2018年1月18日 (木)

裁判所の所持品検査の問題

大阪地裁は、今年1月9日から所持品検査を始めました。裁判所の玄関に、空港にあるような金属探知機が置かれ、そこを通って入ることになります。朝日新聞の正月明けの大阪版に記事が出ていましたが、ご存知でない方も多いと思います。大阪弁護士会は、問題や弊害を指摘して慎重な検討を求めていましたが、実施されました。私は、昨日、その光景を見まして、これまでの静かで穏やかであった裁判所玄関とは異なる物々しい雰囲気に驚きました。

裁判所での所持品検査は、最初は、東京地裁でオーム真理教の裁判のときに始まったと思います。ただ、裁判が終わったあとも続いています。その後、札幌や福岡でも始まり、今年から大阪、仙台などでも始めたようです。最高裁の事務局が数年がかりで全国での実施を考えていることではないかと思います。民間の警備業者に相当な額を払って委託しています。検事、弁護士は検査の対象外にしています。東京地裁に依頼者の方と行ったときに、弁護士が入るゲート(バッジか身分証明書を見せるだけで検査がない)と一般の方のゲート(検査がある)があり、分かれて入るのですが、申し訳なく思いました。

裁判所の弁護士会に対する通知によりますと、所持品検査を始める理由は、裁判所に来る人の安全を図るためと言っています。数は少ないのですが、昨年、仙台地裁で保釈中の刑事被告人が傍聴者を刃物で傷つける事件があったことや、大阪地裁でも刃物を持っていた人がいたことがあるようです。

ただ、長く大阪で弁護士をしている者からしますと、本当に必要かという思いがします。少なくともこの数十年間に所持品検査をしなければならないと思うようなことはありませんでした。そこで、大阪弁護士会の私が所属する司法制度を検討する委員会では、所持品検査まで必要かについては懐疑的な意見が大勢でした。

裁判所の所持品検査については次のような問題があると思います。

第1は、「所持品」のプライバシーは、憲法35条が、住居などと並んで、裁判所の令状なしに勝手に検査を受けることが無い私的領域であるとして保護していることです。昨年、京都国立博物館ではカバンを明けさせるという乱暴な所持品検査をしていましたが、権利侵害の認識なく無造作に行われすぎであるように思います。

第2に、国民が利用する「裁判所」であるが故の問題です。国民は、裁判所で「裁判を受ける権利」を憲法で持っています。そして、「裁判の公開」が必要です。弁護士会は、わが国の司法や裁判所は、必ずしも国民にとって利用しやすい、親しみやすいところにはなっていないとして、高校生や市民を対象とした裁判傍聴の運動も進めてきましたが、所持品検査は、逆の方向のものではないかと思います。アメリカの裁判所に行ったときは、銃を持っていないかという検査がありましたが、わが国は少なくとも銃の危険はありません。裁判所は、施設内で事件があれば責任を問われるという心配から警備を強化しようとしているのではないかと思います。しかし、裁判所は、国民のために裁判を行うサービス機関であることを一番に考えるべきです。いかめしく、ものものしい裁判所では、ますます国民から遠い存在になるのではないでしょうか。

警備は単に抽象的に議論すると強化に向かうおそれがあります。危惧することは何か、それの対策がどこまで必要か、また有効か、市民や裁判当事者や法律家の権利を侵害しないか、他によい方法はないか、一つずつ検討が必要です。これらの検討が外部の意見も聞いて十分になされたとは思えません。状況を見て、見直しや廃止を検討してもらいたいと思います。(弁護士 松森 彬)

2018年1月 1日 (月)

2018年正月の新聞を読んで

新年おめでとうございます。

いくつかの新聞の社説を読んでみました。論説委員の皆さんは今年の課題をどう見ておられるか。

今年の社説は、「民主主義」を取り上げる記事が多数見られました。それだけ、危機感があるからでしょうか。そして、財政や社会保障、環境問題など中長期的政策の議論ができていないという指摘も多数ありました。

朝日新聞は、安倍政権が5年になるが、政権維持が自己目的化し、財政再建や地球温暖化対策などの政策課題が積み残しになっていると書いています。場当たり的な政権運営ではなく、「民主主義の時間軸を長くする方策がいる」と提案しています。具体的には、財政再建をチェックする第三者機関の設立や、国会に若い人の声を送りこむ制度や、解散権の制限などを提案しています。

また、毎日新聞も「民主主義の統合機能」の必要性を提言しています。アメリカで国論が大きく二分し、またイギリスやスペイン、ベルギーでは独立問題を抱え、日本でも基地負担に苦しむ沖縄の問題があります。記事は、異論を認め合い、結論を出すという民主主義の統合機能を再認識すべきではないかと書いています。

東京新聞も、「明治150年と民主主義」という社説です。明治の初めも民衆は公平を求め、人民主権を求めた。戦後の憲法は、1948年の世界人権宣言が基底にあり、押しつけという政治家もあるが、国民多数は歓迎した。今の日本の民主主義はどうか。「一強」政治があり、首相は謙虚を言いながら独走を続けている。ヨーロッパには全市民が集まった広場があったが、今の日本では議会がその役割を果たすべきでないか、と書いています。

読売新聞の社説は、前半は北朝鮮問題を取り上げ、後半で、中長期的な課題に取り組む必要性を指摘しています。国民の間には、少子高齢化に伴う将来への不安感が蔓延しており、医療、介護、年金制度と税という国民負担を議論する必要があると書いています。その点は、日本経済新聞も同様で、超高齢化社会を乗り切るために、社会保障と財政の見取り図をきちんと描くことが最重要であると書いています。

事前に意見交換されたわけではないでしょうから、たまたま同じような問題意識になったのだと思います。民主主義を改めて議論しなければならないとは、という思いもします。しかし、ほとんどの国民はきちんとしていて、今、政治家や官僚がしていることより、はるかに誠実だと思います。それからすれば、民主主義の実践はそれほど難しいことではないはずです。これからの人と政治に期待したいと思います。(弁護士 松森 彬)

2017年12月25日 (月)

NHKの受信契約は何故結ばなければならないか(最高裁判決)

最高裁は、12月6日、NHKが受信契約を結ばない人に受信料の支払いを求めた民事裁判で、契約締結を求める放送法の規定は合憲であり、テレビを設置したときから受信料を支払う必要があるとする判決を言い渡しました。

最高裁で争われたのは、2006年にテレビを設置した男性が受信契約をせず、2011年にNHKは男性に受信契約を申し込みましたが、男性は、放送が偏っているなどの理由で拒否したというケースです。2011年にNHKが裁判を起こし、男性は、受信契約の強制は契約の自由を保障した憲法に違反すると訴えていました。

判決は、最高裁のホームページの最近の裁判例で見ることができます。社会的影響が大きい裁判ですから、判決文は長く、丁寧に書こうとした感じはします。しかし、判決は法律解釈としてはなかなか苦しいところがあるように思います。その原因は、法律(放送法)が契約を締結しなければならないと決めていますが、契約を締結をしなかったときのことを何も定めていないことにあります。そこで、木内裁判官は、放送法の規定からは多数意見のような結論は出せないとして、NHKの請求を認めないとする反対意見を述べました。

私は、これまで、NHKの受信料については、漠然と、広告収入がないNHKが受信料を求めて、それによって運営されるという制度もあり得ることかなくらいに考えていただけですが、この判決を読んで、また、少し調べて、いろいろ考えさせられました。

まず、国により、又、時代により、公共放送と呼ばれるものには様々な形のものがあることがわかりました。直接国による国営放送として行われている国もあれば、NHKのような公共放送は無いという国もあります。公共放送がある国でも、日本のように罰則のない受信料制度の国もあれば、受信料を税金として徴収している国、あるいは電気料金と一緒に集金している国もあるようです。

昭和25年に放送法ができて、NHKは受信料で運営されることになりましたが、当時は未だテレビ放送は行われておらず、受信料はラジオについて定められたものでした。その後、テレビが普及し、ラジオの受信料は昭和43年に廃止になりました。最近は、スマホのワンセグやインターネットでの視聴が出てきたようです。将来、テレビという受信媒体は無くなるか、大きく変容するかもしれません。これからも公共放送が必要か、公共放送の制度を持つとしてもどういう制度にするか、その場合受信料をどうするか。文化、社会のあり方として国民で議論して決めていく必要があると思います。

昭和25年に日本放送協会(NHK)を設けたとき、政治の影響を受けやすい国営放送とせず、また、受信料も税金として強制的に徴収するという強引な形にせず、テレビを持つ人は日本放送協会と契約を締結しなければならないとし、その受信料で公共放送を維持するという制度にしました。強制の仕方が直接的でなく、迂遠ともいえますが、こういう仕組みに理想を求めたのかもしれないと思います。

ただ、この最高裁判決が、契約を強制しても憲法に違反しない理由として、NHKの受信料制度は「憲法21条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され」ているのだとしたのを読んで、正直言って、そうだったのかと驚きました。そこで、放送法を見たのですが、法律には、NHKは「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように、豊かで、かつ、良い放送番組による基幹放送を行う」ことなどを目的とすると書いているだけなのです。さらに、判決は、受信料制度は「特定の個人、団体又は国家機関等からの財政面の支配や影響がNHKに及ぶことがないように」するためのもので、「国民の知る権利を実質的に充足し健全な民主主義の発達に寄与することを究極的な目的と」すると書いて、受信契約は法的強制力を持つ規定と解されるとしました。しかし、法律にはそのような文言はありません。この指摘は、NHKが裁判で主張してきたことだと言います。NHKとしては、受信契約の強制が国民の人権を侵害するものでないというために、国民の知る権利を充たすためだと言わざるを得なかったのだと思いますが、受信料を認めてもらうために裁判の場だけで格調高く言っているのでなければよいがという気もします。私は、公共放送の制度目的について国民の理解を深め、また、NHKの自覚を促すために、最高裁判決が制度の趣旨だとして掲げた上記判示を放送法の明文の規定にするのがよいと思います。

NHKの籾井前会長は、「政府が右というものを左と言うわけにいかない」と発言して、批判を浴びました。本当に、NHKという制度が、国民の知る権利を充足させるために、又、民主主義を発展させるためのものであれば、そして、広告収入だけで運営せざるを得ない民間放送と異なる、NHKらしい良質の番組を提供するのであれば、NHKは自ずと国民の支持を得られるのではないかと思います。NHKは、最近まで訴訟のような強制手段はとりませんでした。新聞によりますと、NHKは、これまでに約4000件の訴訟を行ったようですが、未契約の世帯や事業者は約900万件といいますから、訴訟だけでの解決は現実的でなく、結局は、国民、視聴者が意義を理解して受信料を支払う公共放送にしていく努力が要ると思います。

15人の裁判官のなかで、一人だけNHKの請求を認めない意見を出した裁判官がいます。それは、木内道祥裁判官です。大阪の弁護士で、私もよく知っています。人格も見識も立派な人です。木内裁判官は、放送法の規定(64条1項)は、任意の契約締結を前提としているものであるとし、法律は受信契約の内容を定めておらず、また、1世帯に親と子がテレビを持っていたような場合、どちらが契約の主体かを定めておらず、裁判で契約締結を命ずることはできないと判断しました。そして、多数意見は、受信料の支払債務はテレビ設置のときからだとしましたが、木内裁判官は、多数意見は契約成立を判決確定のときであるとしながら、受信料の支払い義務が遡るはおかしいと述べました。この点、多数意見は、「差異が生ずるのは公平といえないから」という理由で、テレビ設置のときから支払債務が発生するとしました。木内裁判官は、放送法が受信料の支払義務を直接的に規定せず、あくまでも視聴者との契約によるとした点を尊重して判断をしたのに対し、多数意見は、法律の不備として解釈で押し切ったという感じがします。

木内裁判官は、2018年1月で定年退官されます。後任の裁判官が政府から発表されましたが、租税法、企業法を専門とする東京の女性の弁護士の方だそうです。これまで、最高裁には、4人の弁護士が裁判官に入り、そのうち一人は大阪又は関西の弁護士でした。最近では大阪の滝井弁護士や田原弁護士が最高裁でよい仕事をされ、木内弁護士もなるほどと思う判断をいくつもされました。市民事件をたくさん経験した人権感覚のある弁護士が最高裁には常にいてもらいたいと思います。(弁護士 松森 彬)

2017年11月 8日 (水)

弁護士法人にしました

私たちの事務所は、これまでは松森と高江の2名の弁護士が共同して運営していましたが、今年(2017年)11月に弁護士法人西天満総合法律事務所を設立し、法人として弁護士業務を行うことにしました。法人の代表には、高江弁護士が就任しました。

病院や診療所で医療法人という言葉をお聞きになったことがあると思いますが、弁護士法人は2002年にできた比較的新しい制度ですので、ご存知ない方も多いと思います。それまでは複数の弁護士が共同で運営している事務所(法的には組合になるかと思います)はたくさんありましたが、法人制度はありませんでした。

それは、一つには、弁護士は依頼者の権利・利益を守るために他から圧力を受けることなく、裁判官のように業務の独立性が必要だと考えられてきたことが理由です。独立してする仕事で法人組織はなじまないと考えられてきました。もう一つは、個人的色彩の濃い仕事であることが影響していたと思います。アメリカでも、法律事務所の名称は創業者の個人名を付けている事務所が多いようです。その理由をアメリカの弁護士に聞きますと、この仕事は依頼者と弁護士との個人的なつながりが重視されているからだと思うという説明でした。そして、アメリカでも弁護士法人が認められたのは、それほど昔ではなく、認めるかについて消極説もあったと聞きました。それは、会社のようになると、弁護士が依頼者の方を向いて仕事をするのではなく、上司や会社を気にして仕事をするのではないかという危惧からでした。しかし、弁護士が一人で仕事をするのには限度もあり、共同で相談しながらすることが仕事の質や量を高めることは事実だと思います。日本でも、議論のうえ、15年前に弁護士は弁護士法人をつくることができるようになりました。日本には今でも法律事務所がない弁護士過疎地がありますが、そういう所に支店の事務所を出せるのもこの制度の意義の一つだと思います。2017年11月1日現在、全国に1087の弁護士法人ができています。ちなみに現在の日本の弁護士数は3万8843人です。2015年の統計ですが、弁護士法人に所属している弁護士(社員及び従業員)の率は13.2%です。

私たちの事務所が法人にしたのは、個々の弁護士が共同で仕事をするだけでなく、法人とすることで、共同化を進め、業務の質と量の向上をはかり、基盤の安定化と事務所の継続性に役立つと考えたからです。それにより、お客様に、さらに安心、信頼をしていただけるのではないかと思います。私が若いときに仕事をしていました事務所(堂島法律事務所)も50年程前に3人の志のある弁護士が、これからの時代は一人ではなく共同して良い仕事をするべきだという考えで設立した事務所でした。私は20年在籍しましたが、その考えに共鳴していました。

私たちの事務所の名前も、これまでの私と高江弁護士の名前(松森・高江法律事務所)から、「西天満総合法律事務所」に変えました。西天満は、大阪天満宮の西にあたるところから付いた地名です。大阪の裁判所や弁護士会がある地区で、私どもの事務所も1991年の設立以来、西天満にあることから、この名称にしました。

弁護士法人の役目について弁護士法に特に定めはありませんが、医療法は、医療法人の目標を次のように定めています。「医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう努めなければならない。」と定めています。弁護士法人としても参考になる目標ではないかと思います。弁護士法人を設けた私たちは、事務所の基盤の強化と、法律業務の質の向上をはかり、司法サービスの担い手である弁護士としての役割を積極的に果たしていきたいと思っています。(弁護士 松森 彬)

2017年9月22日 (金)

憲法に関する判決が少ない日本

「なぜ日本では憲法に関する判決が少ないのか」について泉徳治氏(元最高裁判事、現在弁護士)が大阪弁護士会で講演をされ、聞いてきました。泉氏は、1963年(昭和38年)から2009年(平成21年)まで裁判官をされていた人で、この間、最高裁調査官、事務総長、最高裁判事などを務められました。

日本では、過去70年間に憲法に違反するとした判決は、全部で21件しかありません。そのうち、法令が違憲とされたものが10件で、国の処分が違憲とされたものが11件です。前者の法令が違憲とされたものは、議員定数配分規定が違憲とされた判決や、婚外子の相続分を差別していた民法の規定が違憲とされた判決などがあります。また、後者の国や府県の処分について審理された事件には、県が護国神社の祭りごとに公金を出したことが違憲とされた判決や、令状なしにGPSを車に取り付けた捜査が違憲とされた判決があります。ちなみに、韓国では、27年間に違憲の疑いがあるとされたものも含めて約700件の違憲判決が出ているといいますから、日本の数の少なさがわかります。

泉元判事は、日本の最高裁が違憲判決をほとんど出さない理由を5点指摘されました。第1は、最高裁判事に公務員出身者が多いことです(15人中10人)。また、調査官が全員裁判官で、しかも、憲法を担当している調査官はいないことです。韓国には、憲法裁判所があり、憲法問題を担当している調査官が80人もいるようです。第2に、裁判官には、憲法は単に理念を定めているだけで、国民の権利自由は法律の具体的規定で決まると考える傾向が強いと指摘されました。国民から憲法に違反するという主張が出ていても、法律の解釈に関する主張であるとして憲法判断を避けている判決もあるとのことです。これでは、いくら憲法の問題だと主張しても憲法解釈の判断は出ないことになります。第3は、最高裁の小法廷は、合憲であると判断した大法廷判決を他の法律問題まで引用して拡大解釈する傾向があるとの指摘です。第4として、裁判官には、違憲と判断するのは国の行為が明らかな裁量権の逸脱・乱用があった場合に限られるとする思考が多いと指摘されました。第5として、日本は違憲審査の基準が未成熟であると思うと指摘されました。そして、この点がわが国にとって一番大事な問題ではないかという意見を述べられました。

泉元判事は、違憲判断に慎重な裁判所から適切な違憲の判断を引き出すためには、次の6点が必要であると思うと話されました。

第1は、国の行為で制約をうける国民の権利や自由が憲法により直接保護されているものであることを正面から主張する必要があると話されました。

第2に、同種事件の訴えを多数の裁判所に提起し続け、高裁の違憲判決を1件でも引き出し、最高裁が憲法判断をせざるを得ない状況を作ることが大事だと話されました。

第3に、学者等の協力を得て、外国の判例を資料として提出することも意味があると話されました。

第4に、被疑者の権利などについては自由権規約や同委員会最終見解などを活用して世界の趨勢を気づかせる必要があると話されました。

第5に、個人の基本的人権や少数者の人権、民主政のシステムを守るのは司法の役割であることを強調して、違憲審査基準論を参考にした厳格な審査を要求する必要があるとのことです。

第6に、最高裁は、しばしば「総合的衡量により必要性や合理性が認められるか否か」という基準を立てますが、この基準はあいまいで、どちらの結論も引き出せると指摘されました。これを防ぐには、ドイツの憲法裁判所の考え方である「三段階審査論」が有効であるとして、紹介されました。これは、①第1に、当事者の主張する利益が憲法の定める基本権が保護しているものかの検討をする、②第2に国の行為が基本権を制限するといえる程に強く制約しているかを検討する、③第3に、国の制約が、その目的を達するためのものとしての適合性、必要性、比例性を有しているかを検討するというものです。泉元判事は、憲法問題を審査する手法、審査する基準が日本では育っていないと言われ、その点に最大の問題があると話されました。総合的な考量は、一般の民事事件でも裁判所がよく使う言い回しですが、結論を先に出して、後で理屈を付けることになる危険があります。

泉元判事も指摘されましたが、「憲法は国民の権利・自由を直接に保障しているものだ」という考えが、国民のみならず、裁判官、弁護士にも少ないように思います。日本でも司法が十分に機能を果たすために、司法に携わる弁護士、裁判官が、憲法をもっと活用する必要があると思いました。(弁護士 松森 彬)

2017年9月10日 (日)

弁護士費用が出る保険があります(事故などがあったときは調べて下さい)

日弁連が主催する「弁護士業務改革シンポジウム(第20回)」が9月9日に東京(会場は東大)で開かれ、出席してきました。日弁連は、人権、司法制度、業務などのテーマについて大規模なシンポジウムを定期的に開いています。今回は、私がかねがね大事だと思っている「裁判費用や弁護士費用が出る保険」(権利保護保険あるいは弁護士費用保険といいます)がテーマの一つでしたので、その分科会に出てきました。

ヨーロッパでは100年程前から、この権利保護保険が普及しています。日本は、随分遅れ、2000年に日弁連と保険会社が協力して、自動車保険の特約として発足させました。これは、交通事故で被害を受けた人が裁判所の費用や弁護士費用を保険から出してもらえる制度です。2015年には、この特約が付いた自動車保険は約2400万件になっているそうです。これにより、従前であれば、費用面からあきらめたかもしれないケースも、泣き寝入りをせずに、弁護士に頼んで賠償金を確保できるようになりました。

交通事故の場合だけでなく、日常生活の事故で被害を受けたときも保険金が出るものもあります。そして、契約者本人だけでなく、配偶者や同居の親族が事故にあったときも保険金が出るものが多いようです。

たとえば、①自動車を運転中に追突されてケガをした、②子どもが学校で暴力を受けてケガをした、③歩いていて自転車とぶつかってケガをした、④バイクが盗まれ、部品が壊された、などの場合に弁護士費用が保険から出ます(保険により異なりますので詳細は保険会社にお尋ねください)。

また、火災保険、家財保険、自転車保険、海外旅行保険、医療保険などでも、本人や同居の家族が生活上の事故でケガをしたり、家具が壊れたりしたときに弁護士費用が出る保険があります。

そこで、皆様が、もし、交通事故や日常生活の事故にあったときは、配偶者の保険契約も含めて、パンフレットや約款を調べてください。弁護士費用の特約が付いていれば、相手の対応が納得いかないときに弁護士に頼んで損害賠償を請求できる可能性があります。なお、どの弁護士に依頼するかは契約者が自由に選ぶことができます。

まだまだ日本は権利保護保険の整備が遅れています。今後は、交通事故と生活上の事故だけでなく、その他の紛争にも拡大することが必要です。また、中小企業はコストをかけにくいので、「中小企業のための弁護士費用保険」の普及が課題です。(弁護士 松森 彬)

2017年7月31日 (月)

評価が高い裁判官と低い裁判官

最高裁は、2004年(平成16年)から、裁判官の人事評価の客観性を高めるために、弁護士など外部からの情報を受け付けています。ただ、最高裁の制度では情報の内容は公表されませんので、どのような意見が寄せられたかはわかりません。そこで、大阪弁護士会は、3年前に、弁護士が裁判官の審理や仕事ぶりについて弁護士会に意見を出せる制度を設けました。記録の把握、争点整理、証拠調べ、和解、判決、話し方・態度、総合評価の7つの評価項目について5段階で評価して意見が出せるようにしています。

 

今年は弁護士から合計298通(民事裁判官について174通、刑事裁判官について124通)の意見が寄せられました。大阪弁護士会の月刊誌6月号に「裁判官評価情報の集計と分析3~弁護士が見た裁判官のすがた~」が掲載されましたので、主に民事部の裁判官についてご紹介します。

 

地裁の民事部の裁判官(本庁と支部合わせて140人)については、弁護士98人から計174通の評価意見が寄せられました。総合評価について「大変良い」と「良い」の意見が計69通あり、「大変悪い」と「悪い」が計38通あったとのことです。また、高裁の民事部の裁判官(66人)については、「大変良い」と「良い」が計12通、「大変悪い」と「悪い」が計9通でした。

 

評価点数が高い民事部裁判官の上位10人は、平均値が4.34以上と高い点数でした。内訳は、地裁本庁8人、支部1人、高裁1人でした。上位10人についての評価理由を見ると、「温厚であり、丁寧だった」「双方の言い分を十分に聞いてくれた」「どちらか一方に与することなく、話し方も丁寧であった」「当事者が不公平感を持たないように配慮している様子がうかがえ、非常に好感が持てた」「双方の意見の対比表を作成するなど、文言の細かな詰めも誠実に行っていた」「暫定的心証を適切に開示し、次回以降の双方の課題を上手に導いてくれた」などだったそうです。

 

下位の10人の裁判官は、平均値が2.83以下と低い点数でした。評価理由を見ると、「不当に尋問に介入し、高圧的でとりつくしまもない」「感情的になって早口になり、何を言っているのかわからなくなる」「公平な態度を守るという基本を忘れている」「自分の思い通りにいかないことが起きると、不機嫌な表情と態度に出る」「周囲の意見が耳に入らない強権的な訴訟指揮をした」「極めて高圧的であった」「独断を押しつけて和解を勧めた」などであったそうです。

 

評価が高い裁判官と低い裁判官を比べますと大きく開きがあります。これは、大阪弁護士会が約20年前(1998年)に行った調査でも同じことが言えました。そして、この調査は3年目になりますが、評価の高い裁判官は継続して高く、残念ながら低い人は継続して毎年低い傾向を示しているようです。

 

まだまだ回答数が少なく、集団としてのおおよその傾向を示すものにとどまっており、個々の裁判官の評価を示すものにはなっていませんが、裁判官にも色々おられ、仕事ぶりも区々であることが明らかになったと思います。国民が信頼できる裁判官像を明らかにして、そのような裁判官を増やすために、この調査は今後も続けてもらいたいと思います。(弁護士 松森 彬)

2017年6月28日 (水)

高等裁判所の控訴審についてのシンポジウムで報告をしました

高等裁判所の審理について、去る6月21日に大阪弁護士会館で弁護士会主催のシンポジウム「民事控訴審のあり方ー事例を踏まえて」が開かれ、私はパネリストの一人として報告をしました。これは、最近の高等裁判所の審理が以前と随分変わってきており、その実情と問題点を明らかにして、どうすればよいかを考えるという目的で開かれたものです。

最初に、問題があると思われる17の事例が発表され、そのうち代表的なものが報告されました。2件ご紹介します。29億円を自治体の開発公社に貸し付けた会社が、返してもらえないので裁判を起こし、地方裁判所は29億円の返済を被告に命じました。しかし、高等裁判所は、1回裁判期日を開いただけで結審し、判決では、地方裁判所のときには大きな争点となっていなかった論点で判断をして、請求を全く認めないという逆転判決を出したケースです。高等裁判所の裁判官が新たな争点について着目するのであれば、当事者にその点を言って、双方に主張や立証の機会を与えるべきではないかと考えられます。

また、養子縁組が有効になされたかどうかが争いになった事件で、地方裁判所は、母親の認知症が重く、養子縁組は無効であるという判決でした。高等裁判所は、追加して証拠を出したいという当事者の希望を認めず、1回で結審して、家族が書いた陳述書などで、母親の意思能力に問題はなく、養子縁組は有効であると、逆転の判決を出しました。これも、無理に一回で結審するのではなく、十分な反論、反証の機会を与えるべきではないかと思われます。

事例報告のあと、松本博之大阪市大名誉教授が、民事訴訟法では、高等裁判所の審理は地方裁判所の審理の続きと定めており、単に地方裁判所の判決をチェックするだけでは不十分であるという講演をされました。

そのあと、元裁判長をされていた井垣敏生弁護士と、松本名誉教授、それに私と正木みどり弁護士でパネルディスカッションを行いました。

高等裁判所は、最近は78%の事件が1回で結審しています。しかし、以前は3回、4回と開かれ、3割の事件で人証調べが行われていました。控訴される裁判の件数が増えるのに合わせて、裁判官はしんどくなったのか、どんどん人証の調べをしなくなり、最近では、人証調べが行われるのは僅かに1%です。結論が逆転するような事件でも、ほとんどの事件で裁判官は何も言わず、法廷の裁判手続は5分位で終わることもあります。黙って逆転するわけですから、当事者や弁護士からはブーイングの声が大きくなっています。

パネリストの井垣元裁判長(現弁護士)は、年間60人ほどの人証調べをされたようで、忙しくても調べをしようと思えばできると言われます。

私は、シンポジウムでは、「今の高等裁判所は1回結審オンパレードの状態にあるが、多数の問題事例が発生しており、見直しが必要だ」と発言しました。そして、「国民が裁判に求めているのは、審理の公正と充実である。1回で終わることを原則とせず、第1回期日は裁判官と当事者間で十分なやりとりをする機会にすべきである」と意見を述べました。これは、今回プロジェクトチームを組んだ弁護士の一致した意見です。「裁判官と国民との意思疎通」言い換えると「コミュニケーション」を欠いているのが今の高等裁判所の裁判だと思います。裁判制度は神さまのご託宣ではないのですから、黙って結論を言い渡すのは駄目だと思います。裁判官の思い違いがないか、考え違いがないかを考えて当事者と代理人弁護士の意見を十分に聞くことが求められます。

この日のシンポジウムには、大阪だけでなく近畿の弁護士が合計120人出席されました。また、シンポジウムの議論は法律雑誌に掲載される予定です。裁判は3回できると思っておられる国民が多いと思いますが、最高裁判所は法律的な問題の審理をするだけですので、高等裁判所が、事実はどうであったかを審理する最後の裁判所です。高等裁判所の重要さに鑑みて、もっと充実した審理をする必要があります。(弁護士 松森 彬)

2017年6月24日 (土)

共謀罪(テロ等準備罪)法の問題点

去る6月15日に、いわゆる共謀罪(テロ等準備罪)の創設を含む法律改正が国会で可決されました。従前は共謀罪と言われ、反対意見が多く、これまで3回廃案になりました。安倍内閣は、この度、要件を変えて「テロ等準備罪」という名前にしました。この犯罪は対象があいまいであるなど、法律としていろいろな問題があることから、弁護士会は反対してきました。法律成立後、日弁連や大阪弁護士会などは会長声明を出し、今後は廃止を求める取り組みをするとしています。

成立した共謀罪(テロ等準備罪)がどういうもので、法律家から見てどんな問題があるかを説明したいと思います。

共謀罪(テロ等準備罪)は、組織的犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等の関する法律)を改正して、そのなかに定められました。処罰される行為は、「組織的犯罪集団(犯罪の実行を共通の目的として結成されている団体)の活動として、組織的な殺人やテロなどのほか、全部で277の犯罪を2人以上で計画すること」です。そのうちの誰かが資金、物品の手配や場所の下見などの準備行為をすることが必要だとされています。

近代の刑法では、心の中で思ったことだけでは処罰せず、具体的な行為として現れて初めて処罰対象になります。すなわち、「既遂」を処罰するのが原則で、「未遂」が処罰されるのは例外で、それ以前の「予備」が罰せられるのは内乱罪や殺人罪など極めて例外です。ところが、共謀罪は、この「予備」よりも犯罪実行から遠い「計画」という合意だけで処罰することになります。日本の刑事法の原則を大きく変えると言われているのは、その点からです。

共謀罪(テロ等準備罪)では、合意の内容が犯罪にあたることかどうかを判断するため、通信傍受などのプライバシーに立ち入った監視が日常的に行われ、人権が侵害されることが懸念されます。

政府が作成したQ&Aには、一般人は対象にならないと書いていますが、法律にそのような規定はなく、277の犯罪にはテロや殺人だけでなくキノコの違法採取や墓荒らしまで入っています。対象犯罪が多く、合唱サークルが楽譜をコピーすれば著作権法違反で組織的犯罪集団にされる恐れがあるという指摘があります。広く市民団体や環境団体や宗教団体などが捜査対象にされる危険があります。

元刑事裁判官をされていた木谷明弁護士は、捜査権が乱用されることを懸念すると言っておられます。これまでから、警察が労働組合の敷地に侵入して無断でビデオカメラを設置した事件があり、また、風力発電施設の建設に反対する住民の情報を警察が収集していたことがありました。警察が疑いをかければ、一般国民ではないとされるおそれがあります。戦前にあった治安維持法も、政府は法律を作るときは一般国民が対象になると言っていましたが、その後改正がされて、何万人もの人々が検挙され、弾圧されたと聞きます。

政府は、共謀罪(テロ等準備罪)を設ける理由として、国連の越境組織犯罪防止条約が組織犯罪対策のために未遂以前の段階での対応を可能とする立法措置を求めていると説明してきました。これについては、弁護士会や学者は日本では既に様々な法律で重大犯罪について未遂以前の予備などの段階で処罰する法律を整備しており、国連の条約を批准するために新たに共謀罪法を設ける必要はないと指摘していました。

弁護士や法律学者が共謀罪法に反対してきたのは、上記のような問題があるからです。警察庁は、全国の警察に慎重な運用を指示したようですが、そのこと自体、この法律の危険性を示しているように思えます。捜査の適正が確保され、国民の自由と権利、プライバシーが侵害されることがないように国民は関心を持っていただく必要があると思います。(弁護士 松森 彬)

2017年6月16日 (金)

最高裁判事の選び方

最高裁は、司法の柱として大事な役割を担っています。サラ金の高利の問題や公害事件、えん罪事件、あるいは今年3月に判決が出たGPS捜査の裁判など、国民の権利や生活に影響がある数々の判決を出しています。

最高裁の裁判官は15人です。わが国では、最高裁判事の選任についての法律(裁判所法41条)の定めは簡単で、「識見の高い、法律の素養のある者」から選ぶとしており、15人のうち少なくとも10人は裁判官、弁護士、検察官、大学教授など法律の専門家から選ぶとだけ決めています。15人の構成は、長い間、裁判官出身者6人、弁護士出身者4人、検察官出身者2人、行政官出身者2人、学者出身者1人でした。そして、弁護士出身判事は、日弁連が内部の推薦手続を経て複数の候補者(今回は6人)を最高裁に推薦し、そのなかから最高裁が内閣に推薦し、内閣は最高裁の推薦を尊重して任命してきました。

ところが、今年1月、内閣は弁護士出身判事の後任を決める際に、日弁連が推薦した弁護士出身の候補者(6人)から選ばず、学者出身者を選びました。この人は長い間法学部の学者で昨年弁護士登録をしたばかりの人で、実質的には学者出身です。その結果、日弁連が推薦した弁護士出身者は4人から3人に減りました。

弁護士は、民事裁判の代理人や刑事手続の弁護人などが日々の仕事ですので、もっとも国民に身近な法律家だといえます。弁護士出身の多くの最高裁判事が人権感覚豊かな判断をしたり、社会の現実を踏まえ弱者に寄り添う個別意見を述べたりしてきました。アメリカやイギリスでは、法曹一元制度といいまして、地裁の裁判官などもすべて一定年齢以上の弁護士等の法律実務を積んだ法曹から選任しています。それは弁護士等の法律実務の経験が裁判官の職務に必須あるいは有益と考えられているからです。

日本でも、昭和22年の最高裁発足時は弁護士出身判事は今より多く15人中5人でした。昭和40年代に4人になりましたが、その後50年近く、弁護士出身判事が4人務めてきました。

今の内閣(安倍晋三首相)は長年続いてきた最高裁判事の選任方法を変えたのですが、なぜ変えるのかについての議論はありませんでした。今の方法は多数の法律家を知っている弁護士会や最高裁が適任者を複数選び、それを尊重して内閣が選ぶというもので、適任の法律家を選出することができる一つの方法です。選任方法を変えるにあたって特段の議論もなく、恣意的に選ぶこともできるとなると、ときの内閣が政治的に最高裁判事を選ぶこともできてしまいます。弁護士会の司法制度を検討する委員会では、今回の選任は不透明であり、問題であるという意見が出ています。

平成13年の司法制度改革審議会意見書は、「最高裁裁判官の選任過程について透明性・客観性を確保するための適切な措置を検討すべきである。」としました。しかし、日弁連が弁護士出身候補者について選考手続きを設けている以外は、透明性・客観性を確保する制度整備は行われていません。最高裁判事の選任は司法が役割を果たすことができるかどうかに関わる大事なことであり、閉鎖的になるのではなく、オープンなものに変えて行く必要があると思います。(弁護士松森 彬)

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