2019年4月20日 (土)

裁判所の所持品検査の問題(家裁でも始まりました)

大阪家庭裁判所は、今年4月1日から、裁判所に来る人に対する金属探知機とX線装置による所持品検査を導入し、それに伴い出入口を1か所に制限しました。大阪地裁は昨年から導入しており、それに続くものです。大阪弁護士会の司法制度に関する委員会で議論がされ、私も参加しました。どういう問題であるかをご紹介いたします。

国民は裁判を利用する権利があり、裁判所に自由に出入りする必要があることや、裁判は公開が原則であり、誰でも裁判所に入れるようにする必要があること等の理由から、従前は裁判所で所持品を検査するようなことは行われていませんでした。最初に、オウム真理教事件の審理が行われた東京地裁で所持品検査が行われ、その後2013年に札幌高地裁、東京家裁・簡裁、2015年に福岡高地裁、2018年に大阪高地裁、仙台高地裁、千葉地家裁、横浜地裁、さいたま地家裁、名古屋高地裁、神戸地裁、広島高地裁で実施され、2019年4月から大阪家裁、京都地裁、高松高地裁などでも実施されています。朝日新聞の2019年4月19日夕刊で、各地で不満が出ていることが報道されました。

裁判所における所持品検査については、札幌、仙台、大阪、京都、香川など多数の弁護士会が、反対、あるいは実施の見送りや、慎重な検討を求める意見・要望を出しています。大阪弁護士会は、大阪高地裁に対しては2017年10月25日に慎重な検討を申し入れました。また大阪家裁に対しては、2019年3月14日付書面で「大阪家裁における所持品検査の実施は、人権侵害のおそれがあること、裁判を受ける権利や裁判の公開の原則を含めた裁判所のあり方に関する重大な問題であること、入庁方法等の変更は市民及び弁護士などに大きな影響を及ぼすこと、家庭裁判所特有の配慮が要請されることなどから、慎重な対応が必要であり、立法事実の有無、他の方策の有無、予算などを明らかにした上で、弁護士会、市民などとの意見交換を行うなどして、実施の可否についてさらに慎重な検討が行われるよう要請する」との意見を申し入れました。しかし、裁判所は4月1日から実施に踏み切りました。

国民の所持品は、憲法35条により、住居等と同様に令状なしには捜索や検査を受けることがないことが保障されています。憲法のこの規定を知っておられる人は多くないかもしれませんが、法の番人である裁判所は率先して遵守しなければなりません。最高裁昭和43年8月2日判決も「所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であって、その性質上、常に人権侵害のおそれを伴うものである」と述べています。裁判所は、仙台地裁で2017年に刑事被告人が傍聴席にいた警察官に刃物でケガをさせた事件があったことなどを実施の理由にしていますが、それ以外にどれだけどのような事件があったかを裁判所は明らかしていません。もちろん暴行等の事件はあってはならないことですが、裁判所の外では防げないわけで、ここまでのことを行うべきかは、もっと検討されるべきであると思われます。

各地の裁判所は、市役所や税務署や労基署などと同様に、市民が利用しやすく、開かれたところであることが望まれます。昨年、大分地裁に行ったときは、人員削減のせいか、玄関に守衛さんもおられないのですが、玄関と廊下で通りがかりの職員2人が「行き先はわかりますか。ご案内しましょうか」と声をかけてくれました。また、岡山地裁では、玄関を通った職員がにこやかに会釈をしてくれました。それと比べて、今の大阪の裁判所は、いかつい男性警備員が仁王立ちをして裁判の当事者らを待ち構えており、その光景は異様です。先日は、当事者の男性の靴の底の見えないところに金属が使われているらしく、靴まで脱がされて困っておられました。地域の住民のための裁判所は、人々があまり出入りしない中央省庁とは異なることを、最高裁は自覚する必要があると思います。

最高裁長官は2017年1月の裁判所時報の「新年のことば」で、ハンセン病を理由とする開廷場所の運用が違法であったことを認め、裁判所では人権に対する鋭敏な感覚を持って仕事をすることが求められると述べています。しかし、所持品検査問題については、到底鋭敏な人権感覚があるとは思えません。既に大阪地裁では、車いす利用者が、ゲートの幅が足りずに通り抜けられず、民間警備員から、身体に触れられたり、荷物を取り出されたりする事例がありました。車いす利用者らが大阪地裁に抗議と改善を申し入れ、大阪高地裁は、2019年1月、配慮を欠いた対応があったことを認めました。

所持品検査は、民間の警備会社に委託しており、大阪高地裁だけでも、年間1億2199万円という巨額な費用になっています。それだけの国費を支出して行うべき必要があることかについて、必要性、方法などを総合的に検討することが求められます。(弁護士 松森 彬)

2019年4月13日 (土)

遺言はどのくらい書かれているか

1 これまで日本では、内縁の夫婦などを別にして、遺言を書くことは多くなかったように思います。ただ、最近は、公正証書遺言の作成件数が10年前の1.5倍になったという報道もあり、増えていると言います。一体どの位の人が遺言を書いているかを調べてみました。

2 遺言は、公正証書遺言と自筆証書遺言があります。公正証書遺言の方が多く、2017年に作成された件数は11万0191件でした。2007年が7万4160件でしたので、公正証書遺言を作る人が10年で5割増えています。

また、自筆証書遺言は、毎年の作成件数はわかりませんが、死後に家裁へ提出して検認する必要がありますので、検認の件数を調べると、2017年は1万7394件でした。2007年は1万3309件で、1997年は8895件でした。死亡者数に占める割合は、1997年は死亡者91万人の1.0%でしたが、2017年は死亡者134万人の1.3%ですから、率が増えてはいます。ただ、それでも全体の1.3%です。

3 公正証書遺言は、自筆証書遺言の5~6倍程度多く作られているようですので、死亡者の7%程度でしょうか。自筆証書遺言の1.3%と公正証書遺言の約7%を足した約8%程度が、わが国で最近作成されている遺言の割合ということになると思います。

4 この約8%程度という割合は、次の検討からも言えると思います。すなわち、公正証書遺言が年間約11万件作成され、また、自筆証書遺言が年間約1万7000件程度作成されたとして(この数字は検認の件数ですが、今の作成はもっと多いと思われますので)、合わせておおよそ年間約13万件の遺言が作成されているようです。亡くなった人は、2017年の場合、年間134万人です。2017年に遺言を書いた約13万人が亡くなるのは将来で、将来はもっと死亡者数が増えると思われますので、遺言を書く人は全体の1割弱程度ということが言えそうです。また、2017年の65歳以上の高齢者人口は3515万人(人口全体の28%)です。遺言を書くことが多いと思われる60歳から80歳位までの人が毎年約13万人ずつ遺言を書くと、20年間の遺言の総数は260万件になります。これは3515万人の高齢者人口の約7%にあたります。

5 このようにみますと、最近は1割弱の人が遺言を書くようになっていると言えそうです。私は、遺言を書く人はもっと少ないと思っていました。遺言を書く人は結構増えているなと思います。

6 相続や遺言をどう考えるかは、人によっていろいろな考えがあると思いますが、私は、法律も、どういう理念でできているのかが、あいまいであると思います。たとえば遺言を望ましいと考えているのか、あるいは法定相続を原則の形と考えているのか、はっきりしません。それは、相続と遺言についての法律制度が、歴史的にさまざまあるからのようです。遺言は、古代のローマ法の時代からあったといいます。イギリスやアメリカでは遺言を書く人が多いといいますが、ドイツはそれほど使われていないとも聞きます。日本でも江戸時代に遺言に似た制度があったといいますが、明治時代以降は、遺言はあまり使われていません。財産は生前に使い切ろうと、ドブに捨てようと、全部寄付しようと、個人の自由であると言いますが、個人の財産処分の自由をどこまで認めるか、また、家族の財産保護を考えて遺留分制度を設けるかなど、国により、また時代により色々な考え方があるようです。個人の財産処分の自由の考え方に立てば、遺言による死後の財産の処分を自由に認めてよいという考え方になりますが、他方、家族にも財産について権利がある場合もあるでしょうし、また、子に渡すときは平等に扱うのが人間の平等という理念からは望ましいともいえます。今の法律は、遺留分という一定の制限は設けながら、遺言で自由に処分ができることを認めているのですが、他方で、法律は、遺言がなければ平等な相続分にするとしています。いくつもの価値観が折衷されてできている制度であるように思います。相続をめぐる紛争が少なくないのは、国として相続制度の適切なあり方や使い方について検討や情報提供が十分にできていないことも影響していると思います。(弁護士 松森 彬)

 

遺言があるために、もめることがあります

1 最近、遺言について書いた記事が週刊誌などにたくさん出ています。高齢化社会になり、関心を持つ人が増えているためと思われます。記事の多くは、遺言を勧めており、なかには「遺言は書くのが常識」とあおっているものもあります。しかし、私は、遺言は内縁の夫婦や子のないときなど書いておく必要がある場合もありますが、必ず書くべきであるとまでは思いません。それは、遺言をめぐる争いをたくさん見てきたからです。遺言を書くように言うのは、公正証書遺言を書くのを職業にしている公証人や、弁護士以外の士業の人が多いように思います。弁護士は、書く場合も、もめないように工夫すること、たとえば生前から話しておくように助言する人が多いように思います。

2 週刊朝日が「死後の手続き」というシリーズで遺言を取り上げていて、取材があり、遺言をめぐる紛争を説明しました。また、大阪弁護士会の「遺言・相続センター」が出している「遺言相続の落とし穴」という本を紹介しまして、遺言の危険性も書いてほしいと言いました。週刊朝日の2019年3月15日号に私の説明が掲載されましたので、ご紹介します。

■遺言に対する全般的な考え

 「子どもがいなくて配偶者にすべて相続させたい場合や、事業資産を特定の後継ぎに承継させたい場合など、遺言が効果的なケースはあります。一方で、相続人が配偶者と子だけで、子に平等に相続させたければ遺言は不要といえます。どの財産をだれに、と指定したい点もあるかもしれませんが、事情が変わる場合もあり、かえってもめる恐れがあります。遺言があれば紛争にならない、と考えるのは早計です。遺言は、それが原因でもめることも覚悟のうえで、自分の遺志として残したい内容があるかをよく考えて作るべきだと思います」

■遺言があるともめる理由

「①書いてから死亡まで、数年あるいは10年以上も経過します。その間に介護など様々な事情が変わり、内容の妥当性が失われることがあり、相続人が不満を持ちます。②遺留分制度がありますので、遺言のとおりにはできるとは限りません。また、遺留分が確保されても、多い人と少ない人ではかなり差がつきますので、不満が出ることがあります。③遺言を書く人と相続人の間で、差を設ける理由や土地の評価などについて認識にズレのあることがあります。④複数いる子の一人が親に遺言の作成を頼む場合があり、親の本意かどうかが微妙で、そのような場合も紛争になることが多いと思います。」

■遺言より生前のコミュニケーションを

 「遺言を書く場合は、相続人の間で差をつける分け方を指定することが多いと思います。ただ、その分け方の理由を書いても、納得しない相続人が出てきます。生前から口頭で考えを伝え、了解を得るのがよいでしょう。遺言に頼るのではなく、生前のコミュニケーションに力を入れることが大事だと思います。また、遺言は、状況の変化に応じて書き換えることも必要ですが、公正証書遺言は費用や手間がかかることもあって、何度も作成するのは面倒です。それが相続の争いを生む一因にもなっています」

3 エンディングノートの勧め

私は、遺言は必要があるときに書くのがよいと思いますが、エンディングノートは、できるだけ書いておくのがよいと思います。エンディングノートは、いざというときのために、終末期医療についての希望、葬儀の仕方、親族、友人、銀行口座その他財産の明細などを記載するものです。遺言は残さず、エンディングノートに財産の明細を記載して相続人で仲良く協議して分割することを求めるのも、紛争を生まない一つの方法だと思います。なお、エンディングノートに財産の分け方について書くと、自筆証書遺言に当たらないかという問題が生じます。遺言として書くときは正式に遺言として書くことにして、エンディングノートには具体的な財産の分け方について書くのは避けるべきです。(弁護士 松森 彬)

 

2019年2月27日 (水)

刑事事件の弁護士費用が出る保険ができました

  今年(2019年)1月、新たに、自動車を運転中に事故を起こして刑事事件になるときに、弁護士の相談費用や裁判費用が出る保険ができました。これは、損害保険ジャパンが販売を始めたもので、自動車保険の特約として付けることになります。

 一般に、自動車保険に入っていれば、被害者に払う損害賠償金と裁判を起こされて弁護士に頼むときの裁判費用も保険から出ます。また、弁護士費用特約を付けていますと、自身が被害者となり、ケガをしたり車両が傷んだりして損害賠償請求を弁護士に委任する費用も保険から出ます。しかし、刑事事件になり捜査や裁判を受けるときに弁護を依頼する費用が出る保険は、これまでありませんでした。刑事裁判の弁護士費用は、以前大阪弁護士会の司法制度の委員会で実情の調査をしたことがありますが、平均的な事件で着手金が30万円程度、そして執行猶予が付くと報酬金が30万円程度でした。新たに発売された保険では、この刑事裁判費用も一定の基準のもとで保険でまかなえることになります。

今のところ、この保険を扱っているのは損害保険ジャパンだけですが、この弁護士費用保険の特約を付けておくと、弁護費用の全部又は一部が保険から支払ってもらえることになります。保険料は、年間3800円です(民事事件の弁護士費用も対象に入っています)。自動車事故だけでなく、日常生活で被害を受けた事故も含めて弁護費用が出る種類の特約もあり、その場合は年間6000円です。 

ヨーロッパでは、国民の多くが裁判費用の保険に入っています。昨年、日弁連の委員会(リーガル・アクセス・センター)の委員がスウェーデンの権利保護保険(ヨーロッパでは弁護士費用保険のことを権利保護保険といいます)の調査に行ってこられました。スウェーデンでは、96%の国民が権利保護保険に入っているそうです(日弁連の2019年1月号の新聞)。イギリスやドイツなどでも弁護士に頼んで権利を守ることができる権利保護保険に入っている人が多いのですが(10年程前の数字ですがイギリスでは約6割、ドイツでは約4割と聞いています)、スウェーデンの96%という加入率には驚かされます。スウェーデンは、従前は法律扶助制度により裁判費用をカバーしていましたが、1997年からは法律扶助に絞りをかけ、保険による支払に移行してきているようです。
 日本では、弁護士費用の保険は、一部の保険を除いてほとんどは自動車事故や日常生活の事故に限られていますが、ヨーロッパでは、不動産の問題や離婚の裁判でも弁護士費用が保険から出ます。そういう保険があれば、問題があって泣き寝入りをすることは格段に減ると思います。日本は医療の分野では国民皆保険が実現していますが、司法の分野は保険の整備が遅れています。今回、自動車事故の刑事裁判を対象とする保険ができたことは、少しですが一歩前進といえます。(弁護士 松森 彬)

2019年1月27日 (日)

高裁の裁判の仕方(民事控訴審の訴訟活動)

1 民事控訴審の充実のために

 

2018年11月16日、大阪弁護会館で、「弁護士は民事控訴審においてどのように訴訟活動をすべきか」をテーマにしたシンポジウムが開かれました。私は、このシンポジウムを開催した委員会の委員でしたので、要点をご紹介します。
 このシンポジウムを開催したねらいは、次のとおりです。民事控訴審では裁判所の主導で事後審的運営と呼ばれる審理方式が進んでおり、当事者・代理人から不満が出ていますが、それについては近畿弁護士会連合会は2018年8月3日に民事控訴審の審理に関する意見書を発表しました。これは裁判所に対する注文でしたが、この検討をするときに、訴訟代理人である弁護士にも民事控訴審の充実のために求められることもあるのではないかという指摘があり、このシンポジウムでは代理人に求められることをまとめたものです。
訴訟代理人に求められることを拾い出すために、控訴審の訴訟活動が功を奏して逆転の勝訴判決又は勝訴的和解を得たケースを調べることにしました。会員へのアンケートで約30例の提出があり、委員会ではそれを分析しました。また、従前行われた高裁裁判長の講演録を読み、また、当日講演をお願いした中村哲・元大阪高裁裁判長の他、多数の高裁の裁判長経験者からご意見をお聞きして、参考にさせていただきました。
 なお、近弁連の意見書にあるように、原則第1回期日で結審するという今の方式が見直されれば、代理人が気を付けなければいけない点は減りますが、とりあえず、今の裁判所の事後審的運営を前提にして弁護士に求められる訴訟活動が提案されました。

2 控訴審で求められる訴訟活動
(1)早くとりかかる
一審判決の事実認定や法的解釈が納得いかないときに控訴するわけですが、控訴の理由を書いた控訴理由書を50日以内に提出する必要があります。又、第1回期日は控訴してから3か月前後で開かれます。そこで、控訴を決めたときは、すぐに控訴審での主張と追加の立証の準備にかかることが必要です。

今の控訴審は、第1回期日の前日又は数日前に裁判官3人による合議をして、心証を固めるようですから、それまでに主張と証拠を出しておく必要があります。控訴理由書の提出や証拠の提出が遅れるときは、あらかじめその旨を裁判所に申し出ておくことが大事です。

 

(2)リセットして見直す
 控訴するときは、一審での主張や立証がそれでよかったかを見直し、一度リセットして組み立てることが必要です。私の事務所では、昨年暮れに控訴審で逆転勝訴の判決を得ましたが、これは地裁では別の弁護士が担当されて敗訴し、控訴審から受任した事件でした。代理人が変わることで、主張と立証を全面的に見直し、それが功を奏したと思います。代理人が変わることは少なく、同じ代理人であることがふつうですが、その場合も、主張立証は十分であったかを虚心に検討して取り組むことが必要だと思います。

(3)追加の証拠
 控訴審で逆転勝訴した事件の多くは、控訴審で追加して証拠を出しています(関係者の証言や陳述書、あるいは文献、医師の鑑定書や学者の意見書など)。そのことが示すように、追加の証拠を出すことが控訴審で功を奏する結果につながることが多いといえます。これらの用意は一定の時間が要ることですので、控訴したときは、直ちに取りかかる必要があります。

 

(4)控訴理由書が大事
 高裁の裁判官は、独自に記録を読んで一審判決が正しいかどうかを考えると言いますが、なかには一審判決と控訴理由書を先に読む裁判官もあるようです。控訴理由書が説得力のあるものかどうかは、やはり重要です。

 

(5)第1回期日にコミュニケーションを
 近弁連の意見書は、最近は、裁判官と当事者とのコミュニケーション、意思疎通ができていないことを指摘し、第1回期日に、争点や審理の仕方についてコミュニケーションを交わすことを求めています。代理人も、第1回期日に、これらの点について発言し、裁判官と意見を交わすことが大事です。
(大阪弁護士会月刊誌2018年12月号45,46頁に今川忠弁護士がシンポジウムの概略を書いておられます)。(弁護士 松森 彬)

 

2019年1月15日 (火)

「親切な裁判」と「不親切な裁判」

 長い間、続いていた離婚訴訟が、大阪高裁の裁判官の尽力で、昨年、和解(合意による訴訟終了)により終了しました。この件で、私は、「妥当な判断」と「親切な裁判」が当事者にとって如何に有り難いものであるかを痛感しました。

 裁判は、夫が別の女性と同棲し、妻に離婚を求めたものでした。私は、妻から委任を受けました。妻は、離婚を拒否しており、裁判による離婚が認められるかという争点があったうえ、暴力や財産をめぐって事実を解明するべき問題が多く、家庭裁判所の調停と訴訟で4年かかりました。家裁は、夫婦間の財産の争いのいくつかを民事事件であるとして地裁に移送していましたので、妻は地裁での訴訟も抱えていました。家裁の判決は、妻からみると夫の言い分を不当に取り入れたものであり、妻は高裁の判断を仰ぐため控訴しました。

 大阪高裁には14の部がありますが、この事件が係属した部の裁判長は、第1回の期日に、審理の継続を決めるとともに、「時間がかかっているので裁判所で和解案を提案したいがどうか」と発言され、「和解案は、高裁の事件だけを解決する案と、地裁で係属中の事件も含めて解決する案の二つを作って提案する」とのことでした。地裁で審理中の事件も一緒でなければ当事者にとって合意による係争終了は考えにくいことでしたから、この提案は当事者双方にとって有り難いことでした。

 

 地裁に係属している裁判の準備書面と証拠は高裁にありませんので、夫側と妻側がそれぞれ書類の写しを高裁に提出し、高裁の裁判官らは、それを読んでそちらの件の和解案も考えるとのことでした。
 書類を提出して約1か月後に、高裁から2通りの和解案が双方に示されました。双方は、地裁の事件も含めて一挙に解決する和解を希望し、2回協議した結果、修正した案で和解が成立しました。

 裁判官は、公務員であり、事件をたくさん解決したからといって給料が増えるわけではありません。割り当てられた手持ちの裁判記録に加えて別の裁判の記録を読むというのは仕事を余計にすることになります。それでも、この裁判長らは、当事者が困っているだろうという思いから、手間をいとわずに係争の解決に尽力されました。
 すべての裁判官が、このように親切であれば、国民の裁判所に対する敬意と感謝、そして信頼はもっと高まると思いました。

 私は、同じこの事件で、逆に「裁判所の不親切」も経験しました。第1審の家裁の裁判官ら(合議体)は、夫婦間の或る財産問題(夫から妻への毎月一定額の支払の約束)について約2年間、審理をしておきながら、判決で、夫婦間の債権債務の存否は家事事件ではなく民事事件であり地方裁判所で審理されるべきであるとして、離婚事件では判断しないとしました。そこで、妻は地裁に改めて提訴して、一から審理することになりました。家裁の判断の当否に疑問がありますが、仮に、家裁の裁判官が、そのように解釈するのであれば、2年間の審理中に判断を示すべきであったと思います。今回は、たまたま親切な高裁の裁判官に当たったので一挙に解決ができましたが、そうでなければ、解決の遅れにつながったと思います。
 

 このように、裁判官次第で「親切な裁判」もできるのですが、「不親切な裁判」も行われています。アメリカでは、国民の裁判所に対する信頼が高いと聞きます。裁判所に行けば納得のいく手続と結果が期待できるというイメージがあるのでしょうか。最近の高裁は、何も言わずに1回で結審して、なかには逆転判決をすることもあり、弁護士には、高裁は何を考えているか、何をするかわからないので怖いという人もあります。裁判所は怖がられるところではなく、この裁判官らが実践されたように、親切で、感謝されるところであってもらいたいと改めて思います。(弁護士 松森 彬)

 

 

 

2018年11月29日 (木)

民事控訴審の改革を求める(第2回)―近弁連の意見書―

1 近弁連は「民事控訴審の審理に関する意見書」を発表

近畿弁護士会連合会(近弁連)は、今年2018年8月3日に「民事控訴審の審理に関する意見書」を発表し、大阪高裁を含め全国の8つの高裁と最高裁、法務省に送りました。意見書の要旨は、下記のとおりです。意見書は近弁連のウェブサイトの宣言・決議の欄に掲載されておりますのでご覧下さい。
(アドレスは、http://www.kinbenren.jp/declare/2018/2018_08_03.pdfです)。

民事控訴審の実情と意見書が作成された経緯については、ブログの2018年11月26日の「控訴審の改革を求める(第1回)」の記事に書いています。

 

2 高裁に求める4つの意見 

意見書は、高裁に対する要望として次の4点の意見を述べています。

(1) 裁判官と当事者との十分な意思疎通

控訴審で、裁判所は争点と証拠の評価などについて当事者と十分な意思疎通、コミュニケーションをはかるように求めています。

(2) 適切な釈明権の行使など

高裁が、争点や証拠の評価が地裁、家裁の判決とは異なる結果になる可能性がある場合などは、争点を再整理したり、釈明権を行使したりして、双方の意見を聴取し、あるいは双方に主張立証の整理を促して審理を尽くし、不意打ちの判決にならないように求めています。

(3) 人証の証拠調べ

控訴審は、地裁・家裁で十分な人証の調べができていないときや、地裁・家裁と違う争点で判断をするようなときは、人証の証拠調べをするように求めています。

(4) 第1回期日

第1回期日は、争点や証拠の評価、追加の主張立証などについて当事者と十分な意思疎通、コミュニケーションをはかることとし、争点や証拠の評価などについて認識の共有化ができていないときは、第1回期日には結審せず、続行して審理をするように求めています。

 

3 意見の理由

最近の高裁は、第1回期日で結審する割合が8割近くにまで増えています。しかも、法廷では形式的な問答があるだけで、争点、論点など中身について話しをして、裁判官と当事者が認識を共有化する場になっていません。

このような実情になった主な原因として、2000年頃まで控訴事件が増えて忙しくなった高裁が審理を省略化したことと、2004年の最高裁司法研修所の司法研究(論文)の影響が考えられます。この司法研究でも、少なくとも事前協議と第1回期日の2回の期日を想定していましたが、今は、事前協議はなく、まさに1回の期日だけで終わるのですから、その審理方式は司法研究の立場でも不十分です。

その結果、当事者、代理人弁護士から今の高裁の審理について不満や意見が多数出ています。弁護士にアンケートをして報告があった事例を検討しましたところ、期日が1回だけのために裁判で本来必要な裁判所と当事者との意思疎通、コミュニケーションが控訴審ではほとんどできていない実態がうかびあがりました。1回で無理に終わろうとして、必要な人証調べが行われていない事例があることも明らかになりました。1回で結審して、その後、強引に和解が勧められることについても不満が多数ありました。具体的にどのような問題があったかがわかる22件の事例を意見書は末尾に資料として添付しています。これはいわば氷山の一角で、2012年に大阪弁護士会が会員に対して行った民事裁判に関するアンケート調査では、高裁の審理に問題があったという回答が多かったことから、高裁の審理に問題があり、当事者・弁護士が不満を抱いた事例は、かなりの割合で存在すると思われます。

 

4 提言

問題があると思われた事例を分類すると、今回の意見書にある4つの提言の実施が必要であるという結論になりました。

1つは、裁判所と当事者との間で十分な意思疎通、コミュニケーションができていないので、その点を実現すること、2つは、裁判所が争点・論点と考える点及び疑問に思う点などを質問したり、指摘したりするなどして、裁判所の問題意識を当事者に伝えること、3つは最後の事実審であり、必要な人証調べなども行うべきであること、4つは、第1回期日での結審を原則とせず、第1回期日には充実した協議を行い、当事者双方が第1回期日での結審に異議がない場合を除き、原則として第2回期日以降の結審とするのが望まれることです。

控訴審が迅速、公正、充実したものとなるためには、訴訟代理人である弁護士も、控訴審での訴訟活動において、書面や証拠の提出期限を遵守することはもちろん、できるだけ迅速に主張立証をすることなどが求められます。意見書は、その点も確認しています。ただ、代理人が努力しても、証拠の採否も、結審の時期も、すべて裁判官の権限ですので、決定がされれば、当事者、代理人は手段がありません。

弁護士法(1条2項)は、弁護士の使命の1つとして、法律制度の改善に努力することを定めており、近弁連は、司法の発達改善に関する活動を目的の1つにしています。そこで、近弁連は、この度、控訴審の現状を憂い、審理の改善・改革を求める意見を出しました。

控訴審の裁判が、当事者から、丁寧で、親切であったと言われるように、審理の仕方が改められることを期待いたします。(弁護士 松森 彬)

2018年11月26日 (月)

民事控訴審の改革を求める(第1回)―高裁の控訴審の実情と問題点―

1 高裁の大きな役割
 地裁や家裁の判決について不服があるときは、控訴をして、高等裁判所の判決をもらうことができます。
 高等裁判所は、全国に8か所の本庁と5つの支部があります(東京、大阪、名古屋、名古屋高裁金沢支部、広島、広島高裁松江支部、福岡高裁、福岡高裁宮崎支部、福岡高裁那覇支部、仙台高裁、仙台高裁秋田支部、札幌高裁、高松高裁)。
 2015年(平成27年)は、全部で1万5066件の控訴事件がありました。地裁・家裁の判決は、高裁で2割から2割5分の割合で全部又は一部が変更されています。判決以外に高裁の裁判官の意見で逆転した内容の和解がされる例もあり、実質的に判断が変る率は結構高いといえます。ドイツでは、少し前の数字ですが、高裁で48%の率で判決が変更されているといいます(最高裁の平成11年の司法制度改革審議会における意見陳述)。これらの事実は、裁判は人によって相当に判断が異なることになることを示していると思います。

変更がかなりある理由は、地裁は一人の裁判官で判断するケースが多いのですが、地裁の裁判官は平均して若く、裁判官としても社会人としても経験が少ないため、事実の見方や法律の解釈が必ずしも適切ではないこともあるからです。高等裁判所の裁判官は地裁の裁判官よりも年齢や経験も上であることが多いうえ、3人の合議で決めますので、地裁の判断の誤りを是正することが少なくありません。このように、当事者や代理人の弁護士からしますと、地裁や家裁の判決が納得のいかないときには高裁での是正を期待することが大です。

しかも、かつては三審制と言われたように、最高裁に上告することがありましたが、民事訴訟法が改正されて最高裁への上告が制限されましたので、憲法に関わるような事件は別にして、通常の民事事件は控訴審が事実上最後の裁判になります。その意味でも高裁の役割と責任は大きいといえます。

2 高裁の裁判に対する当事者・代理人弁護士の不満

かつては、高裁でも証人調べがあり、1985年(昭和60年)当時は、控訴審の事件のうち、当事者尋問を31%の事件で行い、証人尋問を28%の事件で行っていました。ところが、控訴事件が増えるなかで、高裁は証人調べをしないようになりました。現在は、当事者や証人の証言を聞くのは、全体の1%になっています。

また、高裁の裁判が1回だけの期日で終わるのは、1975年(昭和50年)当時は全体の僅か15%程度でした。そのときの控訴事件数は8332件でしたが、毎年、控訴事件数が増え、25年後の2000年(平成12年)には2倍近い1万5350件になりました。弁護士会は裁判官の増員を求めてきましたが、裁判所は、増員により裁判官の給与体系が引き下げられることをおそれ、長年にわたり増員の必要はないという態度を取ってきました。そのため、忙しい高裁への赴任が決まると、裁判官は仲間内の冗談で懲役3年だと言うこともあったようです。忙しい高裁の裁判官は徐々に証人調べを減らし、裁判期日の回数を減らしました。当初は自然発生的なものであった可能性がありますが、平成に入った前後(1989年前後)から東京高裁で意識的に証人調べをあまり行わず1回で結審する事後審的運用と呼ぶ審理方式を始め、それが全国に広まりました。2004年(平成16年)には、東京と大阪の高裁の裁判官4人が司法研究として「民事控訴審における審理の充実に関する研究」(法曹会)という論文を発表し、この事後審的運用をすべきとする提案がされました。高裁の裁判官は、ほぼ全員がこの司法研究を読んだといいます。それでも、この提案は、第1回期日の前に事前協議の期日を開くという提案をしていましたので、実質は少なくとも2回の期日を開くという提案だったのですが、その後、事前協議は裁判官にとって負担であるとして行われず、第1回の期日で終わるという部分だけが広まりました。現在、大阪高裁に14の部がありますが、事前協議をしている部は2つだけです。他の12の部は事前協議をせずに、原則として1回で結審するという運用をしています。その分、コミュニケーションが不足しています。なお、事前協議は裁判長は立ち会わず、主任の陪席裁判官だけが非公開の部屋で行うものですので、私たちは、通常の弁論期日の手続きで行うべきだと考えています。もちろん、高裁の裁判官の全員が事後審的運用をしているのではなく、なかには1回の期日で終わることを原則とせず、当事者や証人の話も聞き、丁寧な審理をする裁判官もおられます。ただ、多くの裁判官は原則として1回で結審するというやり方をしています。

 高裁の民事裁判は、2000年(平成12年)ころから事件数は横ばいで、増えていないのですが、この審理の仕方が当たり前のようになり、1回目の期日の結審だけはどんどん増え、2013年(平成25年)には78%に達しました。しかも、その中には、高裁の裁判官らは地裁の原判決と違う論点で逆の判断をするような場合でも、法廷で裁判官が質問も意見も何も言わないまま、逆転の判決を出すといった不意打ちの裁判もたくさんあります。最高裁判事を務められた元弁護士の講演会がありましたが、上告されてくる事件の記録を読んでいると、高裁の不意打ち裁判が気になったと言っておられました。

このような審理の仕方になったのは、古くは控訴事件の増加であり、その後は司法研究が大きな原因であるといえます。民事訴訟法の改正や裁判迅速化法の制定も一定の影響があったと思いますが、訴訟法は控訴審の性格は1審の続きであるとする点は変えておらず、裁判迅速化法もここまでの方式を求めているものではありませんので、変化の大きな原因は前記の2つと考えられます。法律が変わったのでもなく、法律家や学者、市民による議論で決まったものでもなく、なし崩しに裁判官の考え方だけで進められてきた点に、私は一番の問題があると思います。

 地裁の審理は、通常、期日が何度も開かれ、その都度、当事者(代理人の弁護士)と協議をしますので、裁判官は、当事者の意見を何度も聞き、自分でも何度も考えることになります。また、3人の裁判官で審理する合議の事件の場合は、裁判官同士で議論をする機会が何度もあります。ところが、今の高裁の裁判は、特別に難しい事件は別にして、ふつうは第1回期日までに地裁の裁判記録をそれぞれが読んでおいて、期日の前日又は数日前に3人で一度協議するだけで原則として結論を出しています。弁護士が、高裁の裁判では、裁判官が何を考えているかわからないというのは、期日にほとんどやりとりをしないからです。丁寧な審理をされた或る高裁の裁判官は、疑問に思ったことなどを当事者に尋ねたり、聞いたりして、あるいは証人の証言を聞くことで、新たなことに気付いたり、考えを改めたりすることもあったと言われます。仕事の性格上、裁判官には事実認定や法的解釈について決定する権限を与えられていますが、しょせん、人間のすることであり、思い違い、考え違いがあるかもしれません。今の高裁の審理の仕方は、そのような配慮が欠けていると思います。裁判は、神主のご託宣ではなく、十分な証拠調べと十分な議論という手続を踏まえての人のする判断ですから、裁判官には謙虚な姿勢が求められます。そして、裁判手続をすることについて基本的人権を持つ国民・市民に対して、国の公務員として、できるだけ丁寧に親切な審理をすることが求められると思います。1回で無理に結審せず、議論や立証のために複数回の期日を持つことになっても、それほど裁判が遅延したり、裁判官の負担が増したりするとも思えません。

3 弁護士会の取り組み

大阪弁護士会が2012年(平成24年)に行った民事裁判についてのアンケート調査で、高裁の1回結審や証人調べをしない審理について多くの弁護士が問題であると考えていることがわかりました(日弁連「自由と正義」2013年8月号掲載の「弁護士は民事裁判をどう見ているか」の記事参照)。私は、このアンケート調査を行ったプロジェクトチームの座長をしましたが、控訴審の実情は当事者、代理人弁護士にとって放置できない問題だと多くの委員が思いました。ある弁護士は、「高裁の裁判官の関心がわからないまま、引っ繰り返されたり、引っ繰り返したりということがあり、手続が尽くされていない」と書いておられました。

そこで、大阪弁護士会では、2016年(平成28年)1月に司法改革検証・推進本部の委員会に「高裁問題プロジェクトチーム」を設けて、控訴審がなぜこのようになったかを調べるとともに、会員に具体的な事例を聞くことにしました。プロジェクトチームの調査報告と意見の要旨は、「民事控訴審の審理の充実―実態調査を踏まえた提言―」(上、中、下)(判例時報2342号、2345号、2347号)に掲載されていますので、ご覧下さい。

その後、この問題は、大阪、京都、兵庫県、奈良、滋賀、和歌山の5弁護士会で組織する近畿弁護士会連合会(近弁連)で取り上げられることになり、近弁連は、「民事控訴審の審理に関する意見書」を理事会で承認して、2018年(平成30年)8月3日に発表しました。近弁連は、意見書を大阪高裁を含む全国8つの高裁と最高裁、法務省に送付し、審理の改善改革を要望しました。最近、大阪高裁で審理中の裁判で、裁判官が結審を急ぎますので、弁護士会の意見書を読んでおられるかを尋ねたところ、読んだということですので、意見は現場の裁判官の耳に届いているようです。意見書は近弁連のウェブサイトの宣言・決議の欄に掲載されており、ご覧いただくことができます(アドレスは、http://www.kinbenren.jp/declare/2018/2018_08_03.pdfです)。近弁連の意見書の内容については、次のブログ記事に書きます。(弁護士 松森 彬)

2018年11月15日 (木)

外国法事務弁護士(外弁)の今

外国の弁護士は、法務省の承認を得て、日弁連に「外国法事務弁護士」の登録をすることにより、日本で外国法に関する仕事をすることができます。日本法に関する仕事はできません。この外国法事務弁護士(略して「外弁」と言われます)の制度ができて、今年30年になります。

渉外法律業務の需要が高まってきたことと、アメリカなどから法律業務についての自由化を求められたことから、1986年(昭和61年)にこの制度ができました。外国の弁護士資格を持っているといっても日本法の知識がありませんので、日本法についての仕事や訴訟はできないことにされました。また、互いの国が同等に外国の弁護士を受け入れているという相互主義も要件にされました。ただ、その後も規制緩和の要請があり、私が日弁連の理事を2度したときも、外弁制度をどうしていくかは日弁連が頭を悩ますテーマの1つでした。

外弁制度は、度重ねる改正があり、現在では、日本の弁護士と共同事業をしたり、日本の弁護士を雇用したりすることもできるようになっています。世界的にみても、開放度の高い外国弁護士の受け入れ制度になっていると言えるようです。そのなかにあって、この制度が懸念された問題を生ずることなく需要に対応してきていることは、この間、日弁連、法務省をはじめ多くの関係者による丁寧な議論と検討があったからではないかと思います。

外弁の人数は、2018年7月1日現在、411人です。アメリカの弁護士が220人、イギリスの弁護士が78人、中華人民共和国の弁護士が36人、オーストラリアの弁護士が27人で、この4か国の登録者で8割を超えます。登録先はほとんどが東京で381人、大阪は10人、愛知県は5人です。仕事は、海外との商取引、企業の買収、投資などについての法律業務が多いようです。

日弁連の機関誌「自由と正義」(2018年10月号)に外弁制度30年の特集が組まれていました。そこに、中国の外弁が増えているという指摘がありました。増えている理由は、1つは中国の弁護士試験の変更で弁護士が増えていることと、中国企業の海外投資が増えたことではないかと言われています。

日弁連が頭を悩ましてきた外弁制度ですが、おおむね順調に来ているようです。(弁護士 松森 彬)

2018年10月 1日 (月)

司法の国民的基盤をどう育てるか(司法シンポジウムが開かれました)

先週土曜日は、日弁連主催の「司法シンポジウム」(第28回)があり、大阪弁護士会でもテレビ中継がありました。2年前の司法シンポジウムで、司法は国民的な基盤を持つことが重要であることが確認されましたが、今回は、その実践のための課題として、次の4つのテーマが取り上げられました。

1つは、裁判官制度の国民的基盤の1つである「弁護士任官制度」の現状と課題です。

英米では、裁判官はすべて弁護士経験者のなかから優れた人が選任されます。韓国も、最近、その制度(「法曹一元制度」)に変えました。日本は、司法試験に合格したあと、すぐに裁判官と弁護士、検事に分かれますが、裁判官の多様性を高めるため、司法改革で、弁護士からも多数の裁判官を選任する「弁護士任官制度」が決まりました。現在、裁判官の数は全部で3000人ですが、日弁連は毎年30人ずつ任官者を選ぶことを目標にしました。ただ、弁護士で裁判官になることを希望する人が少なく、最近は年間1人から3人という少なさです。広報活動なども行っているのですが、希望者が少ないうえ、裁判所が審査で受け入れない例も多く、「弁護士任官制度」の根本的な改革が求められます。シンポジウムでは、弁護士から裁判官になった人が多数出演するDVDが上映されました。弁護士経験が裁判官の仕事に役に立っているという話しが印象的でした。

2つは、司法改革でできた「裁判員制度」の現状と課題です。

この10年間に裁判員裁判で判決を受けた被告人の数は1万人を超えました。犯罪名は強盗致傷と殺人が多く、この2つで全体の半数になります。シンポジウムでは、裁判員経験者による交流会が全国に7つもあるとの報告がありました。裁判員制度については、経験してよかったと感想を述べる人が96%にもなりますが、裁判員候補者に選ばれても裁判所に行かない人が3人に1人にもなるようです。法律上は国民の義務ですが、勤務先の理解が得られないなどの理由から辞退を希望する人が少なくありません。裁判所によっては、呼出状に勤務先の協力を求める書面や裁判員経験者の感想文などを入れたりして、理解を求める努力をしているようです。裁判員を経験した人が周りに色々話すことができれば、裁判が国民に身近になると思いますが、今の守秘義務の範囲があいまいで、制度の啓蒙や広報の妨げになっていると思われます。裁判員制度は来年(2019年)5月に制度開始から10年を迎えます。日本の法律と司法は、明治時代に西洋から輸入したもので、国民の信頼を土台にしているとはいいがたいところがありましたが、そのイメージを変えていくために、裁判員制度は今後も大きな役割を果たすように思います。

他に、生徒、学生等に対する「法教育」の取り組みのテーマと、「市民と司法をつなぐ取り組み(マスメディアの役割など)」のテーマが取り上げられました(私は他の用事で参加できませんでした)。

日弁連は、1973年に大阪で第1回の司法シンポジウムを開きました。テーマは、裁判の遅延と裁判官の増員でした。そのときは私は弁護士になった2年目で、その会議は覚えていませんが、司法制度のあり方には関心がありましたので、その後、何度か実行委員にもなりました。弁護士会は、一貫して司法のあるべき姿と市民のための司法の実現について議論してきたと思います。今後も、その視点での活動が求められていると思います。(弁護士 松森 彬)

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