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2014年2月16日 (日)

黒木亮さんの講演をお聞きしました

土曜日(2月15日)、京都の弁護士会館で作家の黒木亮さんのお話を聞きました。黒木さんは司法の世界を描いた「法服の王国」(産経新聞出版)の著者です。

長く銀行、証券会社、商社に勤務され、そのあと、作家になり、イギリスに住んでおられます。現在は、週刊朝日に、原発をテーマにした小説を連載中です。

講演では、なぜ「法服の王国」を書くことにしたかという経緯から、取材のエピソード、日本の司法についての感想まで幅広くお話になりました。

裁判官をテーマに取り上げられたのは、かつて、銀行が過剰な融資をした事件があり、黒木さんが証人に呼ばれて証言されたそうですが、裁判官がそれを採用せず、銀行の主張を鵜呑みにしたことから、裁判に対する疑問を抱いたことがきっかけとのことでした。小説では、原発訴訟を切り口にして、裁判所が裁判官をどのように締め付け、また裁判官はどのように悩み裁判をしてきたかが描かれています。

講演の最後に、日本の司法についての意見を5点にまとめてお話になりました。①第一に指摘されたのは、裁判所・裁判官が全く批判を受けることがないという感想でした。金融業界に長くおられた視点からすると、その点は大きな特徴と受け取られたそうです。②第2は、裁判官は仕事が過剰だと思うということでした。裁判官の増員が必要だというご意見です。③第3は、裁判官は40歳以上にすべきということです。すなわち、法曹一元制度がよいというご意見です。④第4は、ディスカバリー(証拠開示)の制度かもしくは同様の制度が要るというご意見です。日本では、証拠を隠したり、提出を拒否したりされることも少なくありませんが、それでは真実は明らかにできないというご意見です。⑤第5に指摘されたのは、日本の裁判はウソがまかりとおるという点でした。

私は、黒木さんのご意見にいずれも賛成です。②の裁判官増員については、日弁連のチームの座長として意見書を作成しました。③の法曹一元は弁護士会が一貫して主張してきたことです。④のディスカバリーは、費用の問題がありますが、その点を含めての検討が必要です。

私が、黒木さんの意見で一番考えさせられたのは、「日本の裁判は嘘がまかり通る」という点です。黒木さんは海外生活が長いのですが、イギリスでは、裁判でウソの証言をするということは考えられないといわれました。確かに、私も、ある会社がアメリカで質問状(ディスカバリーの一種)という手続きを受けたということで相談を受けました。アメリカの訴訟に詳しい弁護士に依頼しましたが、その際、回答を拒んだり、書類があるのに無いと言ったりすると弁護士も含めて大変なことになるという説明を受けました。

私は、日本の裁判でなぜウソがまかり通っているのかという黒木さんの話を聞いて、長く実務をしてきた法律家として、大変恥ずかしい思いがしました。最近は、証人として採用せずに陳述書という書面だけで判断するという裁判が進んでいます。陳述書は、ますますウソがまかりとおることになった一因だと思います。

日本にも、証人が偽証をすると3か月以上10年以下の懲役刑が課せられるという偽証罪の規定はあるのですが、民事裁判での偽証があっても起訴されたり処罰されることはまずありません。国会での政治家の偽証が問題になったり、たまに刑事事件の偽証が起訴されたりすることはありますが、民事裁判の分野では偽証は絶対してはならないことだという制度が実現していないように思えます。明治期に外国の制度を形だけ導入しただけで、実質は導入していないのではないでしょうか。調べますと、偽証罪で起訴された件数は、少し古い数字ですが、10年間(平成7年から16年まで)で59件で、これ自体多くありません。しかも、その大半は刑事裁判に関してではないかと思われます。そもそも法務省は、この59件のうち民事裁判で起訴された件数が何件かは調べもしておらず、把握していないと国会で答弁しています。

西洋では、聖書に偽証の禁止があるようですから、宗教的なものも影響しているかもしれません。しかし、日本人が特にウソをいう国民とも思えません。また、西洋の裁判制度では、フェアという理念が基調になっていると聞いたこともあります。結局は、日本でも、「裁判でウソを言ってはならない、もしウソを言ったらそれだけで不利になる、あるいは処罰される」というルールを確立するかどうかの問題ではないでしょうか。

たとえ会社員が会社から偽証を要請されても、そのようなことをすれば関係者は処罰されるということにしなければなりません。また、持っている資料はすべて出さなければならないというディスカバリーもしくは同じ趣旨の制度を導入して、関係者がウソを言っても暴けるようにする必要があります。

裁判制度が機能し、国民の信頼を得るために、我が国も、本気で民事裁判における偽証を解消する方策を講ずる必要があると思います。(弁護士松森 彬)

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