« 2021年5月 | トップページ | 2021年7月 »

2021年6月の記事

2021年6月29日 (火)

アメリカの民事訴訟(審理)の特徴

アメリカの弁護士(カリフォルニア州弁護士)から、「米国の民事訴訟では、事実解明のためにどのような調べをしているか」について話しをお聞きすることができました。

去る6月10日に大阪と東京の弁護士が、サンフランシスコの弁護士とズームで会議をしました。アメリカの民事訴訟の具体的なスケジュールや人証調べの実情なども知ることができました。印象に残った特徴的な点を記載します。なお、下記の記述は、その弁護士からお聞きしたお話の他に、末尾記載の文献の情報を引用しています。 

第1 アメリカの民事訴訟の特徴

1 裁判所に支払う提訴手数料は一律120ドル(約1万3000円)である(日本は請求額に応じて手数料は高くなる)。

2 提訴後に、「証拠開示請求」の手続があり、証拠の収集ができる(ディスカバリー)(日本の訴訟制度にはない最大の特徴)。(上記弁護士によると、不意打ち防止の趣旨で発達した制度とのこと)。同弁護士は、事前に資料・証拠が十分に収集できていなければ、民事訴訟は成り立たないと思うと言われる。

3 事実の解明が日本に比べて格段にできる(武器が多い)。
ア 一般には次の3つを使う
まず、①文書の提出の要求書と②質問書の方法で、前提となる情報・証拠を入手したうえで、③デポジション(関係者の証言録取)を実施することが多い。
イ 人証
・(人数)日本では裁判官が証人の人数を制限するので、一般に人数は少ない。アメリカでは多数の人から聞く。証言録取(デポジション)は、上限が10人。トライアルの場合は、州によって違うが、5人から12人が上限。
・(時間)日本に比べて格段に長い時間が可能。証拠開示でのデポジションは原告・被告各7時間以内が原則で、2日以上も珍しくない。トライアルの場合は、時間制限はない(平均は一人1時間10分から1時間30分位)。
・(参考)ドイツは、訴訟構造が異なるが、当事者が申請した証人は、原則として全員を呼び出す。弁護士が事前に証人に接触することは禁止されている(「ヨーロッパにおける民事訴訟の実情(上)」207頁、208頁)。
ウ 証拠開示は当事者が行う手続であり、費用がかかる。同弁護士によると、消費者事件などは事業者側に費用を出させる制度になっているとのこと。

4 証拠開示で事実関係がわかるので、9割以上の事件が、正式の証拠調べ(トライアル)に至る前に、和解(又は調停)で終了する。トライアルをするのは、4~5%だ。

5 証拠開示請求の日程(期間は3ヶ月から6ヶ月位に限定される)と証人調べ(トライアル)(証人が誰になるかなどは未定)の開始の日を、提訴から4ヶ月以内に決める。そこで、裁判の期間が予め決まり、予測できる。 

第2 一般的な民事訴訟の流れ(時系列)

法曹会「アメリカにおける民事訴訟の実情」131頁〔1997年)(森英明判事の報告)(警察官の黒人に対する暴行事件)による。上記弁護士のご説明もほぼ同旨。

1 提訴から4か月以内に会議
・「スケジュール・カンファレンス」(ディスカバリー会議ともいう)を開く。米国西部では、被告の答弁から45日程度後に開かれる。
・そこでは、ディスカバリーの期限、その後の証人リストを出す期限、トライアル開始の日などを決める。(トライアル開始の時期はその後変更になることもある)。
・その後、ディスカバリー計画を書いた書面を裁判所に提出する。裁判所は、スケジュール命令を出す。

2 当事者が証拠開示(4ヶ月から6ヶ月位の期限内)を要求
・文書の提出などを求める。
・関係者の供述録取(デポジション)は、実施したい日を、2ヶ月位先の日時で指定する(通常、その日に実施されている)。

3 供述録取(デポジション)などを行う。
・法律事務所で行う。速記官が同席。ビデオで録画する。

4 トライアルの証人リストを提出する。
・ディスカバリーの結果を踏まえて、双方はトライアルで調べる証人リストを提出する。

5 最後のプリトライアル・カンファレンス開催(提訴から1年後位の時期)
・トライアルの日を最終決定(3ヶ月位先)
・この段階で和解が成立することが多い(トライアルに進むのは数パーセント)

6 トライアルの実例(遊園地で負傷し、遊園地に損害賠償請求した裁判)
 1日目 午前    陪審員を選定
    午後  双方が冒頭陳述、原告第1証人
2日目 午前  原告第2、3、4、5証人(午後休廷)
3日目 午前  原告第6、7、8、9、10、11証人。原告本人尋問(午後休廷)
4日目 午前  被告第1証人、双方最終陳述、陪審員評議。
    午後  評決言渡し。
・上記弁護士によると、同じ証人を2度呼ぶこともあるとのこと。それは真実追求のためだと思うとのこと。

7  非陪審トライアル(ベンチ・トライアル)もある。
同弁護士によると、半分くらいの事件は、当事者双方が合意して、陪審でなく、裁判官が事実認定をするとのこと。特許事件などで使われる。(なお、非陪審トライアルが増えているような傾向はないかと尋ねたが、そのようなことはないとのこと)。

8 和解
和解などで終わることが多いが、和解に裁判官が関与することはまれ(予断を持つことになるから)。関わるとしても別の裁判官。調停人(民間)(元裁判官が多い)を選んで調停をすることも多い(「わかりやすい米国民事訴訟の実務」190頁)。

第3 証拠開示(ディスカバリー)が機能している理由

1 アメリカの訴訟制度の核になっているディスカバリーの手続が当事者だけで行う制度として機能している理由について上記弁護士に質問した。「ディスカバリーで、相手方に拒否されたり、期限に実施できなかったり、事実と異なる供述があったりしないか」を尋ねた。
上記弁護士によると、そのような場合は、弁護士に対する懲戒処分を含め、制裁があるとのこと。米国では、手続ルールの違反に対して厳格な姿勢を取っているとのこと。同弁護士は、訴訟では本当のことをいう義務があるとの考え方がベースになっていると思うとのこと。

2 他の文献に制裁の実例が紹介されている。(「わかりやすい米国民事訴訟の実務」147頁以下)。同弁護士は、実際には高額の例は少ないが(多くは5000ドル位まで)、厳しい制裁があるということが効果を発揮していると思うとのこと。
① 裁判所から保管するように命じられていた電子メールを幾つか抹消した。裁判所の罰金は275万ドル、また、証人として証言を許さない。
② 電子メールを相手方に提出しなかった。裁判所は、陪審に対して、電子メールは当該当事者にとって不利のものと推認してよいと指示した。
③ 相手方は、電子メールを隠匿した。裁判所は、陪審に、当該当事者は詐欺的行為をしたとみなすように指示した。手続違反を理由に、相手方敗訴を確実にするような制裁を課した。
④ 裁判所の保全命令があったのに電子情報を消去した。裁判所は、相手方の主張を認める懈怠判決をするとともに、弁護士費用を相手方負担にした。

(参考文献)
1 関戸麦ほか「わかりやすい米国民事訴訟の実務」(2018年)
2 法曹会「アメリカにおける民事訴訟の実情」(1997年)
3 司法研修所「アメリカにおける民事訴訟の運営」(1994年)
4 特集「民事裁判における証拠・情報収集の拡充と課題」(「自由と正義」2011年1月号)
5 なお、ヨーロッパの訴訟については「ヨーロッパにおける民事訴訟の実情」(上)(下)(法曹会)(1998年)。

(弁護士 松森 彬)

 

2021年6月28日 (月)

事務所開設30年を迎えました

当事務所は、今年6月20日に開設30年を迎えました。
ご利用いただいたお客様、支えていただいた関係者の皆様に心より感謝を申し上げます。
代表の高江を筆頭に、一同、気分を一新して仕事に励みたいと思います。
どうぞ宜しくお願いいたします。


偶然ですが、今年と来年は事務所のメンバーにとりましても、それぞれに節目を迎えます。松森は来年、弁護士登録50年になります。高江は、今年、弁護士登録25年になりました。柳本は来年弁護士登録10年になります。事務局の大浜は来年、また田村は再来年、それぞれ入所25年になります。皆様のお役に立つ事務所でありたいと思いますので、法律事務のことや事務所のことでご意見ご要望などがございましたら、お聞かせくださいますようお願いいたします。(西天満総合法律事務所 一同)

 

 

 

 

2021年6月 4日 (金)

「文書提出命令」の審理(裁判所の迅速な判断が求められる)

裁判では、原則としてすべての証拠を取り寄せることができます。アメリカでは、ディスカバリー(証拠の開示を求める手続)という制度があり、事件と関連する文書であれば提出を求めることができます。また、フランスやイタリアでは、司法による紛争解決に協力すべき国民一般の義務として、秘密等の正当な理由がある場合を除き、文書提出の義務があるようです。ドイツや日本では、従前は提出義務があるのは、当事者のために作成された文書などに限定されていましたが、日本は、1996年の民事訴訟法の改正のときに、限定列挙を止めて、すべての文書について提出を求めることができることにしました。

裁判になっても文書の所持者が提出しないときは、裁判所に「文書提出命令」を申し立てることができます(法220条)。文書提出命令の申立がありますと、所持している当事者が任意に提出することも少なくありません。ただ、主張が対立している事件では、所持者は、提出義務の例外に該当するとして、請求に応じない場合があります。提出義務の例外として、しばしば問題になるのは、「技術又は職業の秘密に関する事項」が記載されている文書、あるいは、「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」にあたるか否かです。所持者は、そもそも証拠として調べる「必要性」が無いと主張することがあります。

私は、裁判所の判断がなかなか示されないことに問題があると思います。私が経験したケースでは、申立から5か月間、裁判所は判断しませんでした。5ヶ月目に、「申立を認めるつもりだ」という意見を表明しましたので、相手方が文書を提出しました。また、裁判所は7か月間、判断しませんでした。ようやく7ヶ月目に「インカメラ」という手続(裁判官だけが文書を見て除外理由があるかないか判断する)を決定したということもあります。他の弁護士からは、ずっと判断が示されず、証人尋問の直前になって判断が示された例や、結審の直前になって却下決定があった例も聞いています。

アメリカの民事裁判は、双方当事者について「武器対等の原則」を認め、前述しましたように、裁判の早い段階で、相手方の持っている証拠をすべて開示させることができます。提訴から10ヶ月程の間に、必要な文書を入手したり、相手方の関係者の聴取などがすべてできます。そこで、勝ち負けの見通しがつき、ほとんどが解決するようです。費用の問題や乱用防止の問題があるようですが、それにしても、1つの証拠を調べるかどうかについて半年以上もかかる日本の実務は改善される必要があると思います。大阪弁護士会は、定期的に裁判所と実務改善の協議をしていますので、次の協議事項に入れて戴くように弁護士会に提案しました。(弁護士 松森 彬)

 

 

 

« 2021年5月 | トップページ | 2021年7月 »

最近のトラックバック

最近のコメント

2022年8月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

ウェブページ