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2011年12月31日 (土)

裁判で事実を明らかにできるか(過積載と事故)

トラックの運転手がパーキングエリアに入る際、駐車している自動車に衝突し、その際首の神経が傷ついて半身麻痺の後遺症が残りました。運転手は労災保険金を受け取ることができましたが、勤め先の会社に対して1億5000万円以上を請求する裁判を起こしました。理由は、そのトラックは規定量以上の積荷を積んでいましたので、過積載が事故の原因だという主張でした。

私は、その裁判で会社の代理人を務めました。第三者を負傷させたときは対人賠償保険が使えますが、この件は運転手自身が負傷した事故ですので、使えません。搭乗者保険などで会社が使える保険は2000万円だけでしたので、裁判の結果は場合によっては死活問題になるおそれがありました。

過積載は法律に違反することであり、また、過積載があるとブレーキをかけても制動距離が長くなるということがあります。そこで、私は、裁判官が、過積載が事故発生の原因であると誤解しないように気を使いました。

貸し金を返してもらいたいというような紛争の裁判では、片方の言い分が認められるかどうかだけの問題ですが、多くの民事裁判は、双方に言い分があり、その言い分がどれだけ通るかという争いになります。

その場合、訴訟代理人として一番注意するのは、裁判官が誤解をしないようにということです。とりわけこちらに法律違反などの非があると、裁判官は相手の言い分に影響を受けるおそれがあります。刑事事件でも、冤罪は、しばしば被告人が前に小さな事件を起こしたりしていることが多いように思います。悪いことをしたことがあるという目で見られて、言い分が正当に聞いてもらえないおそれがあるわけです。

この裁判でも、過積載は良くないことですから、それが事故発生の原因ではないかと誤解されるおそれがありました。相手方は、当日過積載で長く走ったのでブレーキが壊れて駐車場に入るときにブレーキが全く効かなかったと主張しましたが、こちらは、この車の当日の運行状況の再現に努め、ブレーキが壊れていたという事実は認められないことを明らかにしました。

ふつうの交通事故はたいがい相手方がいて、少なくとも複数の証言が得られますが、この件は運転手本人の証言しかありません。私は、会社の人と現場に何度も行き、また、トラックの整備工場でブレーキの構造を見ることもしました。鑑定人に事故原因の調査もお願いしました。真実の解明のためには証人尋問が重要ですが、この裁判でも関係者の証言が大きな意味を持ったように思います。

裁判官は、審理の結果、本件事故発生の原因は運転手本人の不注意によるものであると判断し、ただ、過積載であったことが衝突の衝撃を大きくした可能性があるとして、一部だけ会社の責任を認め、その考え方に立って和解を勧告しました。その額は保険金2000万円の範囲内でしたので、会社も納得されて和解に応じました。

この決着は、だいたい私が最初から見通していた範囲でしたので、私としても気持よく終わることができた裁判です。(弁護士 松森 彬)

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