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2016年9月の記事

2016年9月10日 (土)

弁護士と裁判官(やりがいと苦労)(弁護士松森彬)

日本では、弁護士のほとんどは一生弁護士の仕事をしていますが、司法改革により、弁護士から裁判官になる人が少しですが出てきています。また、裁判官は定年で辞めたあと弁護士登録をしている人が多く、名前だけでなく実際に弁護士業の仕事をしている人があります。

私は、弁護士と裁判官の両方を経験している人をかなり知っています。それは私が弁護士から裁判官になる人の選考委員をしていたことや、若いころから裁判官の友人も多かったからです。

両方経験した人は、どんな感想を持っているでしょうか。弁護士と裁判官は、どんなやりがいがあり、また、苦労があるのでしょうか。

弁護士の仕事冥利は、紛争や問題を抱えて困っておられる人の助けができることだと思います。解決すると、お礼を言ってもらえて、それまでの疲れは飛びます。これらに加えて、私は、弁護士の仕事には、その問題をどう解決するか、権利をどう実現するかについて解決策や理屈を企画・提案できる面白さがあると思っています。

裁判官のやりがいはどうでしょうか。弁護士がいくらよいことを言っても、裁判官の判断が裁判所としての最終判断ですから、その重要さ、効力の大きさは絶大です。ただ、裁判官は、直接、当事者からお礼や感想を聞くことはありません。以前、裁判官に、どんなときに仕事のやりがいを感じるのかと聞きますと、複数の裁判官が「その事件の筋が見えたときだ」と言っておられました。その問題をどう理解してどう結論を出すかが分かったときだということでしょうか。なるほど、そんなものかと思いました。

どちらの仕事が大変でしょうか。裁判官を辞めて弁護士をしている人が、「弁護士の仕事は依頼者に気を遣うので、大変だ。裁判官は良心と法律に従って判断するだけで、どちらを勝たせてもストレスになることは、まず無い。そうでないと公正な判断ができないともいえる。しかし、弁護士の代理人としての仕事はそうはいかない。依頼者があるので大変だ」と言っていました。

ちなみに、私は検察官を定年で辞めたあと弁護士になった人と話しをしたこともあります。「検察官は若いときは忙しいが、年をいくと管理職になり、少し楽になる。弁護士は年をいっても忙しく、よく仕事をしていて大変だなと思う」と言っていました。もちろん、いちがいには言えることではありませんが、これらを聞くと弁護士の仕事はなかなか大変なのだなと思います。

弁護士から裁判官になった人からも、弁護士のときは大変だったという話を聞きました。「裁判官は決まった時間に仕事をする。自宅に仕事を持って帰るとかストレスを引きずることもないが、弁護士のときは、仕事が混むと、夜も遅くまで、場合によっては休日も潰して仕事をした。弁護士時代は大変だったなと思う」ということでした。また、「弁護士は事務所経営でお金の心配をすることもあったが、裁判官はそういうこともない」とも言っていました。

以上のように言いますと、裁判官の仕事の方が楽に聞こえますが、裁判官も苦労はあると思います。日本では、転勤制度があり、人事評価があります。いくら丁寧に審理をしたいと思っても事件を溜めると評価が下がるようです。転勤や昇級において差がつくこともあると聞きます。また、仕事の性質は受け身です。自分から調査をしたり、証拠を集めたりはできません。また、かつては裁判官は赤提灯には行きにくいとも言われました。不必要と思われる自制ですが、弁護士に比べると自由感は無いと思います。

裁判官と弁護士は、ともに裁判の仕事をする職業ですが、役割と仕事の内容はかなり異なります。上記は一部の方の意見ですが、司法が国民のものであるためには、いろいろな意見を知っていただくのがよいかと思います。弁護士と裁判官の両方を経験した人の意見を基に、弁護士と裁判官のやりがいと苦労の一端をご紹介しました。(弁護士 松森 彬)

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2016年9月 6日 (火)

現在の四大公害・環境問題 (弁護士 松森 彬)

宮本憲一大阪市立大学名誉教授が「戦後日本公害史論」で日本学士院賞を受賞されたことを記念したシンポジウムがあり、経済学者、法学者、環境学者、弁護士などが多数参加されました。私も話しを聞いてきました(日本環境会議などが9月4日に立命館大学で開催)。

宮本名誉教授は、日本はかつての公害を乗り越えてきて、最近の学生は公害という言葉さえ知らないが、公害は再燃していて、今、4つの大きな公害、環境問題があると言われます。「未だに解決をしていない水俣病問題」、「史上最悪といえる福島の原発公害」、「多数の被害者が出ているアスベスト問題」、「沖縄最大の環境破壊が予想される辺野古基地問題」が四大公害・環境問題だと言われます(「世界」9月号に論文を書いておられます)。

当日のシンポジウムは、これらの問題について学者から報告があり、そのあとパネルディスカッションが行われました。一つ目の水俣病問題は、被害者は現在も熊本県と鹿児島県だけで約7万人もおられると推定されているようです。また、二つ目の福島の原発事故では今も9万人の離散者が出ていて、事故の賠償や回復の費用は13兆円にもなるそうです。アスベスト問題は、宮本名誉教授によりますと、この10年間に2万人の犠牲者が出ていて、今後も続くと言われます。私ごとですが、親戚に被害者がおられ,後遺症に苦しんでおられます。また、沖縄の辺野古は海にジュゴンがおり、森にも貴重な生物がいるようですが、事前に十分なアセスメントがされていないという報告でした。

宮本名誉教授は、かつての公害事件は企業に責任があったが、現在の4大公害・環境問題は政府の責任が大きいと言われます。解決策は、戦後公害の教訓が活かされるべきで、そこでは、地方自治の本旨と三権分立のもとでの司法の役割が大きいという意見を述べられました。そして、これまで公害被害の救済に役だった法理は人格権でしたが、これからは予防が大事で、環境権が認められるべきであるというご意見でした。環境権は憲法で定める必要はなく、フランスの「環境憲章」や、未定ではあるがドイツの「環境法典」のようなものが役に立つと思うという意見も述べられました。

私が大学生のころ、日本は公害列島といわれるほどに各地で公害問題が起こり、新聞には毎日のように公害裁判の記事が出ていました。それから半世紀、この国は、ひどかった公害を乗り越えて一応ここまできたのですから、宮本名誉教授も言われるように、その教訓を学び、活かしてほしいと思います。(弁護士 松森 彬)

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