2022年10月11日 (火)

評価が高い裁判官と評価が低い裁判官(弁護士会の情報収集と分析)

弁護士から見て、高い評価がされている裁判官と低い評価がされている裁判官がおられます。大阪弁護士会は、2014年から大阪の裁判所の裁判官について評価情報を集めて毎年公表しています。この3年間は新型コロナ感染症の影響で中断していましたが、2021年12月から2022年3月まで情報の提供を求め、その結果を大阪弁護士会の「月刊大阪弁護士会」の2022年9月号(21頁から30頁)に発表しました。前回の2018年度は342通の情報提供がありましたが、今回は、弁護士会のメールの故障などで投稿の周知や依頼を十分にできなかったことから、98通(民亊84通、刑事14通でした(2018年度の結果は、このブログの2018年6月30日の記事で紹介しています)。

裁判官に、この評価制度について話したことがありますが、勝訴した側が高い評価をし、敗訴した側が低い評価をするのではないかという意見でした。しかし、菅原郁夫早稲田大学教授によりますと、民事裁判利用者に対する調査やアメリカでの調査から、当事者の評価は単に勝った負けただけで行っているのではなく、手続的観点(公正な審理)と人間関係的な視点(裁判官の態度など)が大きく影響していることがわかっています(このブログの2019年7月5日の記事にそのことを書いています)。また、熱心でないなど問題がある人は裁判官だけでなく、どこの分野にもいるとの意見もありますが、裁判官の仕事は国民の権利と義務に直結するものだけに、見過ごすことのできない問題であると思います。

裁判官は、外部から圧力を受けて判決がゆがむことがないように裁判官の独立が保障されています。個々の訴訟の進め方も、それぞれの裁判官に任されています。そこで、いやいや仕事をしても、あるいは横着な仕事ぶりであっても、上司から注意を受けるとか顧客が付かなくて収入が減るということがありません。しかし、裁判官が不熱心であったり、不公正であったりしますと、国民、当事者は困りますので、2004年から裁判所は裁判官についての情報を受け付けています。ただ、裁判所の制度では寄せられた情報は公開されませんので、大阪弁護士会など全国のいくつかの弁護士会は独自の情報収集とその公表を行っています。大阪の場合、記録の把握、証拠調べ、和解、判決など7つの項目について5段階の評価を行い、その結果を公表しています。裁判官は、これを参考に研鑽を積んでほしいとのねらいです。なお、氏名は公表していません。

私が興味を持ったのは、次の点です。2通以上の情報提供があった民事部の裁判官で、5段階の評価で総合評価が4点以上(大変良い、良い)の裁判官が10人でした。他方、総合評価が1点台と2点台(大変悪い、悪い)の裁判官が5人でした。これまでの調査でも、良い、または大変良いという評価の裁判官が一定数おられます。逆に、悪い、または大変悪いという裁判官が、それよりは少ないですが一定数おられます。今回の情報提供でも、高い評価がされている裁判官も多数おられますが、悪い・大変悪いという評価の裁判官もおられるようです。

高い評価がされた理由は、「記録をよく読んで検討している」、「両当事者の主張や進行についての意見に公平に耳を傾ける」、「判決の認定が的確であった」などです。低い評価になった理由は、「両当事者の話に耳を傾けない」、「態度が威圧的である」、「証人の採用や尋問時間を制限する」、「強引に和解をさせようとする」などです。なかでも和解を押しつける裁判官についての意見が多く出ています。今の裁判の問題として和解の押しつけがあることは、大阪弁護士会が2012年に行った民事裁判についての弁護士調査でも明らかになっています(自由と正義2013年8月号45頁)。

2022年春に民事裁判のIT化のために民事訴訟法の改正が行われましたが、その審議の際に、裁判所は、裁判のIT化と関係がない「審理期間を限定した訴訟手続」と「裁判所がいつでも和解の決定が出せるという制度(和解に代わる決定)」を提案しました。ともに国民から反対の意見が出ました。前者は反対を押し切って制度化されましたが、後者は、法制審の内部でも反対が多く、制度化されませんでした。今の訴訟でも裁判官は和解の案を出すことがありますが、これは法的効力はなく、提案を受けるかどうかは任意です。しかし、和解に代わる決定は、裁判所が和解内容を決めて決定として出せるというものです。和解や和解に代わる決定の場合は、裁判官は判決のように理由を書く必要がありませんので、大変楽です。そこで、昔から裁判官は和解を押し付けがちであるという問題が指摘されていました。和解に代わる決定の新設は見送られましたが、最近、争点整理を原則6か月で終えて調停手続きに付し、民亊調停法17条の決定を出して訴訟を終わらせるという裁判官が現れました。審理はそこそこにして理由を書かない決定で裁判を終わらせようとする傾向がみられますが、訴訟制度の在り方や訴訟法の改正の議論は裁判の現実を踏まえて行われるべきです。今でも和解の押しつけの問題が多数生じていますので、さらに和解の強要につながる制度は避けられるべきであると考えられます。(弁護士 松森 彬)

 

 

 

2022年9月18日 (日)

民事訴訟制度において重要なこと(カラマンドレーイ教授の意見)

1 イタリアの民亊訴訟法学者の指摘

イタリアの民亊訴訟法学者でフィレンツェ大学の学長も務めたピエロ・カラマンドレーイ教授(1889年~1956年)の「訴訟と民主主義」(小島武司教授ら訳)(中央大学出版会、1976年刊)という本を読みました。約70年前の本ですが、訴訟制度においては何が重要であるかが指摘されており、法律家や司法に関心がある人にお勧めする文献です。

この本でも指摘されていますが、西洋の訴訟制度はローマ法以来の長い歴史があります。日本には明治になるまで西洋のような体系だった訴訟制度がなく、約130年前の1890年(明治23年)にドイツの民亊訴訟法と訴訟制度を輸入しました。そこで、日本でも訴訟制度の在り方を考えるときは、導入した西洋の訴訟制度の歴史を学び、何が大事であると考えて制度や訴訟法が作られてきたかを知る必要があります。私が学生であったころ、民訴法(民亊訴訟法の略称)の講義は観念論が多く、学生にとって睡眠を催すものであったので、眠素法と呼ばれていました。カラマンドレーイ教授の学風は観念論に陥らず、事実を基にしていると評されているようで、この本も大変面白く読むことができます。

2 カラマンドレーイ教授の意見
カラマンドレーイ教授は、訴訟制度において重要と考えられることを書いておられます。その主な点を紹介します。私は同教授の訴訟に対する見方や意見のほとんどについて、そうであるかもしれないと理解し、あるいは賛成であるという思いを持ちました。
ア(訴訟法は公権力が定める推論の方法)
訴訟法は、正義に到達するために公権力が定めた推論の方法である(3頁)。
訴訟法は、戦いの公正を保障するために、国家が公平な第三者として介入する必要から生まれた(6頁)。
イ(訴訟の歴史)
訴訟はローマ法以来の歴史があり、それは慣習上の技術である裁判実務を訴訟法に変え、法典に編纂する歴史であった(8頁)。
ウ(当事者の権利と裁判官の義務・責任)
「攻撃防御は、手続のすべての状態及び段階において侵すことのできない権利である」(イタリア憲法24条)(104頁)。
裁判官は、言い分を自由に主張し、注意深く聴いてもらう権利を持つ当事者に対し、義務と責任を負う公務員である(104頁)。
エ(裁判官を脅かす惰性、官僚的な冷たさ、無責任さの危険性)
裁判官を脅かす最も大きな危険は、一般の公務員の場合と同様に、惰性であり、官僚的な冷やかさであり、匿名の無責任さである(45頁)。
オ(討論の重要性)
訴訟は、対話、会話、そして主張、答弁、反論の交換であり、攻撃と防御の交錯である。この対論的性格こそ、近代的訴訟のもっとも貴重で典型的な特質である(105頁)。口頭弁論では、裁判官と弁護士が討論を通じて理解し、納得しあおうとする生き生きした対話者間の問答をすることが求められる(70、71頁)。
カ(判決理由の重要さ)
判決理由は、その重要性ゆえに憲法上の保障にまで高められており、イタリア憲法は「裁判上の措置にはすべて理由を付さなければならない」(111条)と定めている(77頁)。判決理由は、何よりもまず説得を目的とする判決内容の正当化である(77頁)。当事者は、不服申立ての理由となるような欠点があるかを判決理由から知ることができる(78頁)。弁護士は、判決の一文一文、一節一節、一語一語を手探りする。なぜなら、一つの言葉のなかに、あるいは文法的なつながりのなかに論理の裂け目が潜んでいて、そこに攻撃の刃を突き立てれば、判決全体が瓦解してしまうことがありうるからである(79頁)。
キ(弁護士を委任する権利)
当事者は手続のあらゆる状態及び段階において攻撃防御を行う権利を持っているが、それは実際には弁護士を選任する権利を意味する(131頁)。訴訟は複雑な技術的システムであり、技術的知識を駆使して当事者間の均衡を回復する弁護士が必要である。弁護士が付いていない場合は、相手方の悪意の餌食になったり、訴訟手続の落とし穴に落ち込んだりしかねない(132頁)。
ク(経済的な格差で裁判が左右されてはならない)
イタリア憲法は「無産者には、いかなる裁判所にも訴えを提起し、攻撃防御を行う手段が適切な制度によって保障される」と宣言している(243項)(134頁)。貧しい者も最良の弁護士を無償で選任できる制度がいる(138ないし140頁)。
ケ(弁護士自治が必要)
弁護士の自治と自律が重要である(113頁)。弁護士を自由な職業から国の官僚に変えてしまうことは、弁護士職の終焉を意味するだけでなく、正義の終焉を意味する(113頁)。
コ(裁判官の選任方法)
現代のすべての民主憲法は裁判所と裁判官の独立をうたっている(52頁)。裁判官は昇進や左遷による干渉を受ける危険性があり、それを避けるために昇進制度は廃止することが考えられる。イギリスの制度がそれに近い(63頁)。
訴訟の適切な運営の条件として弁護士と裁判官との間の信頼がある。そのためには、最高の権威と名声のある弁護士が裁判官に任命されるイギリスの裁判官選任の制度が最良のものと思う(121頁)。
サ(民主主義と訴訟)
ファシスタ独裁と外国(ドイツ)による侵略の時代には、裁判官は自己の人間的良心に反する残酷で狂気の法律の適用を内外の圧政者から強いられた。マルクス主義者は、法律は支配階級の利益の実現であり、裁判官は無意識のうちに、その利益に奉仕する道具になると批判する。その指摘には、なにがしかの真理がある(90頁)。しかし、議会民主主義に支えられた国家の裁判制度においては、その意味の大半を失う。憲法は政治的な支配階級を交替させることができるように仕組まれている(01頁)。マルクス主義者の批判に一面の真理を含むとしても、プロレタリア独裁においては、裁判が社会防衛のための政治闘争の武器になることを見逃してはならない。

3 日本の民亊訴訟と民亊訴訟法の課題
ア 日本が西洋の近代訴訟制度を設けたのは明治になってからです。それまでは、統一的な訴訟法や、裁判所制度や、裁判官制度、法律家の教育養成機関などはありませんでした。幕府や藩に公事、問答、出入筋などと呼ばれる裁判のような手続があったようですが、時代、地域により異なり、しかも、できるだけ民間での解決を求め、私人間の民事の問題は取り上げないようにしたという指摘もあります。
西洋では、古くから訴訟制度を設け、民衆に裁判をする権利を認めていました。日本では、今でも民事事件を欲得の話だと見たり、裁判を国の恩恵的な制度であると見たりする傾向があり、人々の裁判をする権利について冷淡です。たとえば、裁判手数料はフランスでは裁判を受ける権利があることを踏まえて無料とされ、アメリカでは一律120ドル(約15000円)に抑えられていますが、日本では、係争額によっては数十万円にもなります。また、経済的困窮者に対する法律扶助は、外国では給付した金銭の返還を求めませんが、日本では返還を求めています。そして、日本は裁判官の人数(国民一人当たり)が少なく、裁判官の手持ちの裁判件数は190件もあり(東京地裁)、丁寧で親切な裁判がしにくい状況にあります。
イ この度、審理期間を6カ月に限定した訴訟制度(「法定審理期間訴訟手続」)が新設されました。期間の予測可能性を高めて利用を増やすという名目ですが、おおよその期間は弁護士が説明しており、制度の必要性が具体的に明らかにされていません。むしろ、期間を事前に決めることによる弊害が大きいことから、外国では期間を限定する訴訟は設けていません。裁判官にとっては、一定期間で一丁上がりに事件を片付けることができ、裁判所と裁判官にとっては負担の軽減になり、都合のよい制度だと思います。しかし、期間が限定されるために当事者は主張や立証が十分にできず審理がずさんになり、事案の解明と当事者の権利の実現がないがしろになるおそれがあります。日本の訴訟制度は、西洋に比べて歴史が短く、未だに予算、人、制度が十分に整備できていませんが、一番身に付いていないのは訴訟制度についての理解ではないかと思います。
日本では、民衆の裁判をする権利は十分に実現しているといえない状況にありますが、その整備を進めないままに、外国にない期間限定の簡易な手続を設けて民亊事件を処理しようとする動きが出てきました。民事事件は少々ラフであっても簡単な手続で早く解決を図るのでよいというい発想です。しかし、日本には遅れている訴訟制度の整備を進め、その定着を図ることが求められているのであり、訴訟制度を導入する前の時代に戻ってはならないと思います。(弁護士 松森 彬)

2022年7月14日 (木)

福島原発事故について東電元会長らに13兆円の損害賠償が命じられました(東京地裁判決)

2022年7月13日、東京地裁(朝倉佳秀裁判長ら3人の合議体)は、東電の福島原発の事故について株主らが旧経営陣に損害賠償を求めていた裁判で、元会長ら4人の旧経営陣に13兆円の損害賠償を命じる判決を出しました。裁判所は、旧経営陣は、事故を防ぐための津波対策を先送りした責任があると判断しました。

この訴訟は、会社が取締役らの責任を追及しないときに株主が会社に代わって責任を追及する「株主代表訴訟」と呼ばれる訴訟です。賠償金は原告の株主には支払われず、会社に支払われます。株主が株主と会社の利益を守るために認められている制度ですが、役員個人の責任を問うことで会社の不正を防止するねらいもあります。

この裁判は、法的にも社会的にも大きな意味を持つ裁判であると思います。今日の新聞に判決要旨が載っていましたので、それを読んで要点を紹介します。ここでは、新聞報道と判決要旨から分かる範囲で、この判決では、どのような事実認定がされ、裁判所が法的にどう判断したかをご紹介することにします。

まず、事実関係ですが、東日本大震災が発生したのは2011年3月で、最大15.5メートルの津波が襲い、東京電力の福島第一原子力発電所は全部の電源が喪失して水素爆発を起こし、周辺環境に大量の放射能が拡散する大事故(過酷事故と呼ばれます)になりました。

裁判の主な争点は、他の原発事故関連の裁判でも同じようですが、①巨大津波を予見できたか(予見可能性)と、②対策を取れば事故は防げたか(結果回避可能性)の2点でした。

東京地裁の判決は、①の点については、国の機関である地震調査研究推進本部が2002年に「三陸沖から房総沖のどこでもマグニチュード8.2前後の津波地震が30年以内に20%程度の確率で起きる可能性がある」とする地震予測の長期評価を発表しており、この評価は相応の科学的信頼性がある知見であり、取締役らは、その知見に基づく津波対策を講じる義務があったと判断しました。また、東電の子会社は、2008年に長期評価に基づき最大15.7メートルの津波予測をし、東電に報告したようです。しかし、東電の役員らは、長期評価の見解は信頼できないとし、最低限の津波対策の指示もしませんでした。判決は、これは原子力事業を営む会社の取締役が会社に対して負っている善管注意義務(善良なる管理者としての注意義務)に違反し、任務の懈怠になると判断しました。

判決は、②の点については、津波対策として建物や重要な機器室の浸水対策(水密化措置)をしていれば、津波による電源設備の浸水を防ぐことができた可能性があったと判断しました。仮に一部の電源設備が浸水するような事態が生じても、重大事態を避けられた可能性は十分にあったと認定しました。

東電の担当役員らは、長期評価は信用できないとし、別の専門家(土木学会)に検討を依頼し、その意見を聞いて対策を考えるつもりであったと説明したようです。しかし、東京地裁は、専門家からその後に役員の方針に否定的な意見が述べられたにもかかわらず方針を変更しなかったことなどからすると、役員らは当面は何らの対策も講じないという結論ありきのものであったことが明らかであると書いています。また、判決は、東電は、国の規制当局である原子力安全・保安院に対して、得ている情報を明らかにすることなく、いかにできるだけ現状維持できるか、そのために有識者の意見のうち都合のよい部分を無視したり、顕在化しないようにしたり腐心してきたことが浮き彫りになったとも認定しています。判決の旧経営陣の対応についての事実認定は、大変厳しい書きぶりになっていると思います。

そして、判決は、経営陣には原子力事業者の取締役として、安全意識や責任感が根本的に欠如していたと言わざるを得ないとしています。他の電力会社も含めて、これまで電力会社は原発推進一色で、原発の危険やマイナスの問題が取り上げられないという批判が長年にわたってありますが、東京地裁の判決は、日本の原発と電力会社の実態を明らかにしたように思います。

福島原発事故で東電が最終的に負う損害額ですが、判決は、原発の廃炉の費用が1兆6000億円、被災者への損害賠償金が7兆円、除染・中間貯蔵対策費が4兆6000億円などで、合計13兆3000億円になると認定し、それについて任務を怠った取締役らには賠償義務があるとしました。なお、新聞の記事によりますと、津波対策費用は当時、数百億円と試算されていたようです。電力会社は津波対策費の支出を避けたかったのでしょうが、実際に大事故が発生し、比較にならない巨額の損害を多くの人や環境に与える結果になりました。

新聞は、13兆円は国内の民事裁判で出た過去最高の賠償額とみられると書いています。今後、判決が原告勝訴で確定したときは、東電が4人に賠償金を請求します。13兆円は元取締役らが現実に支払える額でありませんが、元取締役の過失でそれだけの損害が発生したと認められるときは、賠償額は元取締役の資力とは関係なく認定されます。そして、13兆円という巨額になるから全く賠償しなくてよいのではなく、元取締役は所有する財産はすべて賠償に充てる必要があり、自己破産の手続を迫られることになると思われます。実際に会社に入る額は原発事故の損害額のごく一部になりますが、この裁判により、原発事業者の経営トップとして責任があったこととその大きさを明らかにでき、かつ、元取締役に現実に賠償責任を履行させることができます。原告らは、そこにこの裁判の意義があると考えて提訴したと考えられ、この判決はそれを明らかにする結果になりました。(弁護士 松森 彬)

2022年4月30日 (土)

トラック火災事故について製造物責任が認められました(最高裁で勝訴)

1 トラック火災事故と訴訟

最高裁から2022年4月19日付けの決定が事務所に届きました。決定は、相手方であるいすゞ自動車の上告受理申立を退けたもので、私たちの事務所が担当していました訴訟が当方の勝訴で確定しました。

この訴訟は、大阪の運送会社のトラックが2012年7月7日に山陽道を走行中にエンジンから出火し、車両と積荷が全焼したため、運送会社と車両共済金を支払った共済組合がメーカーのいすゞ自動車に対して製造物責任法に基づき損害賠償請求をしていたものでした。

大阪地裁の2019年3月28日の判決は、裁判所の事実誤認があり、製造物責任を認めませんでしたが、大阪高裁の2021年4月28日の判決は、当方の主張のとおり、エンジンの欠陥を認めました(このブログの2021年5月30日の記事で紹介しました)。

本件最高裁決定は、トラックのエンジンについて製造物責任を認めた初めての決定になります。トラックの火災事故は多く、社会的にも大きな影響を与える判決になりました。

2 製造物責任

製品や機械等が壊れたり、出火したりして使用者が被害を受けることがあります。使用者が原因を明らかにすることは難しいので、製造物責任法(1995年)ができています。その判断の仕方が、この10年余りの間に13件ほどの裁判例によって確立したといってよいと思います。

今回のトラック火災事故の大阪高裁判決は、「本件車両の納車から本件事故の発生までの間、通常予想される形態で本件車両を使用しており、また、その間の本件車両の点検整備にも、本件事故の原因となる程度のオイルの不足・劣化が生じるような不備がなかったことを主張・立証した場合には、本件車両に欠陥があったものと推認され、それ以上に、控訴人らにおいて本件エンジンの欠陥の部位やその態様等を特定した上で、事故が発生するに至った科学的機序まで主張立証する必要はないものと解するのが、製造物責任法の趣旨・目的に沿うものというべきである。」とする判断を示しました。

これは最近の裁判例の判断の仕方と同じです。最高裁は、ヘリコプターのエンジンが破損した事件で、同じ判断枠組を示した東京高裁の平成25年2月13日の判決について上告受理申立がされたとき、平成26年10月29日に上告不受理の決定を出していますので、基本的にはこれらの判断枠組を支持しているものと言えます。

3 トラックのエンジンについて欠陥が認められた意義

本件裁判で、トラックメーカーは、自動車は使用者がオイルメンテナンスなどの点検・整備が必要であり、一般的な判断の仕方を自動車に当てはめるべきでないと主張しました。

この点について、大阪高裁判決は、自動車の場合も、「点検整備にも、本件事故の原因となる程度のオイルの不足・劣化が生じるような不備がなかったことを主張・立証」すれば、他の製品事故と同じように判断してよいとしました。そして、最高裁の決定も高裁の判断でよいとしましたので、メーカーが最後の拠り所にしようとした自動車の特別扱いの主張は否定されたことになります。

4 裁判を終えて

火災事故から10年、提訴から7年(地裁4年、高裁2年、最高裁1年)かかりました。時間がかかったのは、当時は判断枠組みが確立していなかったことが一番の理由です。整備不良というメーカーの主張が通り、欠陥が認められなかった東京地裁平成26年3月27日のような裁判もありました。

そのため、本件でもエンジン出火に至る専門的な検討が必要になり、技術士に調査・検討を依頼するとともに、私たち弁護士も部品のメーカーに尋ねに行き、図書館にも通いました。

また、時間がかかったのは、裁判所が証拠の収集の点で積極的でなかったことや、メーカーが持っている資料・情報の提供をしようとしなかったこと、立証のためとして長い準備期間を求めたことなどもあります。アメリカのような証拠開示(ディスカバリー)が必要であると思いました。

アメリカでは、自動車の欠陥についての裁判が多数あるようですが、日本では、トラックメーカーが申し出るエンジンの無償交換などの示談で終わることが多かったようです。

当方が自信を持って最後まで方針を貫けたのは、使用者に求められている点検・整備を依頼者の会社では十分に行っており、その立証ができていたことです。

自動車は、オイルメンテナンスを長期にわたり怠っていますとエンジンが焼き付く可能性がありますが、これまで、そうでない場合でも、メーカーは使用者のせいにしてきた可能性があります。自動車の使用者が必要な点検・整備も行い、通常の使い方をしていたのにエンジンから出火したようなときは、メーカーが製品以外の外部の原因(使用者側、第三者側などの原因)によるとの反証ができない限り、法的責任を負うことが明らかになりました。メーカーは法的責任があることを認識して、誠実に対応することが求められます。(弁護士 松森 彬 弁護士 高江俊名 弁護士 柳本千恵)

2022年4月24日 (日)

最近よく読んでいただいている記事(5本)

この半年間に読んでいただいたことの多かった記事は、次のとおりです(2021年11月から2022年4月)

1 地裁の民事合議事件は危ない(なりたての判事補が主任になっている問題)(2019年9月) 

2 イギリスの刑事裁判(独立性がある裁判官と検察官) (2020年8月) 

3 評価が高い裁判官と低い裁判官 (2017年7月) 

4 憲法に関する判決が少ない (2017年9月) 

5 弁護士の書面の行きすぎ  (2014年3月) 

 

ブログは2009年5月に始めて、これまでに184本の記事を書きました。

最近、新しい投稿ができていないのですが、皆様がお調べになるときに少しはお役にたっているのかもしれません。

いずれの記事も日本の司法制度の問題を指摘したものです。日本の司法の後進性が進んでいるようで気になります。司法に関わる弁護士が実情や課題を国民の皆様にもっとお知らせするといいですね。

(弁護士 松森 彬)

 

 

 

2022年4月 2日 (土)

期間限定裁判の問題について国会の委員会で反対意見を申し上げてきました

民事裁判においてオンラインによる訴状の提出や裁判所の記録の電子化など、インターネット等の電子技術を取り入れるための民事訴訟法の改正法が、今、国会で審議されています。その中に、審理期間を6か月に限定した裁判手続(法定審理期間訴訟手続)の新設が提案されています。これは、民事裁判のIT化とは関係がありません。裁判所が民事裁判のIT化の検討のなかで提案したことから、改正法のなかに含まれています。

拙速で不十分な審理になるリスクがあることと、裁判を受ける権利を侵害するおそれがあり、外国ではそのような裁判制度は設けていないこと、簡単な事件にしか使えないが簡単な事件は今でも比較的早くに解決しており、制度の必要性がないことなどの理由から、弁護士の多くは反対しています。消費者団体も反対声明を発表し、マスコミも社説で拙速な審理になると警鐘を鳴らしています。しかし、法務省は最高裁の意向を受け、IT化の法案に含めて3月8日国会に提出しました。

衆議院法務委員会は、民事訴訟法の改正に先立ち、参考人の意見を聞くことにしました。2022年3月25日に,4人の参考人の一人として招かれ、意見を述べてきました。私は、期間限定裁判は新設するべきでないとの意見を述べました。委員会での意見陳述と質疑は、衆議院のインターネット中継の録画で、いつでも見ることができます。

URLは、https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=53857&media_type= です。

また、衆議院のインターネット中継の最初の画面から検索するときは、画面の右側にあるカレンダーの3月25日をクリックしますと、当日開催された委員会名が出ますので、法務委員会をクリックしてください。 ここをクリックしてください。→ 衆議院インターネット審議中継(弁護士松森 彬)

2021年10月24日 (日)

「新たな訴訟手続」(期間限定訴訟)の新たな制度案の問題点

1 「新たな訴訟手続」の提案

現在、法制審議会の民事訴訟法(IT化関係)部会で、「新たな訴訟手続」という名前の期間限定訴訟の新設が検討されています。
2021年2月の中間試案では、甲案と乙案の2つの制度案と丙案(新たな訴訟手続は設けない)が提示されました。これについて、2月から5月にかけて意見公募手続(パブリックコメント)が行われました。パブリックコメントの結果は、甲案の賛成は提案者の裁判所以外は司法書士会などだけであり、また、乙案に賛成する団体は1団体だけで、賛成はわずかでした。新設しないとする丙案に賛成する意見が、消費者団体、労働団体、各地の弁護士会などから出され、最も多数でした。
しかし、法制審事務局は、新たな訴訟手続の提案を維持するとし、10月15日の部会に新たな事務局案(部会資料26)を提案しました。これが現在、部会で検討されています。なお、部会資料26は、法制審のホームぺージで見ることができます。
法制審部会は2022年1月に答申案をまとめ、2月の法制審総会で結論が出ます。残り数か月という段階になって、また新たな制度案が出てくるのは異常です。もともとこの提案は解決が困難な問題を内在しているため、案が変遷し、迷走しています。

2 制度案の問題点について

部会資料26の制度案も、「新たな訴訟手続」としての基本は従前の案と同じです。すなわち、手続開始から6か月以内に審理を終わるという期間限定の訴訟手続です。
現在提案されている「新たな訴訟手続」は、①裁判を受ける権利などの法理論、訴訟制度論における根本的な問題と、②主張や立証が制限され粗雑な審理、粗雑な判断(ラフジャスティスといわれます)にならないかという問題、③そもそも必要性があるのかという問題、④国の訴訟制度という重大なテーマであるのに、調査、検討、議論ができていない問題など、未解決の問題がてんこ盛りです。

3 期間限定訴訟として持つ根本的な問題

まず、そもそも期間限定訴訟が近代訴訟制度として認められるかという根本問題があります。
第1に、裁判を受ける権利、その具体化の1つである法的審問請求権を侵害しないかという問題があります。松本博之大阪市大名誉教授ら民事訴訟法学者は、法的審問請求権を侵害するおそれがあり、制度化すべきでないとの意見をパブリックコメントに出しておられます。
制度案は、「新たな訴訟手続」が訴訟制度としては不充分な制度であることを認め、その判決に対しては異議を申し立てて、通常の手続による審理を求めることができるとしています。しかし、その審理をする裁判官は判決を書いた同じ裁判官です。これでは、当事者からすれば、予断を完全に排除してもらえるとは考えられず、異議申立を断念すると思われます。これは実質的には裁判を受ける権利の侵害になります。

第2に、訴訟は当事者の攻撃防御方法が尽くされたときに結審するのが原則(裁判成熟性)ですが(民事訴訟法243条)、期間限定訴訟は、その原則よりも、期間終了の原則が優先されるおそれがあります。

第3に、新たな訴訟手続の提案は、当事者の同意、両当事者の合意を根拠にしています。しかし、民事訴訟法が当事者の合意で審理方法を変更できるとしている事項は、管轄の合意や期日の変更など僅かの事項に限られています。それは、訴訟は公権力の行使であるからであり、訴訟制度の公益的な性格、手続の安定性、恣意的な運用の禁止、証拠法則、他の当事者との公平性など考慮すべき点が多いからです。
当事者の同意を理由にして、審理期間という審理の根幹を包括的に変更する訴訟制度を設けてよいかどうかは、本格的論文も、学会での議論も、外国調査もありません。当事者の権利侵害のおそれがないか、他の事件への影響がないかなどの調査、検討が必要です。

第4に、近代訴訟制度を採る先進国にこのような制度は無いと言われています。日本だけが近代訴訟制度の歴史に逆行した訴訟制度を設けることは避けるべきです。少なくとも、それだけの調査、検討、議論をせずに導入するべきではないと考えられます。

4 粗雑な審理、粗雑な判断になるおそれ

審理期間が限定されますので、自ずと期間内にできる主張や立証に制限されます。そこで、文書提出命令や追加で必要になった証人の呼び出しなどは採用されず、その結果、粗雑な審理、粗雑な判断(ラフジャスティスといわれます)になるおそれがあります。
部会資料26の制度案は、消費者事件と個別労働事件では使えないことにしています。消費者団体の委員と労働者団体の委員が法制審の委員になっておられ、両委員が反対したことから、2つの分野を外した可能性があります。しかし、当事者間に情報量や経済力の差があるのは、他にもいろいろな場合があり、この2つの事件類型だけを外す合理的な理由がありません。

5 必要性が乏しい

「新たな訴訟手続」の提案は、当初から、この制度がどういった訴訟において必要とされているのかが不明確です。企業間において事前交渉がかなりなされた事件で互いの資料や証拠はわかっており、最後の折り合いがつかなかったような事件において需要があるといった説明があったくらいです。しかし、そのような事案は、今でも、弁護士と裁判官が協議することで比較的短期間に和解か判決で解決できると考えられます。民事裁判のIT化の審議会で、今、急いで設けなければならないというような必要性(立法事実)はありません。

6 弁護士が付かない事件(本人訴訟)でも使われる

最高裁は、期間限定訴訟を提案した当初、この制度は当事者の権利を制限するが、手続の選択や訴訟の遂行は訴訟代理人として弁護士が付くことで手当てできると説明していました。しかし、部会資料26の制度案は訴訟代理人が付いていることを要件としていません。いわゆる本人訴訟においても使われることを容認しています。これでは、ますます国民の裁判を受ける権利が侵害される危険があります。

7 判決の簡略化、

部会資料26は、「新たな訴訟手続」の判決は要点だけでよいとする制度にしています。甲案や乙案になかった新たな提案です。しかし、法学上、非訟手続における決定は簡単なものでよいとされていますが、新たな訴訟手続は訴訟制度として設けるというのですから、判決の簡略化は認められるべきでありません。
判決は、当該事件の解決だけでなく、判例としての法的、社会的意義があります。簡略化された判決では、その作用、効果を持つことができないので、その点でも判決の簡略化は認められません。

8 新たな訴訟手続には反対、批判が多い

意見公募手続では、新たな訴訟手続に賛成する意見は少なく、消費者団体、労働団体、各地弁護士会などから多数の反対意見が出されました。そして、2021年10月11日には、主婦連などの消費者団体、労働者団体、学者、弁護士などが「新たな訴訟手続を新設しないよう求める共同アピール」を発表し、法制審に送られました。
また、雑誌「世界」やいくつもの新聞に、この提案の問題を指摘した記事や評論が掲載されました。
さらに、東京新聞、中日新聞は、裁判の迅速化は裁判官の増員などによって進めるべきで、期間限定の訴訟は問題であるとの社説を出しました。
日弁連は、2021年3月の意見書で、「甲案には反対する。乙案はこのままでは賛成できない」という意見を出し、全国の多くの弁護士会は、丙案に賛成するとの意見を出しました。乙案は審理計画を作成することが制度の要にしていましたが、部会資料26の制度案は審理計画の手続を前提とした制度ではありません。そこで、部会資料26が提案されたあとの10月19日に、日弁連の理事会は、新たな提案について討議を行いましたが、理事から出た意見はすべて新たな訴訟手続の新設に反対する意見であり、賛成する意見はありませんでした。
弁護士、弁護士会の意見は、新たな訴訟制度は設けるべきでないとする意見がおおかたの総意であり、法制審と法務省は、この事実を考慮するべきであると考えられます。

9 「新たな訴訟手続」の提案は見送られるべきである

現在の訴訟制度以外に、もう一つの期間限定訴訟を設けるか否かは、わが国の司法において一大事です。法制審の部会は、11月に2回、12月に1回、1月に2回、計5回しかありません。この5回には民事裁判のIT化に関する多数の課題の審議も必要です。新たな訴訟手続の制度内容についてはほとんどすべての論点について賛否両方の意見が出たということであり、法制審部会で十分な議論により結論を出すのが難しい状況です。
法制審内部で結論を出すのが難しいだけでなく、多くの弁護士、裁判官、学者などの法律家やマスコミ、国民が、このような提案があることを知りません。そのなかで法制審が要綱案をまとめて提案するのはあまりに異常です。調査、検討、議論ができていない新たな訴訟手続の新設は認められてはならないと考えられます。(弁護士 松森 彬)

 

2021年10月 6日 (水)

最高裁の裁判の期間(どれくらいで判決・決定が出るか)

私が担当しています或る裁判で、当方は勝訴判決を受け、相手方が最高裁に上告受理申立てをしました。お客様から、「最高裁の判決・決定が出るのはいつ頃か」との質問を受けました。最高裁の判決・決定が出ますと、判決が認めた賠償金を受けとることができます。裁判所の統計を使って、最近の上告審の状況をご説明します。

1 最高裁は法律問題を審理
最高裁での裁判は、上告審と呼ばれます。
事実に関する審理は高裁までで、最高裁は法律問題に関する審理を行います。最高裁は、原則として高裁の判決で認定された事実に拘束されます。

2 上告ができる場合
最高裁へ上告ができるのは,①憲法の解釈の誤りがあるとき、あるいは②重大な訴訟手続の違反があるときです。そのようなことは滅多にありませんので、上告が認められるのはゼロか、あっても数件です。(20217月に発表された第9回裁判迅速化検証報告書によりますと、2020年度は上告が受け入れられ、高裁の判決が取り消されたのはゼロでした)。

訴訟法は、上記の理由による上告以外に、③原判決に判例に反する判断があるとき、あるいは④法令の解釈に関する重要な事項を含む事件については,上告受理の申立てを認めています。この上告受理申立ても、圧倒的多数は不受理の決定がされます。2020年度に上告受理申立てが認められたのは、申立があった1902件のうちの32件で、率にして1.7%でした。

3 最高裁で判決・決定が出るまでの期間

上告あるいは上告受理申立てをしますと、その後、50日以内に理由書を提出します。そこから1か月程して、記録が高裁から最高裁に送られます。それは、上告あるいは上告受理申立があってから4か月程後のことになります。

最高裁が判決・決定を出すのは、年によってかなり違いがありますが、この20年間を見ますと、記録が最高裁に届いてから短い年で平均3か月、長い年で平均6か月です。上告あるいは上告受理申立があったときからですと、7か月ないし10か月位後になります。

新型コロナ感染症が拡大する前の2018年は、最高裁の審理期間は平均2.7か月まで短くなっていました。しかし、コロナ感染症の拡大が裁判所の事務にも影響しまして、約2か月も長くなっており、2020年度の審理期間は5.1か月(上告又は上告受理申立から約9.1か月)でした。

期間別にみますと、コロナ禍前の2018年は76%の事件は3か月以内に最高裁の決定が出ていましたが、2020年は32%に激減しました。それでも、2020年度も、全事件の72%が6か月以内(上告又は上告受理申立からですと10か月以内)に判決か決定が出ています。

前記の事件の場合、上告受理申立は今年の5月でしたので、最高裁が昨年の平均の期間で決定を出すと予想しますと、その時期は来年2月頃と思われます。幅を持って予想しますと、早ければ今年12月、遅ければ来年4月ころではないかと思われます。(弁護士 松森 彬)

 

2021年9月19日 (日)

「新たな訴訟手続とは何かー近代訴訟制度を崩壊させるおそれ」(「世界」2021年9月号)

(説明)

現在、法制審議会の部会で、民事裁判のIT化(インターネット等の利用)が審議されていますが、そのなかに「新たな訴訟手続」という特別な裁判手続の新設の提案が含まれています。

月刊誌「世界」(岩波書店)に時事問題を解説した「世界の潮」というコーナーがありますが、2021年9月号のそのコーナーに、「新たな訴訟手続」の提案と問題点を解説した記事を書きました。記事の掲載について出版社の承諾を頂きましたので、このブログに記事を掲載させていただきます。

「新たな訴訟手続」とは何かー近代訴訟制度を崩壊させるおそれ

                                                          松森 彬

現在、最高裁の提案する「当事者の権利を制限した簡易訴訟」が法制審議会で審議されている。裁判所と裁判官の負担軽減のために、審理を切り捨てて、人々の裁判を受ける権利を侵害してはならない。

■ 「新たな訴訟手続」とは

本年二月、法制審議会の民事訴訟法(IT化関係)部会(部会長山本和彦一橋大学教授)は、民事裁判のIT化に伴う民事訴訟法改正の中間試案を発表した。民事裁判のIT化とは、オンラインによる書面の提出や、裁判所が保管する記録の電子化などである。そのなかに「新たな訴訟手続」の提案が入っている。

最高裁が提案する「新たな訴訟手続」は、証拠は即時に取り調べることができるものだけで、審理期間(第一回期日から審理終結まで)は六か月に制限する。当初、特別な訴訟手続と呼ばれ、今は「新たな訴訟手続」の「甲案」と呼ばれている。主張を書く書面は三通までとしていたが、期間を制限しておけば目的を達するとして、その後、削除された。なお、本稿は七月下旬の執筆時点の案を基にしている。

「新たな訴訟手続」は、民事裁判のIT化と関係が無い制度である。最高裁は、法制審に先駆けて開かれた学者や実務家による「民事裁判手続等IT化研究会」(座長は山本和彦教授)が半年ほど議論を進めた後になって、突然、簡易迅速訴訟の新設を提案した。最高裁は、比較的異論がない裁判のIT利用のテーマに含めることで、議論を避けようとしたと考えられる。

■ 提案の理由、提案のねらい

最高裁は、裁判の件数が増えていないが(過去一〇年間はほぼ横ばい)、それは期間の予測可能性がないためではないかとして、期間を限定した制度を提案する。

しかし、わが国の裁判が増えていない理由は、弁護士費用保険の整備の遅れ、不充分な証拠収集制度、賠償金の少なさ、強制執行による権利の実現の困難さなどにあると指摘されている。裁判の時間でいえば、日本の裁判は先進国のなかで早い方である。世界銀行の調査では、契約の履行を求める訴訟の期間は、主要七カ国(G7)のうち日本は一位である。

審理期間を限定すれば期間の予測可能性は増すが、主張や証拠を制限すると、事実の解明は不充分になり、正当な権利の実現ができなくなる。そこで、外国は、このような訴訟制度を設けていない。

法制審の中間試案の補足説明は、現行の民事訴訟は社会の求めるスピードや効率性にそぐわなくなっていると言い、現行訴訟の迅速化について一言も触れない。現行訴訟は効率的でないとして見限り、民事事件は簡易な手続でよいとするようである。それでは、明治になって導入した近代訴訟制度を定着させないまま投げ出すことになる。

最高裁が簡易訴訟を提案する真のねらいは、裁判所と裁判官の負担の軽減であると考えられる。期日を三~四回に制限する簡易迅速訴訟を提案する山本教授は、裁判所と裁判官の負担軽減が提案理由の一つであるとしている(山本和彦「当事者主義的訴訟運営の在り方とその基盤整備について」民訴雑誌五五号、六一頁以下)。山本教授は、弁護士が増えるから訴訟事件も増えると見込み、簡易訴訟で多くの事件を処理するのがよいという。しかし、訴訟事件数は増えていないから、その理由で簡易訴訟を設ける必要はない。なお、山本教授は、当事者主導の裁判にすることも簡易訴訟の目的であるというが、当事者に何らの権限を与えずに当事者主導になると思えない。

最高裁は、裁判所と裁判官の負担軽減を明言していないが、少なくとも一つの目的であると考えられる。しかし、事実関係を解明して国民の権利と義務を判断するのが裁判所の責務である。裁判所と裁判官の負担軽減のために審理を切り詰めるのは、本末転倒と言うほかない。

■ 「裁判を受ける権利」を侵害する

近代訴訟制度は、国家が民事訴訟制度を設け、憲法で「裁判を受ける権利」を保障し(日本では憲法三二条)、裁判によって人々の権利の実現をはかるものである。国際人権規約(自由権規約)一四条も、公正な審理を受ける権利を認める。裁判を受ける権利には、当事者が主張と立証をする権利(法的審問請求権)が含まれる。当事者は事実関係を明らかにするために、主張のやりとり、証拠や証人の取り調べ、現場の検証、手元にない資料の取りよせ等をして審理を進める。そして、「裁判をするのに熟したときは、終局判決をする」(民事訴訟法二四三条)。この意味は、「必要な攻撃防御方法が尽くされたときに審理を終える」ということである。これが現行の民事訴訟である。

ところが、「新たな訴訟手続」では、六カ月が来たときに審理を打ち切る。「裁判をするのに熟したとき」に審理を終えるという原則は無視又は軽視され、空洞化する。松本博之大阪市大名誉教授ら訴訟法学者も、「新たな訴訟手続」は法的審問請求権に基づく裁判を受ける権利を制限する欠陥があり、制度化すべきでないという。

わが国では、迅速化のかけ声で、裁判官は人証調べを嫌がり、本人や証人の尋問をしない裁判が八五%ある。「新たな訴訟手続」ができると、訴訟の事実認定の使命はますます遠いものになる。

なお、最高裁は、「和解に代わる決定」の新設も提案している。裁判官は、いつでも決定を出して裁判を終わらせることができるという乱暴な制度である。現在の和解勧告と異なり、これは法的効力がある。理由を書く必要がなく、裁判官は多用するおそれがある。裁判官の負担は軽減するが、国民の裁判を受ける権利は侵害される。

■ 同意があれば認められるか

最高裁は、両当事者からこの手続きの同意(合意)を取っているから許されるという。しかし、訴訟法が民事訴訟について認める合意は、管轄合意、期日変更の合意、仲裁合意などに限られている。それは、民事訴訟は公権力の行使であり、裁判所として画一的処理をする必要性、裁判官の恣意的な運用の防止、当事者間の公平などが求められるからである。当事者の合意で審理方法を決めることはできないとするのが伝統的な理解であり、当事者の同意でこのような訴訟制度が許されるかについての議論はできていない。

また、この制度は判決に異議を申し立てると通常訴訟に移行し、審理が続けられる。しかし、審理するのは同じ裁判官であり、判断が覆る可能性は低いから、当事者はあきらめる。当事者の裁判を受ける権利を実質的に侵害する制度である。

■ 粗雑な審理で誤判が増える

即時に取り調べることができない証拠は調べられず、主張立証は期間内に終わるものに限られるから、審理と判断は粗雑になり(ラフジャスティスと呼ばれる)、誤判が増えるおそれがある。その判決の是正のためには、当事者は控訴をせざるを得ず、重い負担を背負う。

■ 必要性がない

簡単な事件は、今でも比較的短期間に和解または判決で終わっている。IT化研究会は、この手続は、①企業間の紛争で事前交渉が十分になされており、争点が明確で証拠も十分に収集されている事件、②交通損害賠償事件、③発信者に対する情報開示請求事件などに「なじむ」(必要という表現でない)としたが、これらの事件は、弁護士と裁判官が協議して、六カ月程度の審理期間で和解か判決で終えることが十分に可能である。③の事件は本年四月に迅速な開示制度ができた。

前述したように、今の民事訴訟は先進国の中で早い方である。簡易訴訟を提案する山本教授も、約一〇年前の論文で、「迅速化という目的は概ね達成されてきているものと評価することは許されよう」としている。簡易訴訟は、迅速化のためではなく、民事事件を簡単な手続で効率的に処理するためであり、それを認めてよいかが問題の核心である。

■ 乙案の問題

最高裁が提案する簡易訴訟(甲案)には、日本弁護士連合会(日弁連)や市民団体、労働団体の委員が反対や消極の意見を述べた。ただ、弁護士のなかに、修正した意見を言う人があり、それを参考に法務省は乙案とした。乙案は、主張立証や期間を定める審理計画(民事訴訟法一四七条の三)を作ることにして、その後の審理期間を六か月とする。しかし、審理計画は、作成に時間と労力がかかり、それに見合う効果がなく、ほぼ使われていない。問題がある手続を引っ張り出して、うまくいくはずがない。審理計画作成の期間が必要になるうえ、いつでも通常訴訟へ移行申立ができるので、期間の予測可能性の制度目的も失われている。

■ 裁判の充実・迅速化の方策

裁判の充実・迅速化は、日弁連の二〇年六月の意見書が指摘しているように、裁判官の増員と証拠収集制度の整備などによって進めるべきである。

弁護士の増員は進んでいるが、裁判官は、未だに人口比でドイツの一〇分の一、アメリカやフランスの四分の一である。忙しい裁判官は、人証の調べを減らすなどの審理の切り捨てで迅速化している(拙稿「民事裁判の整備を怠っている日本―これでは国民の権利は護れない-」〔「世界」二〇一五年九月号〕)。

証拠収集ができないことも裁判に時間がかかる原因である。私が担当している製造物責任の裁判でも、同種事故の資料の提出命令の申立について裁判所が判断するまでに一年もかかった。早期に事実がわかれば争点が絞り込め、早い裁判が可能になるが、それができない。

■ 反対が多いパブコメの結果

中間試案について行政手続法による意見公募手続(パブリック・コメント)が行われ、結果が六月に公表された。「新たな訴訟手続」を設けるべきでないとする丙案に賛成する意見が一番多かった。これで甲案や乙案を制度化してよいとは到底思えない。

■ 結び

法制審議会は今年一二月頃を目処に部会で答申案をまとめ、来年二月の総会で結論を出す。制度化するとなれば、来年の通常国会に提案される。

人々の権利と義務が不充分な手続で裁判されてよいか。憲法の「裁判を受ける権利」が脅かされている。約七〇〇人の弁護士は「新たな訴訟手続(旧・特別訴訟手続)等に反対する弁護士有志の会」というブログを設けて情報提供している。国民的な議論が求められる。

                                                  (まつもり・あきら 弁護士)

 

 

 

2021年7月11日 (日)

「新たな訴訟手続」の問題

今、法制審議会で審議されている「新たな訴訟手続」の法的問題についてまとめました。
なお、本稿では、2021年2月に発表された「中間試案」の案について論じています。本稿を執筆しました2021年7月1日現在、中間試案の変更案は報じられていません。(弁護士 松森 彬)

目 次

はじめに                     ‥‥ 1頁
第1 「新たな訴訟手続」とは           ‥‥ 2頁
第2 甲案の問題(甲案・乙案に共通する問題を含む)‥‥ 2頁
第3 乙案固有の問題               ‥‥11頁
第4 充実・迅速な訴訟を実現するために      ‥‥12頁
第5 結び                    ‥‥13頁

はじめに

現行の民事訴訟とは別に、期間や証拠を限定する「新たな訴訟手続」を設けるかどうかについて、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会(以下「法制審部会」という)で審議が行われている。
意見公募手続(パブリックコメント)の結果が2021年6月21日に公表された(文末脚注[1])。「新たな訴訟手続を設けない」(丙案)に賛成する意見が最も多かった。法制審部会は、訴訟のIT化の課題と一緒に2021年12月ころを目処に結論を出すという。
民事訴訟制度の骨格に関わる大きな問題であるが、もともと本格的な論文が無く、提案されてからも文献がほとんど無い[2]
本稿は、提案されている制度案について参考になる文献・資料を紹介し、その検討を踏まえて制度案の法的問題を指摘することを目的とする。

第1 「新たな訴訟手続」とは

法制審部会は2021年2月19日に「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案」を発表したが、そのなかに、甲案と乙案の「新たな訴訟手続」がある[3]。いずれも、審理期間(第1回期日〔甲案〕または審理計画作成〔乙案〕から結審まで)を6か月とする訴訟手続である。そのいずれか又は両方を新設してはどうかという提案である。
また、甲案と乙案の訴訟手続に対して「懸念」が指摘されているとして、これらの制度は設けないとする丙案が用意されている。

第2 甲案の問題(甲案・乙案に共通する問題を含む)

1 甲案の提案者、制度内容

最高裁は、法制審に先立って開かれた「民事裁判手続等IT化研究会」(以下「IT化研究会」という)が第2読会に入った後の2019年4月に、「特別な訴訟手続」の新設を提案した[4]

最高裁は、当初は、期日または期間を制限する手続とし、非訟手続とする案も考えられるとしていた[5]。その後、訴訟手続とする案に絞り、主張書面は3通まで、証拠は即時調べることができるものだけ、審理期間は第1回期日から結審までを6か月とした[6]。この案がその後、甲案となり、その際、主張書面の通数制限は削除された。

2 民事訴訟のIT化と関係はない

新たな訴訟手続は、民事訴訟のIT化と関係はない。民事訴訟のIT化とは、インターネットなどの情報技術を裁判の手続でも利用しようとするものであって、具体的には、裁判関係の書類をオンラインで提出するようにしたり、裁判所の記録を紙媒体から電子データにしたりすることが考えられている。その点を審議するために開かれる法制審議会である。

2020年2月に法務大臣から法制審に諮問されたが、諮問事項(第111号)は、「(略)の観点から、訴状等のオンライン提出、訴訟記録の電子化、情報通信技術を活用した口頭弁論期日の実現など民事訴訟制度の見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」としている。訴状などのオンライン提出、訴訟記録の電子化などが例示され、特別な訴訟手続は例示に入っていない。IT化以外の検討ができないとまではいえないとする意見もあるが[7]、制度の目的は大きく異なる。訴訟のIT化だけでも大変な作業であり、検討や議論が不十分なままで性急に結論を出すようなことがあってはならない。

3 提案の理由・目的

(1) 提案理由と問題

最高裁は、裁判の期間の予測可能性がないから事件数が増えないと考えられるとして、期間限定の手続を提案するとしている[8]。中間試案の補足説明も同様である[9]

この提案理由については次の問題がある。

ア 第1に、外国では、このような訴訟は設けていないようである。労働審判ができたあと、弁護士会のなかでも非訟手続の民事審判が提案されたことがあるが、裁判を受ける権利などの問題が指摘され、それ以上検討されることはなかった。今回の提案は、訴訟手続としての提案であるが、期間や証拠を制限する問題がある。

なお、手形小切手事件、少額事件、労働事件等については、どの国も事件の特殊性から特別な手続を設けている。これらの手続があることは、新たな訴訟手続を設ける理由にはならない。

イ 第2に、期間を限定すれば期間の予測可能性はあるが、訴訟が備えるべき他の要件を損ねる可能性がある。裁判迅速化法第1条は、迅速だけを求めるのではなく「公正かつ適正で充実した手続の下で裁判が迅速に行われることが不可欠である」としている。立法過程での日弁連の取り組みによる成果である[10]

ウ 第3に、訴訟の利用が増えない理由は、日本では訴訟を利用しやすくする施策が採られていないからではないかという指摘がある[11]

エ 第4に、当事者が重視しているのは、審理の公正・充実などの評価と裁判官についての評価であり、期間や費用は、満足度や利用しやすさを判断する大きな要因でないとの調査結果が出ている[12]

オ 第5に、提案は通常訴訟の迅速化について触れない[13]。しかし、法務省が作成した法制審部会資料は、審理期間を限定する訴訟は、訴訟制度としての問題が内在することを認め、対象となる事件は、それほど複雑でなく、争点が多くない事件が相当であるとしている[14]。提案は、多くの民事事件の迅速化をはかるものではない。

カ 第6に、甲案も乙案も、異議や移行申立による通常訴訟での審理を認めざるを得ないが、結局、期間の予測可能性の目的と矛盾することになる。

(2) 簡易迅速訴訟を設ける目的

ア 期日や期間を限定する簡易迅速訴訟は、一般に、裁判所・裁判官の負担軽減になる。山本和彦教授(以下、敬称を略。山本という)(IT化研究会座長、法制審部会長である)は、期日回数を3~4回程度に制限した簡易迅速な制度の構想を提示しているが[15]、その目的の一つは裁判所と裁判官の負担軽減である[16]。そして、民事事件の相当部分を簡易迅速訴訟に吸収していこうという構想であるとしている[17]

また、山本は、非訟手続の新設も提案しており、そこでも「大部分の事件では訴訟手続に移行しないことを期待する制度といえる」とする[18]。山本は、非訟手続の提案で、「純然たる訴訟事件」でも、異議等があれば訴訟ができることにしておけば、判例を満足させ、かつ、実際には多くの事件が非訟手続で解決されることになれば、制度のメリットがあり、「極めて巧妙な立法テクニックと評価することが可能である」という[19]。非訟手続や簡易訴訟で大半の民事事件を処理しようとする発想である。

しかし、「巧妙な立法テクニック」まで駆使して、非訟手続や簡易訴訟で大半の民事事件を処理するのは何のためか。それは、司法の目指す方向として間違っているのではないか。日本は、明治23年(1890年)にドイツの近代訴訟制度を導入した。江戸時代は、犯罪については拷問までして厳しく取り調べたが、私人間の民事の問題は取り上げないようにしたという。わが国の民事訴訟制度は、未だに裁判官が少ない、あるいは経済的困窮者の裁判費用を援助する法律扶助の予算が少ないなど、100年以上経っても整備が遅れている。西欧の先進国に遅れて明治時代に導入した近代訴訟制度を、定着させないまま、投げ出してはならない。調べをせずにおごそかに裁判官が言い渡す「ご託宣」のような裁判にしてはならない。

山本は、裁判所と裁判官の負担軽減が簡易訴訟の一つの目的であるとするが、国民の裁判を受ける権利を侵害し、裁判所が負っている責務を放棄するものであって、本末転倒ではないかと考える。

簡易訴訟を設ける目的についてであるが、ある裁判官は、本人訴訟における裁判官の負担や対応を理由の一つにして期日回数を限定した簡易訴訟を提案している[20]。山本の提案にもあるように、簡易訴訟の提案は、裁判官の負担軽減のためであることが見落とされてはならない。

今回の最高裁の提案は、裁判所、裁判官の負担軽減には触れていないが、一つの目的であると思われる。

イ 人々は裁判所で民事訴訟により権利を主張し、判決をもらうことができ、これは憲法上の保障である。新たな訴訟手続は、民事事件は期間や証拠を限定した簡易な手続で処理されてよいとする考え方である。訴訟により人々の権利を保護・救済するという司法権の使命、役割が軽視されるおそれはないかが、この問題の核心的な論点である。

ウ 最高裁は、民事裁判のIT化と関係がない提案を、もう一つしている。それは「和解に代わる決定」の新設の提案である。裁判官は、いつでも和解に代わる決定という名前の決定を双方に出すことができるというものである。双方当事者が異議が無いときに限るとされているが、当事者は裁判官の提案を断ると心証を害することにならないかが気になるので、手続についてはなかなか断りにくい。また、この決定に対しては、異議を述べて訴訟手続に戻し、判決をもらうことができるが、決定の内容よりも不利になる可能性もあるので、決定に対して異議は言いにくい。他方、裁判官は、判決であれば理由を書く必要があるが、和解に代わる決定は理由を書く必要がないので、多用、乱用するおそれがある。「和解に代わる決定」の提案も、必要性が乏しく、国民の裁判を受ける権利を侵害するおそれのある制度である。日弁連、各地弁護士会は、こぞって反対している。

4 裁判を受ける権利

(1) 裁判を受ける権利と法的審問請求権

ア 法的審問請求権

ドイツの憲法に相当するドイツ基本法(103条1項)は、「裁判所の前では、何人も、法的聴聞を請求する権利を有する」と定めており、法的審問請求権と呼ばれる。わが国の憲法32条の「裁判を受ける権利」にも法的審問請求権が含まれていることについては、今日では、ほぼ異論を見ないといえる[21]。 

法的審問請求権とは、当事者は自己の見解を表明し、かつ聴取される機会が与えられることを要求する権利であり、裁判所は、原則として、当事者がそのような機会を持たなかった事実や証拠に基づいて裁判をすることはできないと解されている[22]

イ 新たな訴訟

甲案は、「即時に取り調べることができる証拠」しか調べない。資料の取り寄せなども6か月の期間内で終わることが要件となる[23]。当事者の弁論権や証明権が制限され、法的審問請求権を侵害するおそれがある[24]。松本博之大阪市立大学名誉教授は、新たな訴訟手続は、ずさんな裁判になるというだけでなく、法的審問請求権と裁判を受ける権利を侵害するおそれがあり、導入すべきでないとする意見であり、この意見を、法務省が行った意見公募手続(パブリックコメント)に提出したとのことである。また、国際人権規約の第14条は、公正な裁判を受ける権利を定める[25]。同条に抵触する問題もありうる。

甲案は、判決に異議を述べて通常訴訟の審理を求めることができるが、同じ裁判官であり、予断を完全には排除できない。当事者は異議を諦めることが予想され[26]、実質的に裁判を受ける権利の侵害になるおそれがある。また、乙案も、6か月の期間制限があるから、事実上、主張と証拠が制限されるおそれがある。

日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)は、2021年3月18日の意見書(以下「日弁連意見書という」)において、甲案が証拠方法を制限する点で、「公正かつ適正な裁判を受ける権利を保障する憲法第32条に抵触しないかが問題となる上、ラフジャスティスを招く危険性を拭え」ないとして、甲案に反対している。全国の多くの弁護士会が同じ意見である。

(2) 裁判成熟性の原則

ア 裁判をするのに熟す必要がある

民事訴訟法243条は、「裁判をするのに熟したとき」に結審して判決をすると定めている。「裁判をするのに熟した」との意味は、「必要な攻撃防御方法が尽くされたと認められる場合」であり、事実関係を「完全に解明することが必要にして十分な条件である」[27]であると解されている。
これは、母法のドイツ法(300条)を受け継いだもので、オーストリア、イタリアなども同じ条文を設けている。ドイツ法300条の解釈も、日本法の解釈と同じで、判決には「裁判成熟性」が必要であると解されている。ドイツ法のコンメンタールは、「裁判のために考慮されるべき個々の攻撃防御方法が未解明である限り、裁判成熟性は欠けている。」としている[28]。また、「訴訟につき裁判しうるためには、裁判上重要な事実資料が十分に解明されていなければならない。判決を基礎づけ得るためには、証明を要する事実に関して適法な証拠が裁判所により取り調べられ、評価されなければならない。」、「あらゆる重要な事実につき陳述する機会を当事者に与える義務を負う」[29]と解されている。

英米法の訴訟制度では、プレトライアルで徹底した事実解明ができる手続(証拠開示)が行われる。証拠開示では、文書提出の請求、質問書のほか、相手方関係者も含めて10人を限度に合計7時間以内の質問が行われる。トライアルでは陪審制が用意され、ここでも日本とは格段に長い時間の証人調べが行われる[30]

ドイツ法を母法とする訴訟制度では、裁判成熟性を結審の要件とすることで、十分な審理と事案解明を確保していると考えられる。

イ 新たな訴訟手続における問題

6か月で審理を終えなければならず、事件が裁判に熟しているかどうかは軽視されるおそれがある。日弁連意見書は、甲案について、判決に異議を申し立てることができるとしても、「裁判をするのに熟した」と判断した裁判官の心証を変更することは容易でないとして、手続保障として不十分であるとし、甲案に反対している。

(3) 当事者の同意の問題

ア 訴訟の審理方法と任意訴訟禁止の原則

中間試案の補足意見は、「新たな訴訟手続は、当事者による手続選択についての合意を基礎とする」[31]と述べる。山本は、訴訟上の合意(審理契約)を理由にして当事者が求める訴訟手続を認めてよいのではないかという[32]。また、笠井正俊教授も、当事者に制限のある手続を正当化する根拠は当事者の同意であるとする[33]

しかし、民事訴訟の進行等、審理方法に関する事項については、任意訴訟禁止の原則が妥当し、当事者間の合意によって規律することはできないとするのが伝統的理解である[34]。現に、法律が認める合意は、管轄合意、仲裁合意、期日変更の合意など僅かである。任意訴訟の禁止の趣旨は、裁判所にとって画一的処理が効率的で必要であるという理由だけでなく、裁判官の恣意的な運用の防止、経済的社会的に格差がありうる当事者間の公平、多数事件の平等な扱いなど、多くの公益的価値を護るものであると考えられる。

イ 訴訟に関する合意について

法律が認める合意以外に訴訟に関する合意が認められるかについては、根拠や範囲について、争いがある[35]。理論的には、司法権という公権を行使する裁判所が私人の合意に拘束される理由についての疑問が指摘されている。また、井上治典教授は、「審理契約論が今ひとつ実践性に乏しく、広い支持が得られないのも、関係者の一回的合意で、不確定で流動的な将来の審理計画が決められる。しかも、その合意にはかなり強い効力が与えられるという考え方が、現実の要請に耐えられないからではないか」[36]という。

不起訴の合意が有効であると解されていることから、新たな訴訟手続の同意も有効であるとする意見がある。ただ、仮に不起訴の合意は処分権主義の範囲内のこととして有効であると解するとしても、訴訟の進行は裁判所の司法権の行使であり、不起訴の合意の議論とは異なるとの意見がある。

ウ 十分な予測ができない時点での同意の効力

新たな訴訟手続の選択は、第1回口頭弁論期日が終わるまでにしなければならない。しかし、日弁連意見書が指摘するように、訴訟の当初は相手方の主張や証拠は把握していないことが多い。予測が困難である時点の同意に法的拘束力を認めることが適切かという基本的な問題がある。

エ 選ばざるを得なくなるおそれ

新しい訴訟手続ができても、当事者や弁護士が選択しなければよいとの意見がある。しかし、「早い訴訟」(新たな訴訟手続)と、「そうではない訴訟」(通常訴訟)の二者択一となれば、人々は、手続の制約があっても新たな訴訟手続を選ばざるをえなくなるのではないかとの意見がある。

5 ラフジャスティスの問題

審理期間が制限されて、主張や立証が法的又は事実上制限されると、十分な審理ができず、ラフジャスティス(粗雑な審理や粗雑な判断)になるおそれがある。期日回数を限定した訴訟を提案する山本も、訴訟制度として、ある程度ラフであることを認める[37]

現在でも、一審判決は20%ないし25%程度が控訴審で取り消されているが、誤判が増えるおそれがある。

日弁連意見書も、「ラフジャスティスを招く危険性を拭えず、民事訴訟制度に対する信頼を損ねかねない」として、甲案に反対している。

なお、裁判官は職権で通常訴訟に移行できるとされている(甲案6項(1)、乙案4項(1))。しかし、期間が来たとき心証を持てなくても、両当事者が期間限定の手続を選択していることや、裁判所の訴訟経済等を考えて、裁判官はラフな手続と判断のままで裁判をする可能性がある。

6 立法事実(制度の必要性)の有無

(1) 審理期間の実情

ア 現在、民事裁判の第一審の平均審理期間は、9.1か月であり、対席判決で13.5か月である[38]。このデータは提訴から判決までの期間である。「新たな訴訟手続」にいう6か月は、上記期間の中の、第1回期日(甲案)または審理計画作成(乙案)のときから結審までだけの期間である。提訴から判決までは、甲案では8~9か月位、乙案では、そこに審理計画を作る期間が加わる。

イ わが国の民事訴訟の審理期間は、先進国の中で早い方である。世界銀行の調査では、契約履行を求める訴訟の期間は、主要7か国(G7)のうち日本が1位である[39]。最高裁の調査でも、審理期間は他の国とほぼ同じであり、遜色はない[40]

山本和彦教授は期日回数を限定した簡易迅速訴訟を提案するが、その山本も、「現状では迅速化という目的は概ね達成されてきているものと評価することは許されよう」という評価をしている[41]。むしろ、裁判官と弁護士との協議会では、これ以上の迅速化は危険であるとの意見が出ている[42]

(2) 想定されている事件と実情

IT化研究会は、特別な訴訟手続(甲案)は、①企業間の紛争で事前交渉が十分にされており、争点が明確で証拠も十分に収集されている事件、②交通損害賠償事件、③発信者に対する情報開示請求事件などが「なじむ」ものと思われるとした[43]。しかし、これらの事件は今でも比較的早期に終わっている。経済団体で、いくつかの企業に新たな訴訟手続について意見を聞いたところ、反対はしないとの意見が多かったということであり[44]、積極的に強く望んでいるということではないようである。発信者情報開示請求事件は、ブロバイダー責任制限法が2021年4月に改正され、短期間での開示手続ができたので、必要性は無い。

7 その他の問題

(1)対象事件

消費者事件と個別労働事件を対象から外す案がある[45]。ただ、当事者の間に経済的社会的格差や情報・証拠格差がある事件は、他にも様々な場合がある。2つの事件類型を外すだけで問題は解消しない。

(2)弁護士強制

最高裁は、弁護士が付く場合に制限するとしていた。専門家でないと扱いが難しい手続であるとし、危険性が内在することを認めているといえる。学者委員から、弁護士強制は現行法と整合しないとの意見があり、中間試案では、弁護士強制は、注書きでの提案になっている。また、司法書士会は、弁護士強制の制度にしないことを条件として甲案に賛成するとしている。新たな訴訟手続を司法書士の本人サポートの業務として位置づけている可能性がある。

第3 乙案固有の問題

1 乙案の提案者、制度内容

乙案は、2020年11月27日の法制審部会で提案された。弁護士委員などの意見を基に法務省が乙案として提案したと考えられる。
乙案は、証拠制限の規定は設けない。期間を6ヶ月とする点は甲案と同じである。審理計画を作成する点が甲案と異なる。
実質的な提案者が明らかにされていないうえ、提案されてから間がなく、制度の趣旨や内容を説明した文書は法制審部会資料以外に無い。通常訴訟とは別の訴訟制度を設けるか否かという大きなテーマであるのに、検討や議論がほとんどできていないという問題がある。

2 提案理由に関する問題

中間試案の補足説明は、乙案は当事者のイニシアティブによる訴訟進行を目指すものとしている。しかし、当事者に権限の付与などはなく、当事者主導の訴訟ができるとする理由が判然としない。
乙案は、審理計画を作成する期間(制限が無い)が加わることと、通常訴訟への移行申立を認めることから、期間の予測可能性の制度目的は大きく失われている[46]

3 審理の充実が損なわれるおそれ

乙案も6か月の期間限定であり、審理の充実が損なわれるおそれを払拭できない。
乙案は、甲案と同様に期間制限の問題があること、必要性が乏しいこと、審理計画は問題が多く、使われていない制度であることなどから、全国の弁護士会は多くが乙案にも反対している。日弁連も、乙案について、要件、効果にいくつもの問題があるとする。

4 通常訴訟への移行申立について

通常訴訟への移行申立ができるが、同じ裁判官であり、一旦審理計画が作成されているので、実質的に審理が追加されるかとの懸念がある。
しかも、当事者の権利を保障するために通常訴訟への移行申立を認めるために、期間の予測可能性が失われている。

5 審理計画の作成について

乙案は審理計画を作るが、審理計画(法147条の3)の制度は2003年の法改正で設けられたものの、ほぼ使われていない[47]。審理計画は、作成には時間と労力がかかるが、それに見合う効果がなく、拘束される不都合があるためである。乙案は、審理計画を前提とする提案であるが、新たなに法制化をする必要がないとの意見がある。6か月以外の期間を認める案もあるが[48]、同じ問題がある。

6 民事訴訟全体への悪影響のおそれ

甲案や乙案の期間や証拠を限定する訴訟は、充実した審理でなくてもよいとする訴訟観を生み出しかねないとの懸念がある。
また、小規模庁などでは、新たな訴訟手続の事件の審理が優先されて、通常事件が影響を受けて後回しにされるおそれがあるとの意見がある。

第4 充実・迅速な訴訟を実現するために

最近の民事裁判は、陳述書が多用され、人証調べが減り、事実解明の努力をしないとの声が当事者、代理人から出ている。裁判官、元裁判官からも、審理の充実を求める意見がある[49]
日弁連の2020年6月の意見書[50]が提言しているように、訴訟の充実・迅速は、裁判官の増員、証拠収集制度の整備、運用の改善によって進めるべきである。
運用改善は、期日の実質化(十分なコミュニケーション)、早期に事実関係を明らかにする運用、期日の間隔の事案ごとの適正化、文書提出命令申立等における迅速な採否の決定などの実践が求められる。
また、期間の予測可能性の要請については、関係者は計画的な審理を心がけ、毎期日に進行を協議し、審理の見通しを常に当事者と共有することで、当事者の納得を得る必要がある。
裁判を利用しやすくするために、法律扶助を貸与制から給付制に変え、弁護士費用保険の整備を急ぐ必要がある。また、簡易迅速な紛争解決手続である仲裁や調停などの整備も必要である。

第5 結び

1 パブリックコメントの結果

中間試案について行政手続法に基づく意見公募手続(パブリックコメント)が行われ、その結果が2021年6月21日に公表された[51]
丙案(新たな訴訟手続を設けない)に賛成する意見が最も多い。消費者団体、労働団体などいわゆる市民団体はすべて甲案や乙案の新たな訴訟に反対している。そして、丙案賛成の意見は、数だけでなく、理由も多く述べられている。

甲案の制度に賛成する団体は、提案者の裁判所と司法書士会(代理人強制でないことを条件とする)と裁判所職員である書記官の協議会だけである。司法書士は、弁護士が付く制度とすることに強く反対している。日本司法書士会連合会は、甲案が弁護士が付く制度になるのであれば、丙案に賛成するとしている。

乙案の制度に賛成する団体は、一つの弁護士会だけで、賛成は少ない。

2 結論

新たな訴訟手続は、甲案、乙案ともに、立法事実(必要性)が乏しいこと、憲法上の裁判を受ける権利、法的審問請求権を侵害するおそれがあること、粗雑な審理になって誤判が増えるおそれがあることなど、重大な問題がある。外国調査はなく、検討・議論が十分にされていない。パブリックコメントの結果、導入に賛成する意見は少ないことが明らかである。わが国の司法の質を落とし、信頼を失うおそれを否定できない。よって、新たな訴訟は設けられるべきではないと考える。

以上

(文末脚注)

[1] 法制審部会参考資料11「『民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案』 に対して寄せられた意見の概要」(法制審ホームページ)

[2] 笠井正俊「特別訴訟手続」(ジュリスト1551号69頁)。「民事裁判のIT化」(座談会)(ジュリスト1555号60頁以下)。

[3] 中間試案8頁以下、中間試案の補足説明70頁以下(法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会ウェブサイト)。

[4] IT化研究会第9回議事要旨14頁、22頁等の最高裁担当者の発言から最高裁の提案であることがわかる。

[5] IT化研究会第9回資料9-2。

[6] IT化研究会第12回資料12-4。

[7] 笠井正俊「特別訴訟手続」ジュリスト1551号69頁。

[8] IT化研究会第9回資料9-2

[9] 中間試案の補足説明46頁

[10] 「自由と正義」2020年11月号特集「裁判迅速化法問題の現状と今後の課題について」9頁。

[11] 「現代司法(第6版)」(日本評論社、2005年)53頁以下。

[12] 菅原郁夫「求められる民事訴訟とはー民事訴訟利用者調査をもとに考える」(NBL1002号12頁)。

[13] 中間試案の補足説明46頁。

[14] 法制審部会第3回資料5の16頁。

[15] 山本和彦「手続保障再考(実質的手続保障と迅速訴訟手続)」(井上治典先生追悼論文集「民事紛争と手続理論の現在」所収、2008年)160頁(以下では、山本・手続保障再考とする)。

[16] 山本和彦「当事者主義的訴訟運営の在り方とその基盤整備について(「民訴雑誌」55号、2009年)」61頁以下(以下、山本・訴訟運営という)。

[17] 山本・手続保障再考160頁。

[18] 山本和彦「訴訟と非訟」23頁(「講座実務家事事件手続法()」所収)(2017年)(以下、山本・訴訟と非訟という)。

[19] 山本・訴訟と非訟20頁。

[20] 瀬木比呂志「民事訴訟実務と制度の焦点」(判例タイムズ社、2006年)701頁以下。

[21] 笹田栄司「統治構造において司法権が果たすべき役割」(第7回)(判時2391号120頁)及びそこに紹介されている文献参照。

[22] 中野貞一郎「民事手続の現在問題」(判例タイムズ社、1989年)13頁以下。

[23] IT化研究会資料13-3の5頁

[24] 松本博之名誉教授の講演要旨「『特別訴訟等の問題を考える会内シンポジウム』開催報告」(「月刊大阪弁護士会」2020年3月号)。

[25] 宮崎繁樹編「解説・国際人権規約」183頁。

[26] 山本・訴訟と非訟22頁は、非訟前置の制度の提案についてであるが、同じ裁判官であれば、訴訟になっても「判断が覆る可能性は低い」ことを認め、「そうなれば当事者は移行自体を諦め、実質上、裁判を受ける権利が侵害されるおそれも否定できない」としている。

[27] 第2版注解民事訴訟法(4)310頁、311頁。

[28] Stein/Jonas Kommentar zur ZPO 22.Auflage,§300 Rn.6 f.

[29] Musielak Kommentar zurZPO,9.Aufl., §300 Rn.8

[30] 「アメリカにおける民事訴訟の実情」(法曹会)(1997年)、関戸麦ほか「わかりやすい米国民事訴訟の実務」(2018年)等。

[31] 中間試案の補足意見49頁

[32] 山本和彦「民事訴訟法10年」(判タ1261号、2008年)100頁(以下、山本・10年という)。山本和彦「審理契約再論―合意に基づく訴訟運営の可能性を求めて-」(法曹時報53巻5号1152頁、2001年)(以下、山本・再論という)。

[33] 笠井正俊「特別訴訟手続」(ジュリスト1551号70頁)。

[34] 山本・再論1132頁も認める。

[35] 三ヶ月章「民事訴訟法」(第二版)334頁。議論は山本・再論1138頁~1140頁に紹介されている。

[36] 井上治典「『合意』から『かかわりのプロセスへ』(民訴雑誌43号144頁、1997年)

[37] 山本・手続保障再考160頁。

[38] 最高裁の裁判迅速化検証報告書(第8回)の過払金等以外の事件の2018年のデータ。

[39] 世界銀行の国際比較統計「契約履行手続き(日数)国別ランキング」(2019年データ)。

[40] 最高裁「諸外国における民事訴訟の審理期間の実情等の概観」(2007年5月11日の裁判迅速化検証検討会資料2)。

[41] 山本・10年93頁。

[42] 福岡民事実務改善研究会「新しい民事訴訟の実務に向けて(現在と将来の訴訟実務をどう考えるか)」(判タ1316号33頁、2010年)。

[43] IT化研究会報告書74頁

[44] 法制審部会第3回議事録49頁。

[45] 中間試案の「新たな訴訟手続」の注1

[46] IT化研究会第12回資料12-4(6頁)は、当事者に通常訴訟への移行申立を認めると、「本提案の目的が没却されるおそれがある」として移行申立を認めないとしていた。

[47] 山本・10年97頁は、審理計画は「ほぼ死文化している」とする。定塚誠「労働審判制度が民事訴訟法改正に与える示唆」(「現代民事手続法の課題―春日偉知郎先生古稀祝賀-」所収、2019年)795頁も、審理計画は「実際にはほとんど使われていない」とする。

[48] 中間試案の「新たな訴訟手続」の注4。

[49] 特集「弁護士は民事裁判をどう見ているか」(大阪弁護士会の弁護士アンケート調査)(自由と正義2013年8月号33頁以下)。佐藤歳二「勝つべき者が勝つ民事裁判を目指してー事実認定における法曹の心構えー」(「伊藤滋夫先生喜寿記念 要件事実・事実認定論と基礎法学の新たな展開」所収、2009年)、富田善範「現代の民事裁判と裁判所の役割」講演録(平成28年5月司法研修所特別研究会7)(弁護士山中理司ブログ)。

[50] 日弁連「民事裁判手続等IT化研究会報告書―民事裁判手続等のIT化の実現に向けて-」に対する意見書(2020年6月18日)

[51] 法制審部会参考資料11「『民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する中間試案』 に対して寄せられた意見の概要」(法制審ウェブサイト)

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