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2016年2月の記事

2016年2月29日 (月)

隠し録音・無断録音の問題

「会話や電話を相手に無断で録音することは問題ありませんか」。ときどき、こんな質問を受けます。何となく問題があるのではないかと思っておられる人が多いようです。ただ、最近のネットを見ますと、隠し録音(無断録音、秘密録音)は問題ないと書いている記事もあり、実際の紛争でも、隠し録音が証拠に出てきたりします。

日本では、隠し録音は、刑事訴訟で違法収集証拠の問題として議論があります。原則として違法であるという説と、原則としては違法でないとする説に分かれています。民事訴訟では、違法収集証拠の議論が低調で、実際にも証拠能力がないとして調べないという例がまずありません。しかし、私は、民事訴訟でも手続的正義は重要であって、違法収集証拠を無批判に採用するべきでないと思います。また、証拠能力の問題とは別に、隠し録音が違法か違法でないかの議論が必要であると思います。

少し古い裁判例ですが、隠し録音は違法だとする厳しい判決があります。大分地方裁判所昭和46年11月8日判決は、特別の事情が無い限り、相手の人格権を侵害するものであり、違法であり、原則として証拠能力は無いという判断をしました。その後、東京高等裁判所昭和52年7月15日判決も、無断録音は相手の人格権の侵害となり得ることは明らかであるとしました。ただ、証拠に使えるか否かについては、著しい反社会的な手段で収集されたものでなければ裁判の証拠になるとしました。この後半の部分がしばしば引用され、証拠として使えるという説の根拠になっていますが、私は、前半の、相手の人格権を侵害することがあり得るという部分がもっと認識される必要があると思います。また、最高裁判所平成12年7月12日判決は、刑事事件についてですが、詐欺の被害にあったと思っている人が相手の説明に不信感を抱いて録音をしたときは違法といえないと判断しました。ただ、これも、隠し録音をすることについて相当の理由があると考えられるケースですので、無条件に問題がないとしたものではないと思います。

隠し録音・無断録音についての法律的な議論は、我が国では必ずしも十分ではありません。ドイツでは判例は原則として違法だとしていると聞きます。原則として問題ないというのではなく、原則としては問題があるという考え方が大事ではないかと思います。

たしかに、脅迫、詐欺、パワハラなどがされたときに録音し、それを証拠にすることは許されると思います。しかし、そのような特段の必要性がないときはどうでしょうか。私は、特段の理由がないときは、隠し録音はやはり原則として相手の人格権を侵害するものだと捉えるべきだと思います。

最近、企業のお客様センターに電話をしますと、「録音をさせていただきます」とのアナウンスが流れますが、あれは、マナーという面での配慮だけでなく、やはり断っておかないと違法であると解される余地があるからだと考えてよいと思います。

この問題は、相手の人格権あるいは法律だけの問題ではない面があります。会社で無断録音が横行し、そのため職場での会話がなくなったという例がテレビの番組で報告されていました。

隠し録音、無断録音については、もっと議論して、ルールを確立する必要があるように思います。(弁護士 松森 彬)

(追記)この記事を書いたあとに、下記の論文が「当事者間の信義則及び公平な裁判を実現するために、民事訴訟でも違法収集証拠の証拠能力を制限すべきである」という考え方を述べていることを知りました。法律家向けの専門的な文献ですが、ご紹介します。杉山悦子「民事訴訟における違法収集証拠の取扱いについて」(伊藤眞先生古稀祝賀論文集「民事手続の現代的使命」311頁以下、有斐閣、2015年刊)。(2016年8月4日加筆)。

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