思います。今回は、たまたま親切な高裁の裁判官に当たったので一挙に解決ができましたが、そうでなければ、解決の遅れにつながったと思います。
 

 このように、裁判官次第で「親切な裁判」もできるのですが、「不親切な裁判」も行われています。アメリカでは、国民の裁判所に対する信頼が高いと聞きます。裁判所に行けば納得のいく手続と結果が期待できるというイメージがあるのでしょうか。最近の高裁は、何も言わずに1回で結審して、なかには逆転判決をすることもあり、弁護士には、高裁は何を考えているか、何をするかわからないので怖いという人もあります。裁判所は怖がられるところではなく、この裁判官らが実践されたように、親切で、感謝されるところであってもらいたいと改めて思います。(弁護士 松森 彬)

 

 

 

2018年11月15日 (木)

外国法事務弁護士(外弁)の今

外国の弁護士は、法務省の承認を得て、日弁連に「外国法事務弁護士」の登録をすることにより、日本で外国法に関する仕事をすることができます。日本法に関する仕事はできません。この外国法事務弁護士(略して「外弁」と言われます)の制度ができて、今年30年になります。

渉外法律業務の需要が高まってきたことと、アメリカなどから法律業務についての自由化を求められたことから、1986年(昭和61年)にこの制度ができました。外国の弁護士資格を持っているといっても日本法の知識がありませんので、日本法についての仕事や訴訟はできないことにされました。また、互いの国が同等に外国の弁護士を受け入れているという相互主義も要件にされました。ただ、その後も規制緩和の要請があり、私が日弁連の理事を2度したときも、外弁制度をどうしていくかは日弁連が頭を悩ますテーマの1つでした。

外弁制度は、度重ねる改正があり、現在では、日本の弁護士と共同事業をしたり、日本の弁護士を雇用したりすることもできるようになっています。世界的にみても、開放度の高い外国弁護士の受け入れ制度になっていると言えるようです。そのなかにあって、この制度が懸念された問題を生ずることなく需要に対応してきていることは、この間、日弁連、法務省をはじめ多くの関係者による丁寧な議論と検討があったからではないかと思います。

外弁の人数は、2018年7月1日現在、411人です。アメリカの弁護士が220人、イギリスの弁護士が78人、中華人民共和国の弁護士が36人、オーストラリアの弁護士が27人で、この4か国の登録者で8割を超えます。登録先はほとんどが東京で381人、大阪は10人、愛知県は5人です。仕事は、海外との商取引、企業の買収、投資などについての法律業務が多いようです。

日弁連の機関誌「自由と正義」(2018年10月号)に外弁制度30年の特集が組まれていました。そこに、中国の外弁が増えているという指摘がありました。増えている理由は、1つは中国の弁護士試験の変更で弁護士が増えていることと、中国企業の海外投資が増えたことではないかと言われています。

日弁連が頭を悩ましてきた外弁制度ですが、おおむね順調に来ているようです。(弁護士 松森 彬)

2018年10月 1日 (月)

司法の国民的基盤をどう育てるか(司法シンポジウムが開かれました)

先週土曜日は、日弁連主催の「司法シンポジウム」(第28回)があり、大阪弁護士会でもテレビ中継がありました。2年前の司法シンポジウムで、司法は国民的な基盤を持つことが重要であることが確認されましたが、今回は、その実践のための課題として、次の4つのテーマが取り上げられました。

1つは、裁判官制度の国民的基盤の1つである「弁護士任官制度」の現状と課題です。

英米では、裁判官はすべて弁護士経験者のなかから優れた人が選任されます。韓国も、最近、その制度(「法曹一元制度」)に変えました。日本は、司法試験に合格したあと、すぐに裁判官と弁護士、検事に分かれますが、裁判官の多様性を高めるため、司法改革で、弁護士からも多数の裁判官を選任する「弁護士任官制度」が決まりました。現在、裁判官の数は全部で3000人ですが、日弁連は毎年30人ずつ任官者を選ぶことを目標にしました。ただ、弁護士で裁判官になることを希望する人が少なく、最近は年間1人から3人という少なさです。広報活動なども行っているのですが、希望者が少ないうえ、裁判所が審査で受け入れない例も多く、「弁護士任官制度」の根本的な改革が求められます。シンポジウムでは、弁護士から裁判官になった人が多数出演するDVDが上映されました。弁護士経験が裁判官の仕事に役に立っているという話しが印象的でした。

2つは、司法改革でできた「裁判員制度」の現状と課題です。

この10年間に裁判員裁判で判決を受けた被告人の数は1万人を超えました。犯罪名は強盗致傷と殺人が多く、この2つで全体の半数になります。シンポジウムでは、裁判員経験者による交流会が全国に7つもあるとの報告がありました。裁判員制度については、経験してよかったと感想を述べる人が96%にもなりますが、裁判員候補者に選ばれても裁判所に行かない人が3人に1人にもなるようです。法律上は国民の義務ですが、勤務先の理解が得られないなどの理由から辞退を希望する人が少なくありません。裁判所によっては、呼出状に勤務先の協力を求める書面や裁判員経験者の感想文などを入れたりして、理解を求める努力をしているようです。裁判員を経験した人が周りに色々話すことができれば、裁判が国民に身近になると思いますが、今の守秘義務の範囲があいまいで、制度の啓蒙や広報の妨げになっていると思われます。裁判員制度は来年(2019年)5月に制度開始から10年を迎えます。日本の法律と司法は、明治時代に西洋から輸入したもので、国民の信頼を土台にしているとはいいがたいところがありましたが、そのイメージを変えていくために、裁判員制度は今後も大きな役割を果たすように思います。

他に、生徒、学生等に対する「法教育」の取り組みのテーマと、「市民と司法をつなぐ取り組み(マスメディアの役割など)」のテーマが取り上げられました(私は他の用事で参加できませんでした)。

日弁連は、1973年に大阪で第1回の司法シンポジウムを開きました。テーマは、裁判の遅延と裁判官の増員でした。そのときは私は弁護士になった2年目で、その会議は覚えていませんが、司法制度のあり方には関心がありましたので、その後、何度か実行委員にもなりました。弁護士会は、一貫して司法のあるべき姿と市民のための司法の実現について議論してきたと思います。今後も、その視点での活動が求められていると思います。(弁護士 松森 彬)

2018年9月25日 (火)

木内道祥元最高裁判事の講演をお聞きして

今日は、弁護士会の研修で、昨年まで最高裁判事をされていた木内道祥(きうちみちよし)弁護士が「最高裁判事として考えたこと(上告棄却・上告不受理事件を題材にして)」と題して講演されましたので、聞いてきました。

木内さんは、私も弁護士会の委員会などでよく存じ上げている大阪の弁護士で、人柄も能力も立派な方です。今日は、最初に、「裁判は、細い管を通して社会を見る仕事だと思った」との感想を述べられました。

そして、最高裁には年間約9000件の事件が挙がってくるが、最高裁に上告する理由は法律で制限されているので、最高裁が実質的に判断する事件は限られており、多くは簡単な理由(いわゆる三行半)で棄却又は不受理になるとの説明でした。

木内さんは、判例集などに掲載された有名な事件(家族法、消費者法、倒産法などの事件やNHK受信料の事件)で反対意見や個別意見を書いておられますが、今日は、上告を棄却したり、上告を受理しなかった事件のなかから、裁判記録を読んで地裁と高裁の裁判について感じたことをお話しになりました。

印象的だったお話しを書きますと、地裁の裁判には、法律を知らずに間違った判決や、非常識な事実認定がされた判決や、裁判官のセンスが悪く、解決になっていない判決などがあったということです。そのような地裁の判決は控訴されて多くは高裁で是正されるのですが、高裁の裁判も問題だと思うことがあるようです。

高裁の裁判の1番の問題は、地裁と違う争点で逆転の判決を出す不意打ちの裁判であるとのお話しでした。具体例として、最高裁が平成29年1月31日に、「節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに縁組が無効であるとはいえない」とする判決を出した事件をあげられました。1審の地裁は節税のための養子縁組も有効であると判断しましたが、控訴審の高裁は無効としました。最高裁は、有効であると判断し、法令違反として高裁判決を破棄しました。木内さんは、高裁では判断を逆転させた論点を意識した審理がされておらず、不意打ちではないかと思ったとのことです。同じように感じた事件は他にもあったとのことです。事実認定をするのは高裁までで、最高裁は事実認定はできないので、高裁までの事実審理がしっかりできていないときは困ったと言っておられました。

近畿弁護士会連合会は、今年8月3日に高裁の審理の充実を求める意見書を全国の高裁に送りましたが、木内さんも最高裁で裁判記録を読みながら、同じような感想を持たれたようです。木内さんは、刑事裁判は裁判員制度の導入で争点を明確にした裁判をするようになっているが、民事裁判は後れているのではないかと指摘されました。最近1回で結審することが増えている高裁の裁判ですが、もっと当事者(国民、代理人弁護士)とのコミュニケーション、意思疎通をはかり、不意打ちというような印象を与えない裁判が望まれると思います。(弁護士 松森 彬)

2018年8月 3日 (金)

離婚訴訟で問題になる点

毎年この時期は弁護士会が主催する夏期研修があります。今日は、「離婚訴訟の進め方」がテーマでした。最近の離婚訴訟の実情や問題について、講師(園部伸之判事)のお話しを聞いてきました。

離婚訴訟で争点になるのは、離婚をするか否かだけでなく、慰謝料や財産分与をどうするか、子の親権者や監護者をどちらにするか、子との面会をどうするかなども決める必要があります。自宅がローン付きの場合にどう分けるか、あるいは不貞の相手に対する慰謝料請求をどう決めるかなどの問題があることもあります。

弁護士と裁判官は、これらの多数の問題を、どのような手続で、どう取り上げて解決をはかるかに心を砕くことになります。全部の一体解決が望ましいですが、親権者や面会の問題が一番対立しているようなときは、それを別の調停手続にして先に解決をはかることもあります。

最近、離婚訴訟は長くかかる事件が増えていますが、原因は財産分与の紛争が増えているからだと思うとの講師の説明でした。夫婦が結婚してからできた不動産や預金などの財産は夫婦で分けることになりますが、結婚前から持っていた財産や親から相続した財産などは分与の対象にはなりません。そこで、財産分与の対象になるかどうかがまず問題になります。また、相手が管理している財産を明らかにしないこともあります。そのようなときは、裁判所に申し立てて銀行などへの調査を依頼することができます。

親権者・監護者について争いがあることもあります。どちらが親権者や看護者になるのが適切かについて裁判所の調査官が調査をします。10歳以上の子の場合は子の意見を聞くこともあります。

裁判官が和解案を作って双方に提案し、双方が受け入れて解決することもありますが、和解がまとまらないときは、本人尋問をします。本人尋問では、双方が経過を予め陳述書に書いて出したうえ、1時間位、法廷で証言をすることになります。

民法や人事訴訟法などの法律は、離婚を認める基準や裁判手続の一般的なことを決めているだけですので、実際の裁判で、どのように進めるかは、裁判官と弁護士がどれだけ知恵を絞り、努力するかで決まってきます。今日の講師を務められた裁判官は10年目の若い方でしたが、代理人・当事者と一緒に、できるだけ納得のいく手続をしようとしておられるのがわかりました。実務家のやりがいや責任を感じた研修でした。(弁護士 松森 彬)

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