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2018年11月26日 (月)

民事控訴審の改革を求める(第1回)―高裁の控訴審の実情と問題点―

1 高裁の大きな役割
 地裁や家裁の判決について不服があるときは、控訴をして、高等裁判所の判決をもらうことができます。
 高等裁判所は、全国に8か所の本庁と5つの支部があります(東京、大阪、名古屋、名古屋高裁金沢支部、広島、広島高裁松江支部、福岡高裁、福岡高裁宮崎支部、福岡高裁那覇支部、仙台高裁、仙台高裁秋田支部、札幌高裁、高松高裁)。
 2015年(平成27年)は、全部で1万5066件の控訴事件がありました。地裁・家裁の判決は、高裁で2割から2割5分の割合で全部又は一部が変更されています。判決以外に高裁の裁判官の意見で逆転した内容の和解がされる例もあり、実質的に判断が変る率は結構高いといえます。ドイツでは、少し前の数字ですが、高裁で48%の率で判決が変更されているといいます(最高裁の平成11年の司法制度改革審議会における意見陳述)。これらの事実は、裁判は人によって相当に判断が異なることになることを示していると思います。

変更がかなりある理由は、地裁は一人の裁判官で判断するケースが多ですが、地裁の裁判官は平均して若く、裁判官としても社会人としても経験が少ないため、事実の見方や法律の解釈が必ずしも適切ではないこともあるからです。高等裁判所の裁判官は地裁の裁判官よりも年齢や経験も上であることが多いうえ、3人の合議で決めますので、地裁の判断の誤りを是正することが少なくありません。このように、当事者や代理人の弁護士からしますと、地裁や家裁の判決が納得のいかないときには高裁での是正を期待することが大です。

しかも、かつては三審制と言われたように、最高裁に上告することがありましたが、民事訴訟法が改正されて最高裁への上告が制限されましたので、憲法に関わるような事件は別にして、通常の民事事件は控訴審が事実上最後の裁判になります。その意味でも高裁の役割と責任は大きいといえます。

2 高裁の裁判に対する当事者・代理人弁護士の不満

かつては、高裁でも証人調べがあり、1985年(昭和60年)当時は、控訴審の事件のうち、当事者尋問を31%の事件で行い、証人尋問を28%の事件で行っていました。ところが、控訴事件が増えるなかで、高裁は証人調べをしないようになりました。現在は、当事者や証人の証言を聞くのは、全体の1%になっています。

また、高裁の裁判が1回だけの期日で終わるのは、1975年(昭和50年)当時は全体の僅か15%程度でした。そのときの控訴事件数は8332件でしたが、毎年、控訴事件数が増え、25年後の2000年(平成12年)には2倍近い1万5350件になりました。弁護士会は裁判官の増員を求めてきましたが、裁判所は、増員により裁判官の給与体系が引き下げられることをおそれ、長年にわたり増員の必要はないという態度を取ってきました。そのため、忙しい高裁への赴任が決まると、裁判官は仲間内の冗談で懲役3年だと言うこともあったようです。忙しい高裁の裁判官は徐々に証人調べを減らし、裁判期日の回数を減らしました。当初は自然発生的なものであった可能性がありますが、平成に入った前後(1989年前後)から東京高裁で意識的に証人調べをあまり行わず1回で結審する事後審的運用と呼ぶ審理方式を始め、それが全国に広まりました。2004年(平成16年)には、東京と大阪の高裁の裁判官4人が司法研究として「民事控訴審における審理の充実に関する研究」(法曹会)という論文を発表し、この事後審的運用をすべきとする提案がされました。高裁の裁判官は、ほぼ全員がこの司法研究を読んだといいます。それでも、この提案は、第1回期日の前に事前協議の期日を開くという提案をしていましたので、実質は少なくとも2回の期日を開くという提案だったのですが、その後、事前協議は裁判官にとって負担であるとして行われず、第1回の期日で終わるという部分だけが広まりました。現在、大阪高裁に14の部がありますが、事前協議をしている部は2つだけです。他の12の部は事前協議をせずに、原則として1回で結審するという運用をしています。その分、コミュニケーションが不足しています。なお、事前協議は裁判長は立ち会わず、主任の陪席裁判官だけが非公開の部屋で行うものですので、私たちは、通常の弁論期日の手続きで行うべきだと考えています。もちろん、高裁の裁判官の全員が事後審的運用をしているのではなく、なかには1回の期日で終わることを原則とせず、当事者や証人の話も聞き、丁寧な審理をする裁判官もおられます。ただ、多くの裁判官は原則として1回で結審するというやり方をしています。

 高裁の民事裁判は、2000年(平成12年)ころから事件数は横ばいで、増えていないのですが、この審理の仕方が当たり前のようになり、1回目の期日の結審だけはどんどん増え、2013年(平成25年)には78%に達しました。しかも、その中には、高裁の裁判官らは地裁の原判決と違う論点で逆の判断をするような場合でも、法廷で裁判官が質問も意見も何も言わないまま、逆転の判決を出すといった不意打ちの裁判もたくさんあります。最高裁判事を務められた元弁護士の講演会がありましたが、上告されてくる事件の記録を読んでいると、高裁の不意打ち裁判が気になったと言っておられました。

このような審理の仕方になったのは、古くは控訴事件の増加であり、その後は司法研究が大きな原因であるといえます。民事訴訟法の改正や裁判迅速化法の制定も一定の影響があったと思いますが、訴訟法は控訴審の性格は1審の続きであるとする点は変えておらず、裁判迅速化法もここまでの方式を求めているものではありませんので、変化の大きな原因は前記の2つと考えられます。法律が変わったのでもなく、法律家や学者、市民による議論で決まったものでもなく、なし崩しに裁判官の考え方だけで進められてきた点に、私は一番の問題があると思います。

 地裁の審理は、通常、期日が何度も開かれ、その都度、当事者(代理人の弁護士)と協議をしますので、裁判官は、当事者の意見を何度も聞き、自分でも何度も考えることになります。また、3人の裁判官で審理する合議の事件の場合は、裁判官同士で議論をする機会が何度もあります。ところが、今の高裁の裁判は、特別に難しい事件は別にして、ふつうは第1回期日までに地裁の裁判記録をそれぞれが読んでおいて、期日の前日又は数日前に3人で一度協議するだけで原則として結論を出しています。弁護士が、高裁の裁判では、裁判官が何を考えているかわからないというのは、期日にほとんどやりとりをしないからです。丁寧な審理をされた或る高裁の裁判官は、疑問に思ったことなどを当事者に尋ねたり、聞いたりして、あるいは証人の証言を聞くことで、新たなことに気付いたり、考えを改めたりすることもあったと言われます。仕事の性格上、裁判官には事実認定や法的解釈について決定する権限を与えられていますが、しょせん、人間のすることであり、思い違い、考え違いがあるかもしれません。今の高裁の審理の仕方は、そのような配慮が欠けていると思います。裁判は、神主のご託宣ではなく、十分な証拠調べと十分な議論という手続を踏まえての人のする判断ですから、裁判官には謙虚な姿勢が求められます。そして、裁判手続をすることについて基本的人権を持つ国民・市民に対して、国の公務員として、できるだけ丁寧に親切な審理をすることが求められると思います。1回で無理に結審せず、議論や立証のために複数回の期日を持つことになっても、それほど裁判が遅延したり、裁判官の負担が増したりするとも思えません。

3 弁護士会の取り組み

大阪弁護士会が2012年(平成24年)に行った民事裁判についてのアンケート調査で、高裁の1回結審や証人調べをしない審理について多くの弁護士が問題であると考えていることがわかりました(日弁連「自由と正義」2013年8月号掲載の「弁護士は民事裁判をどう見ているか」の記事参照)。私は、このアンケート調査を行ったプロジェクトチームの座長をしましたが、控訴審の実情は当事者、代理人弁護士にとって放置できない問題だと多くの委員が思いました。ある弁護士は、「高裁の裁判官の関心がわからないまま、引っ繰り返されたり、引っ繰り返したりということがあり、手続が尽くされていない」と書いておられました。

そこで、大阪弁護士会では、2016年(平成28年)1月に司法改革検証・推進本部の委員会に「高裁問題プロジェクトチーム」を設けて、控訴審がなぜこのようになったかを調べるとともに、会員に具体的な事例を聞くことにしました。プロジェクトチームの調査報告と意見の要旨は、「民事控訴審の審理の充実―実態調査を踏まえた提言―」(上、中、下)(判例時報2342号、2345号、2347号)に掲載されていますので、ご覧下さい。

その後、この問題は、大阪、京都、兵庫県、奈良、滋賀、和歌山の5弁護士会で組織する近畿弁護士会連合会(近弁連)で取り上げられることになり、近弁連は、「民事控訴審の審理に関する意見書」を理事会で承認して、2018年(平成30年)8月3日に発表しました。近弁連は、意見書を大阪高裁を含む全国8つの高裁と最高裁、法務省に送付し、審理の改善改革を要望しました。最近、大阪高裁で審理中の裁判で、裁判官が結審を急ぎますので、弁護士会の意見書を読んでおられるかを尋ねたところ、読んだということですので、意見は現場の裁判官の耳に届いているようです。意見書は近弁連のウェブサイトの宣言・決議の欄に掲載されており、ご覧いただくことができます(アドレスは、http://www.kinbenren.jp/declare/2018/2018_08_03.pdfです)。近弁連の意見書の内容については、次のブログ記事に書きます。(弁護士 松森 彬)

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