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2015年6月28日 (日)

遺言書はどのようなときに書く必要があるか

月初めに中学校の同窓会があり、ミニ講演をしました。「遺言書は書くべきか・書かざるべきか」という演題で話しました。

週刊誌や新聞などに遺言書の勧めのような記事がときどき出ています。私は、仕事で遺言書をめぐるトラブルを扱った経験から、後に述べるような特別の必要性がある場合は別にして、一般には不用意に書かない方がよいという感想を持っています。講演では、そのことを話しました。

弁護士が遺言書について相談を受けるのは、遺言書を作ってほしいという依頼を受けるときと、親の遺言書が出てきたが納得がいかないという相談を受けるときの二つです。考えさせられるのは後者の場合です。

多くの人が遺言書を書こうと思われるのは、子の間で差を設けたいときだと思います。ただ、親として理由があると思っても、子には認めがたいこともあり、遺言書をめぐって紛争になることもあります。私がそれを実感したのは、官僚をされていた父親が、遺言書を書いておられたケースです。二人の子のうち、子(孫)が数人あった長女にはたくさん渡し、子ができなかった長男には、子がいないことを理由に少なくしたと書いておられました。長男とその奥様が相談に来られ、「優しかった父がこんな冷たいことを書くはずがない。姉に強要されたものだと思うので無効だといって裁判を起こしてほしい」と言われました。結局、調停を申し立てて、長男の取り分を遺留分(遺言書があってももらえる最低限の取り分)よりも少し増やしてもらって解決しました。

また、親が遺言書を書かれたときは、老後は長男の世話になると思っておられたようで、長男に全部やると書いておられたのですが、その後事情が変わって、結局長男は親の世話を何もしなかったため、兄弟間でもめたことがありました。遺言書は何度でも書き換えができますが、書き換えをしていないことの方が多く、作成から死亡までの間に事情が変わることがあることも、紛争になる一因です。

もちろん、遺言書を書いていなければもめないということではありません。遺言書がなければ、子ども同士で協議して決める必要があります。子ども同士でどう分けるかは自由ですが、法律は平等の権利としていますので、話がつかないときは平等に分けることになります。そこで、親として差を設けたり、あるいはどの財産を誰に渡すかを指示したいようなときは、遺言書を書いておくしかありません。ただ、親が合理的な分け方だと思っても、子どもからすると納得がいかないことがあることを頭に入れておく必要があります。そして、私の意見ですが、遺言書を書かない場合はもちろん、書く場合も、できるだけ生前に子どもらと話しをしておくのがよいのではないでしょうか。同窓会のあと、友人から、遺言書を書かなければならないと思い込んでいたが、書かないことも一つだと聞いて、目からうろが落ちたという感想をもらいました。

明らかに遺言書を書いておく必要がある場合もあり、それは次のような場合です。

①内縁の妻(あるいは夫)に渡したい場合(内縁の相手には相続権がないので、遺言書を書いておかないと、内縁の相手に財産を渡せません)。

②子が無く、配偶者にすべて相続させたい場合(遺言書がないと、兄弟姉妹にも遺産が相続されます)。

③事業を配偶者や長男など特定の相続人に承継させたい場合(遺言書がないと、会社の株式や工場などの事業用財産が分散するおそれがあります)。

④相続人が全くいない場合(遺言書がないと、遺産はすべて国庫の帰属になります)。などの場合です。

なお、遺言書は、書き方が決まっていますので注意が必要ですが、本を読むなどして自分で書くこともできます。ただ、後で本人が自分の意思で書いたかどうかをめぐって争いになることもあります。公証人役場で公正証書遺言として作っておくと、その点のトラブルが防げますので、将来もめるおそれがあるようなときは公正証書にしておくのがよいと思います。

死んだ後の財産をどうするか、そして、それを遺言書で指示しておくか口頭で言っておくか、それとも、何も言わずに法律のルールと相続人にまかせるかは、その人の考え方や価値観、家族の状況などによって変わってくると思います。一人で考えにくいときは、弁護士や公証人役場などに相談されるのも、ヒントをもらう一つの方法です。(弁護士松森 彬)

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