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2017年12月25日 (月)

NHKの受信契約は何故結ばなければならないか(最高裁判決)

最高裁は、12月6日、NHKが受信契約を結ばない人に受信料の支払いを求めた民事裁判で、契約締結を求める放送法の規定は合憲であり、テレビを設置したときから受信料を支払う必要があるとする判決を言い渡しました。

最高裁で争われたのは、2006年にテレビを設置した男性が受信契約をせず、2011年にNHKは男性に受信契約を申し込みましたが、男性は、放送が偏っているなどの理由で拒否したというケースです。2011年にNHKが裁判を起こし、男性は、受信契約の強制は契約の自由を保障した憲法に違反すると訴えていました。

判決は、最高裁のホームページの最近の裁判例で見ることができます。社会的影響が大きい裁判ですから、判決文は長く、丁寧に書こうとした感じはします。しかし、判決は法律解釈としてはなかなか苦しいところがあるように思います。その原因は、法律(放送法)が契約を締結しなければならないと決めていますが、契約を締結をしなかったときのことを何も定めていないことにあります。そこで、木内裁判官は、放送法の規定からは多数意見のような結論は出せないとして、NHKの請求を認めないとする反対意見を述べました。

私は、これまで、NHKの受信料については、漠然と、広告収入がないNHKが受信料を求めて、それによって運営されるという制度もあり得ることかなくらいに考えていただけですが、この判決を読んで、また、少し調べて、いろいろ考えさせられました。

まず、国により、又、時代により、公共放送と呼ばれるものには様々な形のものがあることがわかりました。直接国による国営放送として行われている国もあれば、NHKのような公共放送は無いという国もあります。公共放送がある国でも、日本のように罰則のない受信料制度の国もあれば、受信料を税金として徴収している国、あるいは電気料金と一緒に集金している国もあるようです。

昭和25年に放送法ができて、NHKは受信料で運営されることになりましたが、当時は未だテレビ放送は行われておらず、受信料はラジオについて定められたものでした。その後、テレビが普及し、ラジオの受信料は昭和43年に廃止になりました。最近は、スマホのワンセグやインターネットでの視聴が出てきたようです。将来、テレビという受信媒体は無くなるか、大きく変容するかもしれません。これからも公共放送が必要か、公共放送の制度を持つとしてもどういう制度にするか、その場合受信料をどうするか。文化、社会のあり方として国民で議論して決めていく必要があると思います。

昭和25年に日本放送協会(NHK)を設けたとき、政治の影響を受けやすい国営放送とせず、また、受信料も税金として強制的に徴収するという強引な形にせず、テレビを持つ人は日本放送協会と契約を締結しなければならないとし、その受信料で公共放送を維持するという制度にしました。強制の仕方が直接的でなく、迂遠ともいえますが、こういう仕組みに理想を求めたのかもしれないと思います。

ただ、この最高裁判決が、契約を強制しても憲法に違反しない理由として、NHKの受信料制度は「憲法21条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され」ているのだとしたのを読んで、正直言って、そうだったのかと驚きました。そこで、放送法を見たのですが、法律には、NHKは「公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように、豊かで、かつ、良い放送番組による基幹放送を行う」ことなどを目的とすると書いているだけなのです。さらに、判決は、受信料制度は「特定の個人、団体又は国家機関等からの財政面の支配や影響がNHKに及ぶことがないように」するためのもので、「国民の知る権利を実質的に充足し健全な民主主義の発達に寄与することを究極的な目的と」すると書いて、受信契約は法的強制力を持つ規定と解されるとしました。しかし、法律にはそのような文言はありません。この指摘は、NHKが裁判で主張してきたことだと言います。NHKとしては、受信契約の強制が国民の人権を侵害するものでないというために、国民の知る権利を充たすためだと言わざるを得なかったのだと思いますが、受信料を認めてもらうために裁判の場だけで格調高く言っているのでなければよいがという気もします。私は、公共放送の制度目的について国民の理解を深め、また、NHKの自覚を促すために、最高裁判決が制度の趣旨だとして掲げた上記判示を放送法の明文の規定にするのがよいと思います。

NHKの籾井前会長は、「政府が右というものを左と言うわけにいかない」と発言して、批判を浴びました。本当に、NHKという制度が、国民の知る権利を充足させるために、又、民主主義を発展させるためのものであれば、そして、広告収入だけで運営せざるを得ない民間放送と異なる、NHKらしい良質の番組を提供するのであれば、NHKは自ずと国民の支持を得られるのではないかと思います。NHKは、最近まで訴訟のような強制手段はとりませんでした。新聞によりますと、NHKは、これまでに約4000件の訴訟を行ったようですが、未契約の世帯や事業者は約900万件といいますから、訴訟だけでの解決は現実的でなく、結局は、国民、視聴者が意義を理解して受信料を支払う公共放送にしていく努力が要ると思います。

15人の裁判官のなかで、一人だけNHKの請求を認めない意見を出した裁判官がいます。それは、木内道祥裁判官です。大阪の弁護士で、私もよく知っています。人格も見識も立派な人です。木内裁判官は、放送法の規定(64条1項)は、任意の契約締結を前提としているものであるとし、法律は受信契約の内容を定めておらず、また、1世帯に親と子がテレビを持っていたような場合、どちらが契約の主体かを定めておらず、裁判で契約締結を命ずることはできないと判断しました。そして、多数意見は、受信料の支払債務はテレビ設置のときからだとしましたが、木内裁判官は、多数意見は契約成立を判決確定のときであるとしながら、受信料の支払い義務が遡るはおかしいと述べました。この点、多数意見は、「差異が生ずるのは公平といえないから」という理由で、テレビ設置のときから支払債務が発生するとしました。木内裁判官は、放送法が受信料の支払義務を直接的に規定せず、あくまでも視聴者との契約によるとした点を尊重して判断をしたのに対し、多数意見は、法律の不備として解釈で押し切ったという感じがします。

木内裁判官は、2018年1月で定年退官されます。後任の裁判官が政府から発表されましたが、租税法、企業法を専門とする東京の女性の弁護士の方だそうです。これまで、最高裁には、4人の弁護士が裁判官に入り、そのうち一人は大阪又は関西の弁護士でした。最近では大阪の滝井弁護士や田原弁護士が最高裁でよい仕事をされ、木内弁護士もなるほどと思う判断をいくつもされました。市民事件をたくさん経験した人権感覚のある弁護士が最高裁には常にいてもらいたいと思います。(弁護士 松森 彬)

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