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2017年9月の記事

2017年9月22日 (金)

憲法に関する判決が少ない日本

「なぜ日本では憲法に関する判決が少ないのか」について泉徳治氏(元最高裁判事、現在弁護士)が大阪弁護士会で講演をされ、聞いてきました。泉氏は、1963年(昭和38年)から2009年(平成21年)まで裁判官をされていた人で、この間、最高裁調査官、事務総長、最高裁判事などを務められました。

日本では、過去70年間に憲法に違反するとした判決は、全部で21件しかありません。そのうち、法令が違憲とされたものが10件で、国の処分が違憲とされたものが11件です。前者の法令が違憲とされたものは、議員定数配分規定が違憲とされた判決や、婚外子の相続分を差別していた民法の規定が違憲とされた判決などがあります。また、後者の国や府県の処分について審理された事件には、県が護国神社の祭りごとに公金を出したことが違憲とされた判決や、令状なしにGPSを車に取り付けた捜査が違憲とされた判決があります。ちなみに、韓国では、27年間に違憲の疑いがあるとされたものも含めて約700件の違憲判決が出ているといいますから、日本の数の少なさがわかります。

泉元判事は、日本の最高裁が違憲判決をほとんど出さない理由を5点指摘されました。第1は、最高裁判事に公務員出身者が多いことです(15人中10人)。また、調査官が全員裁判官で、しかも、憲法を担当している調査官はいないことです。韓国には、憲法裁判所があり、憲法問題を担当している調査官が80人もいるようです。第2に、裁判官には、憲法は単に理念を定めているだけで、国民の権利自由は法律の具体的規定で決まると考える傾向が強いと指摘されました。国民から憲法に違反するという主張が出ていても、法律の解釈に関する主張であるとして憲法判断を避けている判決もあるとのことです。これでは、いくら憲法の問題だと主張しても憲法解釈の判断は出ないことになります。第3は、最高裁の小法廷は、合憲であると判断した大法廷判決を他の法律問題まで引用して拡大解釈する傾向があるとの指摘です。第4として、裁判官には、違憲と判断するのは国の行為が明らかな裁量権の逸脱・乱用があった場合に限られるとする思考が多いと指摘されました。第5として、日本は違憲審査の基準が未成熟であると思うと指摘されました。そして、この点がわが国にとって一番大事な問題ではないかという意見を述べられました。

泉元判事は、違憲判断に慎重な裁判所から適切な違憲の判断を引き出すためには、次の6点が必要であると思うと話されました。

第1は、国の行為で制約をうける国民の権利や自由が憲法により直接保護されているものであることを正面から主張する必要があると話されました。

第2に、同種事件の訴えを多数の裁判所に提起し続け、高裁の違憲判決を1件でも引き出し、最高裁が憲法判断をせざるを得ない状況を作ることが大事だと話されました。

第3に、学者等の協力を得て、外国の判例を資料として提出することも意味があると話されました。

第4に、被疑者の権利などについては自由権規約や同委員会最終見解などを活用して世界の趨勢を気づかせる必要があると話されました。

第5に、個人の基本的人権や少数者の人権、民主政のシステムを守るのは司法の役割であることを強調して、違憲審査基準論を参考にした厳格な審査を要求する必要があるとのことです。

第6に、最高裁は、しばしば「総合的衡量により必要性や合理性が認められるか否か」という基準を立てますが、この基準はあいまいで、どちらの結論も引き出せると指摘されました。これを防ぐには、ドイツの憲法裁判所の考え方である「三段階審査論」が有効であるとして、紹介されました。これは、①第1に、当事者の主張する利益が憲法の定める基本権が保護しているものかの検討をする、②第2に国の行為が基本権を制限するといえる程に強く制約しているかを検討する、③第3に、国の制約が、その目的を達するためのものとしての適合性、必要性、比例性を有しているかを検討するというものです。泉元判事は、憲法問題を審査する手法、審査する基準が日本では育っていないと言われ、その点に最大の問題があると話されました。総合的な考量は、一般の民事事件でも裁判所がよく使う言い回しですが、結論を先に出して、後で理屈を付けることになる危険があります。

泉元判事も指摘されましたが、「憲法は国民の権利・自由を直接に保障しているものだ」という考えが、国民のみならず、裁判官、弁護士にも少ないように思います。日本でも司法が十分に機能を果たすために、司法に携わる弁護士、裁判官が、憲法をもっと活用する必要があると思いました。(弁護士 松森 彬)

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2017年9月10日 (日)

弁護士費用が出る保険があります(事故などがあったときは調べて下さい)

日弁連が主催する「弁護士業務改革シンポジウム(第20回)」が9月9日に東京(会場は東大)で開かれ、出席してきました。日弁連は、人権、司法制度、業務などのテーマについて大規模なシンポジウムを定期的に開いています。今回は、私がかねがね大事だと思っている「裁判費用や弁護士費用が出る保険」(権利保護保険あるいは弁護士費用保険といいます)がテーマの一つでしたので、その分科会に出てきました。

ヨーロッパでは100年程前から、この権利保護保険が普及しています。日本は、随分遅れ、2000年に日弁連と保険会社が協力して、自動車保険の特約として発足させました。これは、交通事故で被害を受けた人が裁判所の費用や弁護士費用を保険から出してもらえる制度です。2015年には、この特約が付いた自動車保険は約2400万件になっているそうです。これにより、従前であれば、費用面からあきらめたかもしれないケースも、泣き寝入りをせずに、弁護士に頼んで賠償金を確保できるようになりました。

交通事故の場合だけでなく、日常生活の事故で被害を受けたときも保険金が出るものもあります。そして、契約者本人だけでなく、配偶者や同居の親族が事故にあったときも保険金が出るものが多いようです。

たとえば、①自動車を運転中に追突されてケガをした、②子どもが学校で暴力を受けてケガをした、③歩いていて自転車とぶつかってケガをした、④バイクが盗まれ、部品が壊された、などの場合に弁護士費用が保険から出ます(保険により異なりますので詳細は保険会社にお尋ねください)。

また、火災保険、家財保険、自転車保険、海外旅行保険、医療保険などでも、本人や同居の家族が生活上の事故でケガをしたり、家具が壊れたりしたときに弁護士費用が出る保険があります。

そこで、皆様が、もし、交通事故や日常生活の事故にあったときは、配偶者の保険契約も含めて、パンフレットや約款を調べてください。弁護士費用の特約が付いていれば、相手の対応が納得いかないときに弁護士に頼んで損害賠償を請求できる可能性があります。なお、どの弁護士に依頼するかは契約者が自由に選ぶことができます。

まだまだ日本は権利保護保険の整備が遅れています。今後は、交通事故と生活上の事故だけでなく、その他の紛争にも拡大することが必要です。また、中小企業はコストをかけにくいので、「中小企業のための弁護士費用保険」の普及が課題です。(弁護士 松森 彬)

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