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2018年3月の記事

2018年3月31日 (土)

今の民事裁判の問題(民事訴訟法施行20周年シンポジウム)

今の民事訴訟法が施行されたのは1998年1月でしたので、今年1月でちょうど20年になります。日弁連は、日本民事訴訟法学会の協賛を得て、民事訴訟法施行20周年シンポジウムを3月29日に開催しました。大阪でもテレビで視聴ができましたので、議論を聞いてきました。

 

20年前の新法で改正された主な点は次の4点です。①争点及び証拠の整理手続の整備、②証拠収集手続の拡充、③少額訴訟手続の創設、④最高裁への上告の制限です。今回のシンポジウムは、このなかの①の争点整理が取り上げられました。

 

日本の民事裁判は、かつては、やりとりは当事者の代理人である弁護士に任され、裁判官はあまり指揮をしませんでした。そのため、裁判のなかには、互いの主張がどうなるかがわからず、漂流式であると揶揄されたり、小刻みにだらだらと主張がなされ、五月雨式だと批判を受けたりする裁判もありました。その点は、新法ができたあと、裁判官と弁護士の努力で、かなり改善されてきましたが、現状の審理の課題について議論がされました。

 

最初に、法改正に携わられた高橋宏志教授が講演をされ、「改正点のなかの人証の集中証拠調べは予想以上に定着したが、新法のねらいの一つであった口頭議論での争点・証拠整理は、20年経って当時の熱気が失われ、形骸化しているように思う」と話されました。私は、今の民事訴訟に必要なものとして「口頭主義」が指摘されて、大変心強い思いがしました。私たちは、今、大阪弁護士会で、高裁の民事控訴審の形骸化を問題にして調査・研究をしているのですが、高裁では口頭議論がほとんど行われなくなっています。

 

パネルディスカッションでは、裁判官、弁護士、学者が争点整理の実情と改善策について議論されました。「少しずつ長期化しているのでは」、「口頭でのやりとりが大事だ」、「弁護士の準備が不足していることも」、「裁判官ももっとイニシャティブをとるべきでは」、「裁判所と弁護士が争点と証拠について認識を共有化することが必要だ」などの意見が出されました。「裁判官と弁護士ともに研鑽がもっと必要だ」という点は一致した意見であるように思います。

 

私は、この日のシンポジウムの議論を聞いていて、2点気になりました。

 

一つは、最近、認識の共有化をはかるために裁判官が「暫定的心証開示」をするという提案があり、この日も意見交換がされましたが、その内容については人により理解が異なり、まだ議論がいる課題であると思います。私は、裁判官は予断と偏見を持たずに審理にあたるべきで、必要なことは、主張や立証を確認したり、自分の持った疑問点を質問したりすることであるように思います。

 

また、「争点の整理」というのは、裁判官の仕事に着目した言葉遣いであると思います。今、争点整理と呼んでいる段階を、新民事訴訟法ができる前は、「弁論」と言っていました(当事者が意見を述べたり、議論したりすることに着目していたのです)。そこで、「弁論の活性化」という名称で議論していたのですが、その議論が新法の争点整理手続の整備につながりました。いうまでもなく、裁判で重要なことは、事実と法的主張が当事者からしっかりなされ、それについて充実した議論と証拠調べがなされることです。争点の整理は、そのための手段にすぎません。国民の訴えを聞くことが裁判という作業の要であって、争点の確認は、裁判官が効率よく判断すべき点を探るための工夫だともいえます。「整理する」という名のもとに、当事者の訴えや主張が軽々に切り捨てられたり、主張の確認や整理が裁判の中心だと誤解されて、主張だけで勝ち負けの心証が形成されたりすることがないように、実務法律家は注意する必要があります。

 

シンポジウムの議論を聞いておられたベテラン弁護士が、「裁判は弱者が切り捨てられないようにする配慮がいる」と感想をもらされましたが、大事な指摘だと思いました。実際の世の中は契約や取り決めをいつも書面にしているわけでなく、また、会社と個人では情報に大きな差があり、裁判をしながら証拠を収集することも必要になります。裁判では、そのような配慮も必要で、争点と証拠の整理を急ぐあまり、弱者が切り捨てられないようにすることが必要です。

(弁護士 松森 彬)

2018年3月19日 (月)

企業内弁護士が20人に一人に

弁護士は法律事務所で顧客のために裁判や交渉などの仕事をしている人が多いのですが、最近は会社で仕事をしている人もいます。「企業内弁護士」(インハウスロイヤー)といいます。自治体等で仕事をしている任期付公務員の人と合わせて「組織内弁護士」と言ったりします。

企業内弁護士との協働を考えると題したシンポジウムが2018年3月1日に大阪弁護士会館であり、出席してきました。企業内弁護士は、司法改革で増えていまして、現在は2106人です。現在の日本の弁護士数は4万0069人ですから、20人に一人、率にして5%を占めるに至っています。日本組織内弁護士協会という団体もできています。

約2100人のうち、東京の弁護士会に約1700人が所属していて、8割を占めます。大阪は130人で、京都が50人、愛知県が40人などです。企業内弁護士が多い会社は、ヤフー(28人)、三井住友銀行(20人)、野村證券(20人)、三菱商事(20人)、丸紅(15人)などです。かつては外資系企業が多かったのですが、日本企業が増え、メーカーでも増員されています。

企業内弁護士が増えている原因は、企業側の事情としては、会社のコンプライアンス(法令遵守)の重視や経済のグローバル化で、会社が法務機能を強化しようとしていることがあるようです。供給する弁護士側の事情としては、司法試験合格者数が増員され、弁護士が増えたことが一番の理由です。

司法改革で法律家の増員をはかる議論をしたときは、法律実務の経験を積んだ弁護士が会社や役所に入って行くことで法的な思考や法的な処理が広まることを期待し、想定していたのですが、最近は、そのコースの人もおられますが、法科大学院を出てすぐに会社に入るという例が増えているようです。会社に勤めていた人が司法試験を受けて、その会社に戻られる例もあります。会社としては、法律知識のある優秀な人がほしいのであって、実際の裁判は専門の顧問弁護士に依頼するので、実務経験はなくてもよいということかもしれません。

組織内弁護士が多いのはアメリカで、ドイツなどは全体の1割程度だと思います。興味深いのは、フランスで、企業内弁護士を認めていません。それは、弁護士は一切の圧力や影響を受けることなく依頼者である個人や企業の権利を守る必要がありますが、企業内弁護士は業務の独立が保障されないとして、認めていないようです。国によっては、法律事務所で代理や弁護の仕事をするときは、弁護士会に会費を払い、また業務の独立が保障されるが、企業内弁護士の場合は、そのような権限や義務が無いとしています。

日本でも、弁護士の業務の独立を確保するために、弁護士に対する懲戒権は弁護士会に認められ、弁護士は国や都道府県の監督を受けていません。これは、弁護士自治といいまして、税理士や司法書士には無い制度です。この制度があるので、弁護士は役所などの圧力や嫌がらせを受ける心配をすることなく、個人と企業の権利を守るために申立や裁判をすることができるのです。

企業内弁護士が、勤務先の会社の要請と弁護士倫理の要請との板挟みになったという例はまだ無いと聞きましたが、今後は企業内弁護士の自由と独立という問題が出てくるかもしれません。企業内弁護士は本格的に始まってまだ10年余りです。企業のコンプライアンスの充実などの成果が期待されますが、制度の検証、検討も続けていく必要があるように思います(弁護士 松森 彬)

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