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2014年3月31日 (月)

弁護士の書面の行き過ぎ

最近、弁護士の書面に、相手方当事者の人格を攻撃したり、非難中傷したりするものがあり、気になっています。ときには、相手方弁護士に対して悪態をつくような書面もあります。

当事者間で争いがありますと、訴訟代理人の弁護士にも同じような姿勢を求められることがあるのかもしれません。かつては、社会も依頼者も弁護士を法律専門家として見ておられたように思います。弁護士が身近な存在となり、社会の見方も弁護士の意識も変わるなかで、弁護士の立ち位置も不安定になっている可能性があります。また、裁判で陳述書が使われるようになり、弁護士が本人に変わって陳述書の原稿を書くようになって、当事者的になっていることもあるかもしれません。

しかし、弁護士は職業倫理として品位を維持することが求められています。弁護士職務基本規程が日弁連の会規として定められており、その5条、6条、70条に、真実を尊重する義務、信義に従って誠実かつ公正に仕事をする義務、名誉を重んじ、品位を保つ義務などが定められています。

また、弁護士の書面が裁判の主張立証に必要な範囲を逸脱したものになりますと、裁判所が行う事実認定の作業に正確な情報の提供ができず、ひいては裁判の信頼を失うおそれも考えられます。ある裁判官は、「過激過剰な表現によって内容が空疎であることを埋めようとしているのではないか」と揶揄されていますが、弁護士は互いに自戒したいものです。

裁判の主張立証に必要がなく、単に相手に不愉快な思いをさせるだけの名誉毀損ということになりますと、弁護士会で懲戒処分を受けることもあります。たとえば、ある弁護士が書面に相手方を「低級劣悪。非人間的所業をした」などと書いたときに、弁護士会は弁護士が守るべき品位を傷付けたとして懲戒処分をしました。

一般に、裁判では自由に主張を交わす必要がありますので、理由のある主張の応酬は許されます。そういう意味で、少々行き過ぎと思われる表現があっても、原則としては、違法とまでは評価されず、賠償までは認めないということが多いと思います。しかし、裁判が悪口の言い合いになるのは、司法の理念からは、できるだけ避けなければならないと思います。

そして、相手方本人や弁護士に対する理由のない誹謗中傷が一線を越えたとして慰謝料の支払いが認められた裁判例もいくつもあります。若い弁護士さんにも知っておいていただきたいと思い、行き過ぎであって違法であると裁判所が認めた例を挙げます。

①「相手方弁護士は関係者に虚偽の陳述をさせ、無理に黒を白としようとした」などと書面に書いたときに、裁判所は慰謝料請求を認めました(東京地裁平成9年12月17日判決)。②また、準備書面や陳述書に、「不倫女。狂乱する激しい気性、狂気の男女関係」などと書いた事案で、表現がことさらに刺激的、攻撃的であり、必要のない個人攻撃、名誉毀損であるとして20万円の損害賠償を認めました(東京地裁平成18年3月20日判決)。代理人の弁護士も、少なくとも幇助した者にあたるとして賠償責任が認められました。③書面に「狂人の沙汰、通常人と異なった性格、狂信的行為」などと書いた件でも、賠償責任が認められています(水戸地裁平成13年9月26日判決)。

表現が酷いという場合だけでなく、事実と違う主張をしたり、誇張したり、あいまいな表記にして誤解を招くような書面を見ることもあります。それは、誰もがしてはならないことですが、弁護士の場合は、職業上の義務として、真実を尊重する義務(弁護士職務基本規程5条)、裁判の公正と適正手続の実現に努める義務(同規程74条)を負っており、虚偽の陳述をそそのかせたり、虚偽の証拠を提出したりしてはならないとされています(同規程75条)。

弁護士は、これまで法曹三者として司法の一翼を担うと認識され、多くの弁護士は裁判が公正に行われることに努めていたように思います。裁判は事実と法的評価で結論を出すのであり、必要のない個人攻撃や非難中傷は避けるべきだと思われます。アメリカでは、法曹倫理は司法試験の科目になっているようです。日本でも法科大学院や司法研修所で弁護士倫理を取り上げるようになりましたが、裁判にとって何が大事か、主張立証の仕方や書面の書き方から教える必要があると思います。(弁護士 松森 彬)

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