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2017年6月の記事

2017年6月28日 (水)

高等裁判所の控訴審についてのシンポジウムで報告をしました

高等裁判所の審理について、去る6月21日に大阪弁護士会館で弁護士会主催のシンポジウム「民事控訴審のあり方ー事例を踏まえて」が開かれ、私はパネリストの一人として報告をしました。これは、最近の高等裁判所の審理が以前と随分変わってきており、その実情と問題点を明らかにして、どうすればよいかを考えるという目的で開かれたものです。

最初に、問題があると思われる17の事例が発表され、そのうち代表的なものが報告されました。2件ご紹介します。29億円を自治体の開発公社に貸し付けた会社が、返してもらえないので裁判を起こし、地方裁判所は29億円の返済を被告に命じました。しかし、高等裁判所は、1回裁判期日を開いただけで結審し、判決では、地方裁判所のときには大きな争点となっていなかった論点で判断をして、請求を全く認めないという逆転判決を出したケースです。高等裁判所の裁判官が新たな争点について着目するのであれば、当事者にその点を言って、双方に主張や立証の機会を与えるべきではないかと考えられます。

また、養子縁組が有効になされたかどうかが争いになった事件で、地方裁判所は、母親の認知症が重く、養子縁組は無効であるという判決でした。高等裁判所は、追加して証拠を出したいという当事者の希望を認めず、1回で結審して、家族が書いた陳述書などで、母親の意思能力に問題はなく、養子縁組は有効であると、逆転の判決を出しました。これも、無理に一回で結審するのではなく、十分な反論、反証の機会を与えるべきではないかと思われます。

事例報告のあと、松本博之大阪市大名誉教授が、民事訴訟法では、高等裁判所の審理は地方裁判所の審理の続きと定めており、単に地方裁判所の判決をチェックするだけでは不十分であるという講演をされました。

そのあと、元裁判長をされていた井垣敏生弁護士と、松本名誉教授、それに私と正木みどり弁護士でパネルディスカッションを行いました。

高等裁判所は、最近は78%の事件が1回で結審しています。しかし、以前は3回、4回と開かれ、3割の事件で人証調べが行われていました。控訴される裁判の件数が増えるのに合わせて、裁判官はしんどくなったのか、どんどん人証の調べをしなくなり、最近では、人証調べが行われるのは僅かに1%です。結論が逆転するような事件でも、ほとんどの事件で裁判官は何も言わず、法廷の裁判手続は5分位で終わることもあります。黙って逆転するわけですから、当事者や弁護士からはブーイングの声が大きくなっています。

パネリストの井垣元裁判長(現弁護士)は、年間60人ほどの人証調べをされたようで、忙しくても調べをしようと思えばできると言われます。

私は、シンポジウムでは、「今の高等裁判所は1回結審オンパレードの状態にあるが、多数の問題事例が発生しており、見直しが必要だ」と発言しました。そして、「国民が裁判に求めているのは、審理の公正と充実である。1回で終わることを原則とせず、第1回期日は裁判官と当事者間で十分なやりとりをする機会にすべきである」と意見を述べました。これは、今回プロジェクトチームを組んだ弁護士の一致した意見です。「裁判官と国民との意思疎通」言い換えると「コミュニケーション」を欠いているのが今の高等裁判所の裁判だと思います。裁判制度は神さまのご託宣ではないのですから、黙って結論を言い渡すのは駄目だと思います。裁判官の思い違いがないか、考え違いがないかを考えて当事者と代理人弁護士の意見を十分に聞くことが求められます。

この日のシンポジウムには、大阪だけでなく近畿の弁護士が合計120人出席されました。また、シンポジウムの議論は法律雑誌に掲載される予定です。裁判は3回できると思っておられる国民が多いと思いますが、最高裁判所は法律的な問題の審理をするだけですので、高等裁判所が、事実はどうであったかを審理する最後の裁判所です。高等裁判所の重要さに鑑みて、もっと充実した審理をする必要があります。(弁護士 松森 彬)

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2017年6月24日 (土)

共謀罪(テロ等準備罪)法の問題点

去る6月15日に、いわゆる共謀罪(テロ等準備罪)の創設を含む法律改正が国会で可決されました。従前は共謀罪と言われ、反対意見が多く、これまで3回廃案になりました。安倍内閣は、この度、要件を変えて「テロ等準備罪」という名前にしました。この犯罪は対象があいまいであるなど、法律としていろいろな問題があることから、弁護士会は反対してきました。法律成立後、日弁連や大阪弁護士会などは会長声明を出し、今後は廃止を求める取り組みをするとしています。

成立した共謀罪(テロ等準備罪)がどういうもので、法律家から見てどんな問題があるかを説明したいと思います。

共謀罪(テロ等準備罪)は、組織的犯罪処罰法(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等の関する法律)を改正して、そのなかに定められました。処罰される行為は、「組織的犯罪集団(犯罪の実行を共通の目的として結成されている団体)の活動として、組織的な殺人やテロなどのほか、全部で277の犯罪を2人以上で計画すること」です。そのうちの誰かが資金、物品の手配や場所の下見などの準備行為をすることが必要だとされています。

近代の刑法では、心の中で思ったことだけでは処罰せず、具体的な行為として現れて初めて処罰対象になります。すなわち、「既遂」を処罰するのが原則で、「未遂」が処罰されるのは例外で、それ以前の「予備」が罰せられるのは内乱罪や殺人罪など極めて例外です。ところが、共謀罪は、この「予備」よりも犯罪実行から遠い「計画」という合意だけで処罰することになります。日本の刑事法の原則を大きく変えると言われているのは、その点からです。

共謀罪(テロ等準備罪)では、合意の内容が犯罪にあたることかどうかを判断するため、通信傍受などのプライバシーに立ち入った監視が日常的に行われ、人権が侵害されることが懸念されます。

政府が作成したQ&Aには、一般人は対象にならないと書いていますが、法律にそのような規定はなく、277の犯罪にはテロや殺人だけでなくキノコの違法採取や墓荒らしまで入っています。対象犯罪が多く、合唱サークルが楽譜をコピーすれば著作権法違反で組織的犯罪集団にされる恐れがあるという指摘があります。広く市民団体や環境団体や宗教団体などが捜査対象にされる危険があります。

元刑事裁判官をされていた木谷明弁護士は、捜査権が乱用されることを懸念すると言っておられます。これまでから、警察が労働組合の敷地に侵入して無断でビデオカメラを設置した事件があり、また、風力発電施設の建設に反対する住民の情報を警察が収集していたことがありました。警察が疑いをかければ、一般国民ではないとされるおそれがあります。戦前にあった治安維持法も、政府は法律を作るときは一般国民が対象になると言っていましたが、その後改正がされて、何万人もの人々が検挙され、弾圧されたと聞きます。

政府は、共謀罪(テロ等準備罪)を設ける理由として、国連の越境組織犯罪防止条約が組織犯罪対策のために未遂以前の段階での対応を可能とする立法措置を求めていると説明してきました。これについては、弁護士会や学者は日本では既に様々な法律で重大犯罪について未遂以前の予備などの段階で処罰する法律を整備しており、国連の条約を批准するために新たに共謀罪法を設ける必要はないと指摘していました。

弁護士や法律学者が共謀罪法に反対してきたのは、上記のような問題があるからです。警察庁は、全国の警察に慎重な運用を指示したようですが、そのこと自体、この法律の危険性を示しているように思えます。捜査の適正が確保され、国民の自由と権利、プライバシーが侵害されることがないように国民は関心を持っていただく必要があると思います。(弁護士 松森 彬)

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2017年6月16日 (金)

最高裁判事の選び方

最高裁は、司法の柱として大事な役割を担っています。サラ金の高利の問題や公害事件、えん罪事件、あるいは今年3月に判決が出たGPS捜査の裁判など、国民の権利や生活に影響がある数々の判決を出しています。

最高裁の裁判官は15人です。わが国では、最高裁判事の選任についての法律(裁判所法41条)の定めは簡単で、「識見の高い、法律の素養のある者」から選ぶとしており、15人のうち少なくとも10人は裁判官、弁護士、検察官、大学教授など法律の専門家から選ぶとだけ決めています。15人の構成は、長い間、裁判官出身者6人、弁護士出身者4人、検察官出身者2人、行政官出身者2人、学者出身者1人でした。そして、弁護士出身判事は、日弁連が内部の推薦手続を経て複数の候補者(今回は6人)を最高裁に推薦し、そのなかから最高裁が内閣に推薦し、内閣は最高裁の推薦を尊重して任命してきました。

ところが、今年1月、内閣は弁護士出身判事の後任を決める際に、日弁連が推薦した弁護士出身の候補者(6人)から選ばず、学者出身者を選びました。この人は長い間法学部の学者で昨年弁護士登録をしたばかりの人で、実質的には学者出身です。その結果、日弁連が推薦した弁護士出身者は4人から3人に減りました。

弁護士は、民事裁判の代理人や刑事手続の弁護人などが日々の仕事ですので、もっとも国民に身近な法律家だといえます。弁護士出身の多くの最高裁判事が人権感覚豊かな判断をしたり、社会の現実を踏まえ弱者に寄り添う個別意見を述べたりしてきました。アメリカやイギリスでは、法曹一元制度といいまして、地裁の裁判官などもすべて一定年齢以上の弁護士等の法律実務を積んだ法曹から選任しています。それは弁護士等の法律実務の経験が裁判官の職務に必須あるいは有益と考えられているからです。

日本でも、昭和22年の最高裁発足時は弁護士出身判事は今より多く15人中5人でした。昭和40年代に4人になりましたが、その後50年近く、弁護士出身判事が4人務めてきました。

今の内閣(安倍晋三首相)は長年続いてきた最高裁判事の選任方法を変えたのですが、なぜ変えるのかについての議論はありませんでした。今の方法は多数の法律家を知っている弁護士会や最高裁が適任者を複数選び、それを尊重して内閣が選ぶというもので、適任の法律家を選出することができる一つの方法です。選任方法を変えるにあたって特段の議論もなく、恣意的に選ぶこともできるとなると、ときの内閣が政治的に最高裁判事を選ぶこともできてしまいます。弁護士会の司法制度を検討する委員会では、今回の選任は不透明であり、問題であるという意見が出ています。

平成13年の司法制度改革審議会意見書は、「最高裁裁判官の選任過程について透明性・客観性を確保するための適切な措置を検討すべきである。」としました。しかし、日弁連が弁護士出身候補者について選考手続きを設けている以外は、透明性・客観性を確保する制度整備は行われていません。最高裁判事の選任は司法が役割を果たすことができるかどうかに関わる大事なことであり、閉鎖的になるのではなく、オープンなものに変えて行く必要があると思います。(弁護士松森 彬)

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