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2017年4月29日 (土)

「進行協議期日」による事実上の検証

今週は、裁判官と双方当事者が裁判対象の機械が置いてある倉庫に行き、そこで機械を検分する手続きをしました。

民事訴訟法は、裁判官が事故の現場や事件に関する物を見る手続きとして「検証」という手続きを定めています。私も、これまでに交通事故の裁判や、境界確定の裁判、騒音公害の裁判などで検証を申請し、実施されたことがあります。ただ、最近は検証が激減しています。一番の理由は、裁判官が見聞きしたことや対象の物の状態などを書いた検証調書を作るのが手間であるとして、裁判所が嫌がることです。二つは、「進行協議期日」という手続きを利用して調書を作らずに事実上見に行くことが行われているからです。三つは、筆界特定制度という法務局の調査制度ができて、この制度で境界問題が解決する例が増えたことです。四つは、写真やビデオでもある程度はわかることがあると思います。ただ、写真やビデオは写っていることしか分からず、距離感、立体感などが無いので、現地や現物を見るのとは全く異なります。弁護士は現地や現物を見ますので、直接見ることの重要性を実感していますが、裁判官はその違いや実際に見る重要性が分かっていない可能性があります。弁護士が検証の申請をしましても、必要性を認めないといって検証をしない裁判官が多くなっています。私が座長になりまして数年前に大阪弁護士会で民事裁判について弁護士に意見を聞くアンケート調査をしましたが、裁判所はもっと検証を採用するべきだとの声が多数ありました。

今回、行われたのは「進行協議期日」の手続きを利用しての機械の検分でした。進行協議期日は、民事訴訟規則に規定があり、「審理を充実させることを目的として」、「証拠調べ争点との関係の確認その他訴訟の進行に関し必要な事についての協議を行うもの」です。名前のとおり裁判の進め方等について協議をする手続きなのです。進行協議期日は、民事訴訟法に定めがある制度ではなく、最高裁が平成8年に最高裁規則で新設した手続です。

ところが、本来の協議の目的でなく、検証の代わりとして使われることが増えています。裁判所としては、実際に現場や物を見ることができるうえに、検証調書を作らなくて済むというメリットがあります。また、裁判手続きは原則として裁判所で行われますが、この進行協議期日は裁判所でないところで開くこともできると定められていますので、そのこともこの手続きが検証の代わりに使われている理由です。進行協議期日で検分したことは当事者側が写真に撮って説明書を付けて証拠として出すというのが実務になっています。
当事者は、多くの場合は検証手続きで実施をしてほしいのです。その方が記録に残り、裁判官が交代したり、控訴審に行ったりしても、それを見てもらうことができるからです。しかし、検証の申請をしても裁判所が採用しないことが増えているなかで、たとえ進行協議期日であっても、裁判官に現場に行ったり、物を見てもらえるのは、裁判官によく分かってもらうという点では大いに意義がありますので、「検証はしませんが、進行協議期日で見に行きます」と裁判官が言えば、当事者はそれで甘んじているというのが実際です。

もう一つ、この進行協議期日は、高裁の控訴審で行われることが増えています。こちらは検証の代役として利用される場合に比べれば、まだ本来の目的に近いといえますが、弁論期日という正式の期日で行われてもよいのに、進行協議期日として指定されることがあります。
その理由を元高裁裁判長に聞きますと、それは裁判迅速化法ができていて、期日の回数などの統計が取られており、裁判官は裁判の期間や期日の回数に敏感になっているのですが、進行協議期日は正式の期日としてカウントされないために、一部の高裁裁判官が進行協議期日として開いているようです。しかし、裁判の正式の期日は公開ですが、進行協議期日は非公開です。また、進行協議期日は高裁の担当裁判官(3人)が全員出席せず、陪席判事が一人だけで進めますので、議論も十分にできないこともあります。そこで、当事者側からしますと、正式の期日で裁判長も入って十分な議論をしてほしいのですが、これも、検証の代役としての進行協議期日の場合と同じで、形式としては不十分でも、審理の機会が増えるのであればプラスの方が多いので、当事者側はそれに甘んじているといえます。

本来の手続きが実施されず、裁判所側の都合で、本来の目的と違う手続が便法で利用されています。乱用だという声が大きくならないのは、検分が全く実施されないよりはましだという当事者と代理人弁護士の切羽つまった気持ちがあるからです。進行協議期日は最高裁の規則で設けられたもので、国会での議論を経ていません。この手続が本来の目的を逸脱して、ルーズな裁判にしていないか、弁護士会と学者がきちんと意見をあげるべきであると思います。

今週の進行協議期日ですが、やはり物を裁判官に見てもらうことによって審理の充実に大きく寄与したと思っています。まさに「論より証拠」であり、「百聞は一見に如かず」です。相手方は、これまで具体的な事実関係の論争を避けてきましたが、現物を前にして、さすがに説明をしないわけにいかず、具体的な説明をしました。証人調べも、事実解明の審理方法として必須といえるほどに重要ですが、現地・現物を見ることも、やはり事実を裁判官が知るために、そして双方が十分な事実関係の主張をするために大変重要な意義を持っているといえます。

なお、正式の記録が作られない点について、今回の裁判では、裁判長の提案で、当事者でビデオ撮影をしてそれを証拠として提出することになりました。当事者側の現場での説明もビデオの記録に残りますので、欠点はかなり補われると思います。

裁判官と書記官の人数を増やして正式の検証をもっと増やしてもらいたいと思います。また、並行して、裁判関係者の努力・工夫で行うべきことも多いと思いました。(弁護士 松森 彬)

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