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2017年6月24日 (土)

共謀罪(テロ等準備罪)法の問題点

去る6月15日に、いわゆる共謀罪(テロ等準備罪)の創設を含む法律改正が国会で可決されました。従前は共謀罪と言われ、反対意見が多く、これまで3回廃案になりました。安倍内閣は、この度、要件を変えて「テロ等準備罪」という名前にしました。この犯罪は対象があいまいであるなど、法律としていろいろな問題があることから、弁護士会は反対してきました。法律成立後、日弁連や大阪弁護士会などは会長声明を出し、今後は廃止を求める取り組みをするとしています。

成立した共謀罪(テロ等準備罪)がどういうもので、法律家から見てどんな問題があるかを説明したいと思います。

共謀罪(テロ等準備罪)は、組織的犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等の関する法律)を改正して、そのなかに定められました。処罰される行為は、「組織的犯罪集団(犯罪の実行を共通の目的として結成されている団体)の活動として、組織的な殺人やテロなどのほか、全部で277の犯罪を2人以上で計画すること」です。そのうちの誰かが資金、物品の手配や場所の下見などの準備行為をすることが必要だとされています。

近代の刑法では、心の中で思ったことだけでは処罰せず、具体的な行為として現れて初めて処罰対象になります。すなわち、「既遂」を処罰するのが原則で、「未遂」が処罰されるのは例外で、それ以前の「予備」が罰せられるのは内乱罪や殺人罪など極めて例外です。ところが、共謀罪は、この「予備」よりも犯罪実行から遠い「計画」という合意だけで処罰することになります。日本の刑事法の原則を大きく変えると言われているのは、その点からです。

共謀罪(テロ等準備罪)では、合意の内容が犯罪にあたることかどうかを判断するため、通信傍受などのプライバシーに立ち入った監視が日常的に行われ、人権が侵害されることが懸念されます。

政府が作成したQ&Aには、一般人は対象にならないと書いていますが、法律にそのような規定はなく、277の犯罪にはテロや殺人だけでなくキノコの違法採取や墓荒らしまで入っています。対象犯罪が多く、合唱サークルが楽譜をコピーすれば著作権法違反で組織的犯罪集団にされる恐れがあるという指摘があります。広く市民団体や環境団体や宗教団体などが捜査対象にされる危険があります。

元刑事裁判官をされていた木谷明弁護士は、捜査権が乱用されることを懸念すると言っておられます。これまでから、警察が労働組合の敷地に侵入して無断でビデオカメラを設置した事件があり、また、風力発電施設の建設に反対する住民の情報を警察が収集していたことがありました。警察が疑いをかければ、一般国民ではないとされるおそれがあります。戦前にあった治安維持法も、政府は法律を作るときは一般国民が対象になると言っていましたが、その後改正がされて、何万人もの人々が検挙され、弾圧されたと聞きます。

政府は、共謀罪(テロ等準備罪)を設ける理由として、国連の越境組織犯罪防止条約が組織犯罪対策のために未遂以前の段階での対応を可能とする立法措置を求めていると説明してきました。これについては、弁護士会や学者は日本では既に様々な法律で重大犯罪について未遂以前の予備などの段階で処罰する法律を整備しており、国連の条約を批准するために新たに共謀罪法を設ける必要はないと指摘していました。

弁護士や法律学者が共謀罪法に反対してきたのは、上記のような問題があるからです。警察庁は、全国の警察に慎重な運用を指示したようですが、そのこと自体、この法律の危険性を示しているように思えます。捜査の適正が確保され、国民の自由と権利、プライバシーが侵害されることがないように国民は関心を持っていただく必要があると思います。(弁護士 松森 彬)

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