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2018年11月の記事

2018年11月29日 (木)

民事控訴審の改革を求める(第2回)―近弁連の意見書―

1 近弁連は「民事控訴審の審理に関する意見書」を発表

近畿弁護士会連合会(近弁連)は、今年2018年8月3日に「民事控訴審の審理に関する意見書」を発表し、大阪高裁を含め全国の8つの高裁と最高裁、法務省に送りました。意見書の要旨は、下記のとおりです。意見書は近弁連のウェブサイトの宣言・決議の欄に掲載されておりますのでご覧下さい。
(アドレスは、http://www.kinbenren.jp/declare/2018/2018_08_03.pdfです)。

民事控訴審の実情と意見書が作成された経緯については、ブログの2018年11月26日の「控訴審の改革を求める(第1回)」の記事に書いています。

 

2 高裁に求める4つの意見 

意見書は、高裁に対する要望として次の4点の意見を述べています。

(1) 裁判官と当事者との十分な意思疎通

控訴審で、裁判所は争点と証拠の評価などについて当事者と十分な意思疎通、コミュニケーションをはかるように求めています。

(2) 適切な釈明権の行使など

高裁が、争点や証拠の評価が地裁、家裁の判決とは異なる結果になる可能性がある場合などは、争点を再整理したり、釈明権を行使したりして、双方の意見を聴取し、あるいは双方に主張立証の整理を促して審理を尽くし、不意打ちの判決にならないように求めています。

(3) 人証の証拠調べ

控訴審は、地裁・家裁で十分な人証の調べができていないときや、地裁・家裁と違う争点で判断をするようなときは、人証の証拠調べをするように求めています。

(4) 第1回期日

第1回期日は、争点や証拠の評価、追加の主張立証などについて当事者と十分な意思疎通、コミュニケーションをはかることとし、争点や証拠の評価などについて認識の共有化ができていないときは、第1回期日には結審せず、続行して審理をするように求めています。

 

3 意見の理由

最近の高裁は、第1回期日で結審する割合が8割近くにまで増えています。しかも、法廷では形式的な問答があるだけで、争点、論点など中身について話しをして、裁判官と当事者が認識を共有化する場になっていません。

このような実情になった主な原因として、2000年頃まで控訴事件が増えて忙しくなった高裁が審理を省略化したことと、2004年の最高裁司法研修所の司法研究(論文)の影響が考えられます。この司法研究でも、少なくとも事前協議と第1回期日の2回の期日を想定していましたが、今は、事前協議はなく、まさに1回の期日だけで終わるのですから、その審理方式は司法研究の立場でも不十分です。

その結果、当事者、代理人弁護士から今の高裁の審理について不満や意見が多数出ています。弁護士にアンケートをして報告があった事例を検討しましたところ、期日が1回だけのために裁判で本来必要な裁判所と当事者との意思疎通、コミュニケーションが控訴審ではほとんどできていない実態がうかびあがりました。1回で無理に終わろうとして、必要な人証調べが行われていない事例があることも明らかになりました。1回で結審して、その後、強引に和解が勧められることについても不満が多数ありました。具体的にどのような問題があったかがわかる22件の事例を意見書は末尾に資料として添付しています。これはいわば氷山の一角で、2012年に大阪弁護士会が会員に対して行った民事裁判に関するアンケート調査では、高裁の審理に問題があったという回答が多かったことから、高裁の審理に問題があり、当事者・弁護士が不満を抱いた事例は、かなりの割合で存在すると思われます。

 

4 提言

問題があると思われた事例を分類すると、今回の意見書にある4つの提言の実施が必要であるという結論になりました。

1つは、裁判所と当事者との間で十分な意思疎通、コミュニケーションができていないので、その点を実現すること、2つは、裁判所が争点・論点と考える点及び疑問に思う点などを質問したり、指摘したりするなどして、裁判所の問題意識を当事者に伝えること、3つは最後の事実審であり、必要な人証調べなども行うべきであること、4つは、第1回期日での結審を原則とせず、第1回期日には充実した協議を行い、当事者双方が第1回期日での結審に異議がない場合を除き、原則として第2回期日以降の結審とするのが望まれることです。

控訴審が迅速、公正、充実したものとなるためには、訴訟代理人である弁護士も、控訴審での訴訟活動において、書面や証拠の提出期限を遵守することはもちろん、できるだけ迅速に主張立証をすることなどが求められます。意見書は、その点も確認しています。ただ、代理人が努力しても、証拠の採否も、結審の時期も、すべて裁判官の権限ですので、決定がされれば、当事者、代理人は手段がありません。

弁護士法(1条2項)は、弁護士の使命の1つとして、法律制度の改善に努力することを定めており、近弁連は、司法の発達改善に関する活動を目的の1つにしています。そこで、近弁連は、この度、控訴審の現状を憂い、審理の改善・改革を求める意見を出しました。

控訴審の裁判が、当事者から、丁寧で、親切であったと言われるように、審理の仕方が改められることを期待いたします。(弁護士 松森 彬)

2018年11月26日 (月)

民事控訴審の改革を求める(第1回)―高裁の控訴審の実情と問題点―

1 高裁の大きな役割
 地裁や家裁の判決について不服があるときは、控訴をして、高等裁判所の判決をもらうことができます。
 高等裁判所は、全国に8か所の本庁と5つの支部があります(東京、大阪、名古屋、名古屋高裁金沢支部、広島、広島高裁松江支部、福岡高裁、福岡高裁宮崎支部、福岡高裁那覇支部、仙台高裁、仙台高裁秋田支部、札幌高裁、高松高裁)。
 2015年(平成27年)は、全部で1万5066件の控訴事件がありました。地裁・家裁の判決は、高裁で2割から2割5分の割合で全部又は一部が変更されています。判決以外に高裁の裁判官の意見で逆転した内容の和解がされる例もあり、実質的に判断が変る率は結構高いといえます。ドイツでは、少し前の数字ですが、高裁で48%の率で判決が変更されているといいます(最高裁の平成11年の司法制度改革審議会における意見陳述)。これらの事実は、裁判は人によって相当に判断が異なることになることを示していると思います。

変更がかなりある理由は、地裁は一人の裁判官で判断するケースが多いのですが、地裁の裁判官は平均して若く、裁判官としても社会人としても経験が少ないため、事実の見方や法律の解釈が必ずしも適切ではないこともあるからです。高等裁判所の裁判官は地裁の裁判官よりも年齢や経験も上であることが多いうえ、3人の合議で決めますので、地裁の判断の誤りを是正することが少なくありません。このように、当事者や代理人の弁護士からしますと、地裁や家裁の判決が納得のいかないときには高裁での是正を期待することが大です。

しかも、かつては三審制と言われたように、最高裁に上告することがありましたが、民事訴訟法が改正されて最高裁への上告が制限されましたので、憲法に関わるような事件は別にして、通常の民事事件は控訴審が事実上最後の裁判になります。その意味でも高裁の役割と責任は大きいといえます。

2 高裁の裁判に対する当事者・代理人弁護士の不満

かつては、高裁でも証人調べがあり、1985年(昭和60年)当時は、控訴審の事件のうち、当事者尋問を31%の事件で行い、証人尋問を28%の事件で行っていました。ところが、控訴事件が増えるなかで、高裁は証人調べをしないようになりました。現在は、当事者や証人の証言を聞くのは、全体の1%になっています。

また、高裁の裁判が1回だけの期日で終わるのは、1975年(昭和50年)当時は全体の僅か15%程度でした。そのときの控訴事件数は8332件でしたが、毎年、控訴事件数が増え、25年後の2000年(平成12年)には2倍近い1万5350件になりました。弁護士会は裁判官の増員を求めてきましたが、裁判所は、増員により裁判官の給与体系が引き下げられることをおそれ、長年にわたり増員の必要はないという態度を取ってきました。そのため、忙しい高裁への赴任が決まると、裁判官は仲間内の冗談で懲役3年だと言うこともあったようです。忙しい高裁の裁判官は徐々に証人調べを減らし、裁判期日の回数を減らしました。当初は自然発生的なものであった可能性がありますが、平成に入った前後(1989年前後)から東京高裁で意識的に証人調べをあまり行わず1回で結審する事後審的運用と呼ぶ審理方式を始め、それが全国に広まりました。2004年(平成16年)には、東京と大阪の高裁の裁判官4人が司法研究として「民事控訴審における審理の充実に関する研究」(法曹会)という論文を発表し、この事後審的運用をすべきとする提案がされました。高裁の裁判官は、ほぼ全員がこの司法研究を読んだといいます。それでも、この提案は、第1回期日の前に事前協議の期日を開くという提案をしていましたので、実質は少なくとも2回の期日を開くという提案だったのですが、その後、事前協議は裁判官にとって負担であるとして行われず、第1回の期日で終わるという部分だけが広まりました。現在、大阪高裁に14の部がありますが、事前協議をしている部は2つだけです。他の12の部は事前協議をせずに、原則として1回で結審するという運用をしています。その分、コミュニケーションが不足しています。なお、事前協議は裁判長は立ち会わず、主任の陪席裁判官だけが非公開の部屋で行うものですので、私たちは、通常の弁論期日の手続きで行うべきだと考えています。もちろん、高裁の裁判官の全員が事後審的運用をしているのではなく、なかには1回の期日で終わることを原則とせず、当事者や証人の話も聞き、丁寧な審理をする裁判官もおられます。ただ、多くの裁判官は原則として1回で結審するというやり方をしています。

 高裁の民事裁判は、2000年(平成12年)ころから事件数は横ばいで、増えていないのですが、この審理の仕方が当たり前のようになり、1回目の期日の結審だけはどんどん増え、2013年(平成25年)には78%に達しました。しかも、その中には、高裁の裁判官らは地裁の原判決と違う論点で逆の判断をするような場合でも、法廷で裁判官が質問も意見も何も言わないまま、逆転の判決を出すといった不意打ちの裁判もたくさんあります。最高裁判事を務められた元弁護士の講演会がありましたが、上告されてくる事件の記録を読んでいると、高裁の不意打ち裁判が気になったと言っておられました。

このような審理の仕方になったのは、古くは控訴事件の増加であり、その後は司法研究が大きな原因であるといえます。民事訴訟法の改正や裁判迅速化法の制定も一定の影響があったと思いますが、訴訟法は控訴審の性格は1審の続きであるとする点は変えておらず、裁判迅速化法もここまでの方式を求めているものではありませんので、変化の大きな原因は前記の2つと考えられます。法律が変わったのでもなく、法律家や学者、市民による議論で決まったものでもなく、なし崩しに裁判官の考え方だけで進められてきた点に、私は一番の問題があると思います。

 地裁の審理は、通常、期日が何度も開かれ、その都度、当事者(代理人の弁護士)と協議をしますので、裁判官は、当事者の意見を何度も聞き、自分でも何度も考えることになります。また、3人の裁判官で審理する合議の事件の場合は、裁判官同士で議論をする機会が何度もあります。ところが、今の高裁の裁判は、特別に難しい事件は別にして、ふつうは第1回期日までに地裁の裁判記録をそれぞれが読んでおいて、期日の前日又は数日前に3人で一度協議するだけで原則として結論を出しています。弁護士が、高裁の裁判では、裁判官が何を考えているかわからないというのは、期日にほとんどやりとりをしないからです。丁寧な審理をされた或る高裁の裁判官は、疑問に思ったことなどを当事者に尋ねたり、聞いたりして、あるいは証人の証言を聞くことで、新たなことに気付いたり、考えを改めたりすることもあったと言われます。仕事の性格上、裁判官には事実認定や法的解釈について決定する権限を与えられていますが、しょせん、人間のすることであり、思い違い、考え違いがあるかもしれません。今の高裁の審理の仕方は、そのような配慮が欠けていると思います。裁判は、神主のご託宣ではなく、十分な証拠調べと十分な議論という手続を踏まえての人のする判断ですから、裁判官には謙虚な姿勢が求められます。そして、裁判手続をすることについて基本的人権を持つ国民・市民に対して、国の公務員として、できるだけ丁寧に親切な審理をすることが求められると思います。1回で無理に結審せず、議論や立証のために複数回の期日を持つことになっても、それほど裁判が遅延したり、裁判官の負担が増したりするとも思えません。

3 弁護士会の取り組み

大阪弁護士会が2012年(平成24年)に行った民事裁判についてのアンケート調査で、高裁の1回結審や証人調べをしない審理について多くの弁護士が問題であると考えていることがわかりました(日弁連「自由と正義」2013年8月号掲載の「弁護士は民事裁判をどう見ているか」の記事参照)。私は、このアンケート調査を行ったプロジェクトチームの座長をしましたが、控訴審の実情は当事者、代理人弁護士にとって放置できない問題だと多くの委員が思いました。ある弁護士は、「高裁の裁判官の関心がわからないまま、引っ繰り返されたり、引っ繰り返したりということがあり、手続が尽くされていない」と書いておられました。

そこで、大阪弁護士会では、2016年(平成28年)1月に司法改革検証・推進本部の委員会に「高裁問題プロジェクトチーム」を設けて、控訴審がなぜこのようになったかを調べるとともに、会員に具体的な事例を聞くことにしました。プロジェクトチームの調査報告と意見の要旨は、「民事控訴審の審理の充実―実態調査を踏まえた提言―」(上、中、下)(判例時報2342号、2345号、2347号)に掲載されていますので、ご覧下さい。

その後、この問題は、大阪、京都、兵庫県、奈良、滋賀、和歌山の5弁護士会で組織する近畿弁護士会連合会(近弁連)で取り上げられることになり、近弁連は、「民事控訴審の審理に関する意見書」を理事会で承認して、2018年(平成30年)8月3日に発表しました。近弁連は、意見書を大阪高裁を含む全国8つの高裁と最高裁、法務省に送付し、審理の改善改革を要望しました。最近、大阪高裁で審理中の裁判で、裁判官が結審を急ぎますので、弁護士会の意見書を読んでおられるかを尋ねたところ、読んだということですので、意見は現場の裁判官の耳に届いているようです。意見書は近弁連のウェブサイトの宣言・決議の欄に掲載されており、ご覧いただくことができます(アドレスは、http://www.kinbenren.jp/declare/2018/2018_08_03.pdfです)。近弁連の意見書の内容については、次のブログ記事に書きます。(弁護士 松森 彬)

2018年11月15日 (木)

外国法事務弁護士(外弁)の今

外国の弁護士は、法務省の承認を得て、日弁連に「外国法事務弁護士」の登録をすることにより、日本で外国法に関する仕事をすることができます。日本法に関する仕事はできません。この外国法事務弁護士(略して「外弁」と言われます)の制度ができて、今年30年になります。

渉外法律業務の需要が高まってきたことと、アメリカなどから法律業務についての自由化を求められたことから、1986年(昭和61年)にこの制度ができました。外国の弁護士資格を持っているといっても日本法の知識がありませんので、日本法についての仕事や訴訟はできないことにされました。また、互いの国が同等に外国の弁護士を受け入れているという相互主義も要件にされました。ただ、その後も規制緩和の要請があり、私が日弁連の理事を2度したときも、外弁制度をどうしていくかは日弁連が頭を悩ますテーマの1つでした。

外弁制度は、度重ねる改正があり、現在では、日本の弁護士と共同事業をしたり、日本の弁護士を雇用したりすることもできるようになっています。世界的にみても、開放度の高い外国弁護士の受け入れ制度になっていると言えるようです。そのなかにあって、この制度が懸念された問題を生ずることなく需要に対応してきていることは、この間、日弁連、法務省をはじめ多くの関係者による丁寧な議論と検討があったからではないかと思います。

外弁の人数は、2018年7月1日現在、411人です。アメリカの弁護士が220人、イギリスの弁護士が78人、中華人民共和国の弁護士が36人、オーストラリアの弁護士が27人で、この4か国の登録者で8割を超えます。登録先はほとんどが東京で381人、大阪は10人、愛知県は5人です。仕事は、海外との商取引、企業の買収、投資などについての法律業務が多いようです。

日弁連の機関誌「自由と正義」(2018年10月号)に外弁制度30年の特集が組まれていました。そこに、中国の外弁が増えているという指摘がありました。増えている理由は、1つは中国の弁護士試験の変更で弁護士が増えていることと、中国企業の海外投資が増えたことではないかと言われています。

日弁連が頭を悩ましてきた外弁制度ですが、おおむね順調に来ているようです。(弁護士 松森 彬)

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